the Cat Met with Special Boxes.

第5話 マネキドリは謡う DECOY

まねきどりはうたうThe Inviting Bird will Chant

粗筋

荒巻は笑い男事件全体を警察による自作自演だと睨む。
9課はその証拠を掴む為、特別捜査本部がマークする人物、ナナオの身辺を徹底的に洗い直す。
一方で、草薙は単独で6年前に起こった笑い男事件を振り返る。
何かしら気になる事があるらしい草薙は、警視総監の護衛に就く事を荒巻に提案するが・・・


登場人物

用語

セリフ

内務大臣「君も理解しているとは思うが、件の盗視聴覚デバイス不正使用疑惑で、警察に対する悪感情が高まっているこの時期にだ、総監暗殺を仄めかす様な声明をメディアで中継されてしまった事は、警察組織全体の威信に関わる重大な問題でね。」
荒巻大輔「最もなご意見ですな。」
内務大臣「警視庁も本件に関しては相当の覚悟で解決に当たっている。君の所も警察と足並みを揃えて、くれぐれも先走った行動は自重してくれたまえよ・・・何事も、程々にな。」
荒巻大輔「分かっております。」

complex episodes:マネキドリは謡う DECOY

バトー「遅えな、課長の奴。」
草薙素子「そうね・・・来たわ。」
バトー「ありゃあ、横槍を入れられたって面だな。」

草薙素子「がっかりする様な話をされた?」
荒巻大輔「大臣にか?あの人は良くも悪くも、只の民衆の代表に過ぎん。問題なのは、衆人環視の中総監暗殺を予告されていながら、のんびりローラー作戦なんぞを展開させている本庁のほうだ。」
草薙素子「あたし達は、その成り行きをテレビ観戦?」
荒巻大輔「お前達には給料分しっかり働いて貰う!」
バトー「ウォン、オン!」

荒巻大輔「夕べ、記者会見の場に6年ぶりに現れた笑い男と思われるテロリストの犯行声明だが、儂はあれを警視庁による自作自演の茶番だと考えてる。」
一同「ええっ!?」
バトー「おいおい!確かに、あの犯行でインターセプターの不正使用疑惑なんざき飛んじまったが、それにしたって随分と大胆な推論じゃねえかよ。」
草薙素子「そうね。課長にしては慎重さに欠ける気がするけど、その根拠は?」
荒巻大輔「うむ・・・トグサトグサ「はい。」
荒巻大輔ナナオ・A。警視庁特別捜査本部が、笑い男事件の最重要参考人として3ヶ月前からマークして来た男だ。」
バトー「こいつが?・・・なんか、普通のサラリーマンだな。」
トグサ「そうなんだ。俺ももっと、こう、何て言うか、笑い男は少年っていうイメージを持ってたんだけどね。」
荒巻大輔「特捜部の捜査記録によれば、年齢は36歳。警察官の父を持ち、至極全うな少年時代を過ごすも、大学に進んだ頃から人類解放戦線の一つである緑の党の入党。当時の極左勢力、興国の旅団と共に直接行動路線をひた走り、武力闘争に参加、逮捕された前歴もある。だが、釈放後はそれ迄の活動経歴を一切隠し、エージェントプログラマーとしてセラノ・ゲノミクス社に何食わぬ顔で入社している。しかし一年後、垂れ込みにより活動家としての過去が露呈、解雇されている。」
バトー「分かり易い経歴だなあ。」
荒巻大輔「うむ。特捜部がこの男を本星と考えるに余りある状況証拠が、今頃になってごろごろと出て来ている。」
トグサ「特捜は捜査方針をナナオのセラノへの怨恨説で統一、現在ナナオに張り付き、総監暗殺予告の裏が取れ次第、逮捕に踏み切る方針だ。」
バトー「馬鹿じゃねえの!?今更そんな奴が笑い男な訳ねえだろ。限りなく黒に近い真っ白に決まってるじゃねえか。」
荒巻大輔「儂もそう思う。だが、俯瞰で見ればすぐにデコイと気付きそうな餌に、ここ迄がっちりと特捜が食らい付いてしまっているのは何故だ。インターセプターの一件といい、笑い男事件においては警察内部での秘密工作が何らかの理由で続けられているのではないか。」
トグサ山口は、その渦に巻き込まれて死んだ。多分ね。」
荒巻大輔「儂にも確証はない。だが特捜を騙し果せている何かと、笑い男を演じるナナオ・Aを同時に押さえれば自ずと答えは見えてくる。明後日の犯行予告迄にその何かを見つけ出す。」
バトー「知らねえぞ?大蛇が飛び出して来たってよ。」
荒巻大輔「うむ。バトートグサと、ナナオの24時間の行確に入れ。」
バトー「へえい。どじんなよ。」
トグサ「あんたこそ、飽きて投げ出すなよ。」
荒巻大輔「他の者は、少佐の指示で特捜を欺いたナナオの経歴の裏を取る。」
イシカワサイトーボーマパズ「へい、了解。」
荒巻大輔「どうした少佐。」
草薙素子「別に。」

