the Cat Met with Special Boxes.

第12話 タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM

たちこまのいえで えいがかんとくのゆめTachikoma Runs Away; The Movie Director's Dream

粗筋

オムニバス形式でつづる短編2本。
ボディ内に残留した記憶を復元して、1機だけ街の中へ出かけてしまうタチコマは、犬を探している少女と出会う。
そしてジャンク街でとんでもないものを拾い持ち帰る事で、9課では一騒動持ち上がるのだった。
タチコマが考える生命の定義とは。そしてタチコマが拾ってきたものとはなんだったのか・・・


登場人物

用語

セリフ

タチコマ(以下タ)「おい、ちょっと。起きろよ。いつも任務終了後は全員並列化してるのに何で僕だけ・・・?」

タ「バトーさんの天然オイル!」

タ「おおー!情報がいっぱいだあ!」

a stand alone episode:タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM

タ「おほおー!」

タ「すごーい!経験値がどんどん上がっていくー!」

ミキ「ロッキー!」
ミキ「ねえあんた、ロッキー見なかった?」
タ「ロッキー?」
ミキ「ロッキーは私の飼ってた犬の名前なの・・・迷子になっちゃったけど・・・」
タ「飼う、迷子・・・知らない。」
ミキ「一緒に探してくれない?」
タ「僕はこれから街の方へ行きたいんだけど。」
ミキ「私も街の方を通って、海の見える丘公園に行くつもりなの。多分その辺りにいると思うの。」
タ「街だったら一緒に行ってもいいよ。」
ミキ「本当?ありがとう!」
ミキ「ねえあんた、なんて名前?わたしはミキ。」
タ「僕はタチコマ。」
ミキ「タチコマ・・・?ふーん。よろしくねタチコマ。」

ミキ「あ!ロッキーは多分お腹が減ってると思うの。だからこれを買っていくわ。」
タ「何だかやめた方がいいと思うなあ。」
ミキ「どうして?」
タ「それは・・・お!もしかしてあの犬ロッキーと近いんじゃないかな?」
タ「どお?この犬ロッキーじゃない?」
ミキ「違うわよ。ロッキーはそんな痩せっぽちな犬じゃないわ。」
タ「そうか。ぽん。」
ミキ「こら!タチコマ!かわいそうでしょ!」
タ「可哀想?でも要らない犬だよ。ロッキーじゃないんでしょ?」
ミキ「ロッキーじゃないけど、いじめちゃいけないの!分かった?」
タ「いじめてないよ、要らないだけ。」
ミキ「もう!今度やったら本当に怒るからね。」

タ「ん?これは何だ?何やら凄い物の様な予感がする!」
タ「何これ!?電脳じゃないか!あれ?でもこれ防壁がない。もしやこれは人間が人生の最後の瞬間に見ると聞く走馬灯と言う代物では・・・?ん?君は僕、僕且つ君達?あ、あれえ!?ゴーストが!」
ミキ「何してるのタチコマ!」
タ「あ、ううん、何でもないよ。」
ミキ「タチコマ、今何かとったでしょ。人の物を黙って取るのは泥棒よ。勝手な事するから・・・さ!今隠したもの出しなさい!」
警官A「ちょっとそこのお嬢ちゃん、こんな所で何をしてるのかなあ?」
警官B「何か身分を証明出来る様な物を持ってるかい?」
警官A「このペットロボットはお嬢ちゃんの?お嬢ちゃん、お家は何処かな?」
タ「おいおい君達。私はこう見えても歴としたこの子の保護者だよ。大戦時敵の銃撃で瀕死の重傷を負ったが応急措置で入ったこの戦車に脳が癒着してしまってね。今でもこんな姿だ。肉体を失って迄祖国の為に尽くした愛国者をペット呼ばわりするとは随分と失礼な話じゃないか!君の様に大戦を知らない温室育ちの若者が」
警官A「わ、分かりました。もう結構です・・・」

ミキ「凄い!今の腹話術?」
タ「まあね。そうだ、君が言っていた海が見える丘公園に行ってみようよ。」
ミキ「え?一緒に行ってくれるの?」
タ「うん、もうここには面白そうな物もないし、ロッキーもそこできっと待ってるんでしょ?」
ミキ「うん!ありがとうタチコマ!」

ミキ「ロッキーはね、ミキが産まれた時からずっと一緒に暮らしてたの。一緒に遊んだり、一緒にご飯食べたり、一緒のベッドにも寝てたんだよ。」
タ「ふーん。二人は仲良しだったんだね。」
ミキ「うん。」
タ「でもロッキーは何で迷子になったの?いつもミキちゃんと一緒にいたんでしょ?」
ミキ「うん・・・ねえタチコマ。貴方秘密の金魚っていうお話知ってる?」
タ「秘密の金魚?知らない。」
ミキ「私と同じ位の女の子が主人公の物語なの。」
タ「物語?」
ミキ「そう。自分の金魚をどうしても人に見せたがらない女の子のお話で、その子が何で人に金魚を見せたがらないかっていうと、自分のお小遣いで買ったからだって言うの。それでね、りの大人は、なんて困った子供なんだろうって心配するけど、本当はその金魚はもうとっくに死んじゃってて、その事をりの大人に気付かれまいとして女の子は金魚を誰にも見せなかったの。」
タ「うーん、よく分からないなあ。だって金魚は死んじゃったんでしょ?だったらまたお小遣いとかで新しくすればいいのに。」
ミキ「駄目よそんなの。死んじゃった金魚はもう帰って来ないんですもの。女の子は金魚が死んだ事で自分が悲しむだろうって大人達に思われたくなかったのよ。だって自分はもう十分悲しんだもの。」

タ「これ、じゃないかな?」
ミキ「私、本当は知ってたんだ。木曜日にナーサリー※1から帰ってきたらロッキーがいなくなってて、もうずっと前から元気がなかったの。ママ達は、ロッキーは出かけたって言い張るの。でも金曜日も土曜日も、ロッキーを探しに行こうって言ってもパパもママも、駄目だって言った。だからもう、ロッキーは死んじゃってるんだって分かってたけど、探しに行く振りしなきゃミキが、本当の事知ってるんだってパパとママに分かっちゃう・・・」
タ「人間は大切な友達が死ぬと、とても悲しい気