作業員「またですか刑事さん、勘弁してほしいなあ。確かにあいつとは大学も同じで、いくつかの活動にも一緒に参加した事は認めますよ。けどね、あいつは俺なんかとは比べ物にならない位恐ろしい奴でね、筋金入りだ。あいつの粘り強さは半端じゃない。どんなに時間がかかっても最初に決めた計画は必ず実行する執念深さがあった。まあ、あんまり過大評価するのもなんですけど、同時に、あいつ程世辞に長けている奴あ、いなかったんじゃないですか。ええ、実際。」

セラノ社員「ナナオが弊社に恨みを抱いていたか否かと言われれば、前者でしょうね。何でって、セラノ社で稼動しているマイクロマシンの設計ラインの基本システムは、ナナオが一人で組み上げた様なものなんですよ。それを会社は過去の経歴を理由に解雇し、全ての権利を独占した訳ですからね。怒らないほうがどうかしている。」
ボーマ「裁判で権利を主張しなかったのか?」
セラノ社員「無理無理。内の弁護団は強力だから。でも刑事さん、ここだけの話、俺はナナオを応援したい気持ちが強いんですよ、実際。」

老人「よっしゃ!」

店長「しつこいね刑事さん達も。懐かしい話なんで、つい俺も喋りたくなるけど。当時の経済ヤクザは既にインテリ層に支配されててさ、あのナナオって小僧も相当に頭のいい奴で、対権力的な言動の多い奴だった訳。前に来た刑事さんは、ナナオがヤクザと手を組もうとしていた事が不思議だった様だけど、社会挑発的言動イコール左翼って発想は、一世紀古いっての。金儲けに右も左もねえよ、実際。」
パズ「念の為聞くが、あんたの言っているナナオ・Aってのはこいつだよな?」
店長「ああ。大分髪が後退しているがな。」

イシカワイシカワです。特捜も6年前の記録から、よくここ迄調べたもんですよ。レベルDクラスに絞っても1023件の調書が出てきました。Eクラスから順に洗わせていますが、外堀を埋めるだけでも相当時間が掛かりそうです。
ヤクザ「どうぞ。」
荒巻大輔「あ、気遣いなく。もう帰るよ。」
ヤクザ「ああ・・・」
荒巻大輔「犯行時刻迄あと34時間。」
荒巻大輔:何か手掛かりがある筈だ。何としても見つけ出せ。
イシカワ:了解。
バトー:課長ー、そんなまどろっこしい調査はやめにして、とっととナナオの口を割らせませんか。9課の特技は荒事と電脳戦。聞き込みなんて地味な作戦は、特捜の物量に任せましょうや。
荒巻大輔:早まるな。ナナオ逮捕のタイミングを誤れば、我々が釣り上げられんとも限らんのだぞ。奴の様子はどうだ?
バトー:一日中、部屋から短いメールを定期送信しているだけです。メールの中身もチェックしてますが、殆どスパム系で、送信されているどのメールにもウイルス等のデータは認められません。ま、俺達はいつ迄待っても構いませんがね。
バトー「ご苦労さん。」
バトー:まあ、いざとなったら強行しますよ。

荒巻大輔「すまなかったな。」
ヤクザ「いえ、またいつでも。」
荒巻大輔:ところでイシカワ少佐は?
イシカワ:そういえば、自分の外部記憶装置で何か調べてくるって言ったきり、連絡がありませんね。
荒巻大輔「何を考えておるんだ・・・」

くるたん「そんな資料なら、仕事場にだってあるんじゃない?」
草薙素子「うん。あの事件があった頃は国外にいたから、当時の事件に対する風評みたいなのが知りたいのよ。」
くるたん「ふぅん。風評ねえ。」
草薙素子「警察の資料とかじゃ、どうもピンとこなくって・・・ありがと。」
くるたん「久しぶりに顔出したと思ったのにな。」
草薙素子「ごめん。今度埋め合わせするわ。」
くるたん「ぶー。」
ラン「素子来てるって?」

キャスター「2月3日、7時20分になりました。おでかけ天気予報の時間です。みなさん、朝の通勤ご苦労様です。本日は快晴とはいきませんが、まずまずのお天気のようですね。でも、実は午後から二酸化炭素除去に伴うマイクロマシンの散布が行われる模様です。喉が気になる方はマスクを着用された方がよろしいようです。ところで皆さん、覚えてましたか?きょう2月3日は、国際博覧会開催迄丁度100日前の日なんです。そこで今朝のおで天ではこんなアンケートを考えてみました。題して、万博に」
笑い男「そいつはずるいな!」
女「きゃあ!」
笑い男「だったら今、あのカメラの前で真実を語ってください!」
アーネスト・瀬良野「やめろ!君には撃てんよ。」
笑い男「どうかな!」
アーネスト・瀬良野「ぐわっ!」

笑い男「さっきの約束が本当なら、ここで」
アーネスト・瀬良野「今は無理だ!いっそ君が喋ったらどうかね?」
笑い男「それじゃあ意味が無いんです!瀬良野さん、貴方の口から真実を語らないと。」
アーネスト・瀬良野「それは、出来ん!」
笑い男「何故ですか!?」

草薙素子「2024年2月3日、2日前には既に発生していたにもかかわらず、報道管制により未発表だった瀬良野氏の誘拐。捜査当局が一片の手掛かりすらも掴めずにいた難事件が皮肉にもメディアに露出し、急展開を見せ始めた。通称笑い男事件と呼ばれる、劇場型犯罪の始まりでもあった。当時の捜査資料によれば、事件発生以前からアーネスト氏の身辺では電脳をハックされた人物の口を使った犯行予告がなされていたにも関わらず、状況を甘く見ていた為に起きた誘拐であったと言わざるを得ない。瀬良野氏本人が電脳をハックされ、自宅から誘拐された直後、現金100億円、金100キロと言う莫大な身代金の要求がなされたものの、その後はふっつりと連絡が途絶え、彼等がテレビモニターの向こう側に姿を現す迄、瀬良野氏の消息は一切掴めない状態が続いていた。そして生中継の只中で瀬良野氏を脅迫した笑い男は、カメラのAIは勿論の事、近くに居合わせた通行人やテレビ局のスタッフの目に迄このマークをリアルタイムで上書きしていたと言う。事件発生後、急行した警察官から逃走する際にも大勢の人間が目撃していたにも関わらず、男の顔を見る事が出来たのは電脳化をしていなかった浮浪者2名のみ。事実、男の顔を見たと証言していた殆どの人間が、モンタージュ作成の際にこのマークを描いてしまったと言う報告は余りにも有名で、衝撃的な事件とはアンバランスなそのポップなマークは、一部の若者やサブカル系評論家の間で人気を呼んだ。やり口は警視総監の暗殺予告と酷似している。本当にそれを一人で遣って退けたとしたら、超特A級のハッカーね。でもその腕に似つかわしくないアナクロな誘拐事件。衝撃的な初登場後は、公の場に姿を現す事を避け、マイクロマシンの製造ラインに死に至るウイルスプログラムを混入すると言う手口でセラノ社を引き続き脅迫。主力商品である医療用マイクロマシンの製造販売が滞りセラノ株が暴落すると、その事自体が目的であったかの様にセラノへの脅迫は止み、続いて他のマイクロマシンメーカー6社を次々と同じ手口で脅迫していった笑い男。脅迫行為その物が目的かの様な新展開を見せ始めたこの事件はその後3ヶ月程続き、本当の目的、犯人像、単独犯か複数犯なのか、人種は、年齢は、その犯行思想に何が隠されていたのか等、数々の謎を残したまま、政府による被害企業への公的資金導入が決定したのを機に、笑い男はネットの闇に忽然と姿を消した。」
女性「じゃあ何故彼は始めに、自ら聴衆の前に姿を現して迄、瀬良野氏に何かを語らせようとしたんですか?そこがどうしても分からないんです。何か途中から犯人のメッセージが一人称から三人称にすり変わってしまった様な感じで。」
男性「だからそれが希望的妄想だと彼は言ってる訳。この事件はそんなに単純なものじゃないんだよ。私はね、犯人はネット社会の暗部から自然発生的に生まれてきた生命体、すなわち、繋がりを持たない共犯者達によって引き起こされた複合的な事件だと考えている訳。ましてや笑い男なんてものは始めから存在しなかったんじゃないかってね。」

荒巻大輔「ふぅ。」

草薙素子「課長、あたしはナナオの捜査から外れるわ。それから、パズサイトーをこっちに回して。」
荒巻大輔「どうするつもりだ?」
草薙素子「警視総監の護衛につく。課長の推理当たってると思うけど、どうしても一つだけピースがはまってない気がするの。その為に警視総監に張り付く。そうしろって囁くのよ。あたしのゴーストが。」
荒巻大輔「うぅむ・・・よかろう。我々の間にはチームプレイ等と言う都合のよい言い訳は存在せん。あるとすれば、スタンドプレーから生じるチームワークだけだ。」
草薙素子「行くわ。」
草薙素子サイトーパズの件宜しく。

荒巻大輔:聞いたか。パズサイトー少佐の援護に回す。
イシカワ:どうぞご自由に。聴き取りも終わりましたからね。あとはボーマと二人で何とかしますよ。
イシカワボーマAIのネェちゃん達を総動員しろ。それから、科学技術省のヘプトンケイルの使用許可を取っとけ。片っ端から検索かけるぞ。」
ボーマ「へーいっ。」

荒巻大輔:儂だ。ナナオの様子は?
トグサ:まだ、何も動きはありません。相変わらず思い出した様にメールを打ってるだけです。

ナナオ・A「はい。お世話になっております・・・え?あの件ですか・・・?ええ、まあ。おっしゃる通り、予想以上の反響を賜りまして。以前から用意させていただいていたプランの一つですから・・・では、楽しみにお待ち下さい・・・はい、失礼します。」
ナナオ・A「あの犯行予告、俺がやったんじゃないんだけどな。ま、あと少しで終わるんだし。」

サイトー少佐、総監入りました。
給仕「いかがでしょうか?」
草薙素子「結構よ。」

SP:定時連絡。警視総監入場終了、各自警備に就いて待機。
草薙素子バトー、ナナオの動きは?
バトー:相変わらず短いメールの送受信は確認してるが、ウイルスの影は網にかからん。
草薙素子:そう。
トグサ少佐。特捜の会話、盗聴してみたんですが、奴等相当痺れ切らしてますよ。

県警捜査員A「何で動かない!目と鼻の先にいるってのに。」
深見「惜しむらくは、総監暗殺を予告した時刻にナナオを行確出来なかった事だな。」
県警捜査員B「それもあんたら本庁の責任だろうが!インターセプターの件で現場はそれどころじゃなかったんだからな!」

草薙素子:課長、そっちはどう?

イシカワ「出ました。確かに特捜の捜査資料にある通り、ナナオの犯行当時の行動は奴が笑い男である可能性を十分裏付けるものです。しかし、当時のナナオを知る者達の証言にいくつか不自然な所があった為、引っかかった43例を検証した結果、必ずナナオを賞賛する傾向が認められました。これは、強制認識言語プログラムによる傾向かと思われます。しかもその中で語られるナナオの人物像は、微妙ではありますが一人称を成しておらず、何人かの人格を合成して作ったものである事が判明。なのに証言内容自体は一人称文体を成し、にもかかわらず証言者達は一様に、ナナオの写真をナナオ・A本人だと断言している。これは明らかに作られた記憶、いや、上書きされた記録と言えます。電警ですら見破る事が出来ない。ましてや特捜にはそれを偽者だと認識する事すら出来ない位巧妙な記録の改竄です。」
荒巻大輔「よくやった。バトー、至急ナナオを押さえろ。」
バトー:了解!
荒巻大輔:この事件、想像以上に奥が深いぞ。

草薙素子サイトーパズ!警察が張りめぐらせた電波障壁で、私達の通信にもノイズが入ってる?
サイトー:いや、綺麗なもんだ。
パズ:同じく。
草薙素子:そう・・・
SP[定時連絡。総員、警戒態勢をレベルBからCへ変更。]

刑事A「おい!お前等何処の」
バトー「公安だ!」
刑事A「どわあ!ああ!おい、やめろ!」
バトー「ふん!」
トグサナナオ・A!」
バトー「総監暗殺予告の件で任意同行して貰うぜ!」
刑事A「おい、何故公安が!?」
バトー「しっ・・・!あ!」
トグサ「ああ・・・」
刑事B「何だ?」
刑事C「どうなってる!?」

ナナオ・A「あっははははは!俺は初めからそっちにはいねえんだよ!フフフ・・・これで俺も晴れて笑い男として歴史に名を残す訳だ・・・ンッフフフ。」

草薙素子「あのノイズ・・・」

バトー「こ、こりゃあ・・・インターセプターだ!」

草薙素子「定時連絡のノイズは、断片化された遅効性ウイルス・・・!」

バトー:特捜の目をどっかから盗んでやがる。
草薙素子バトー!ナナオはそこを経由して、分割したウイルスを送ってきてる!
バトー「よし!発信先をトレースしてやる!」



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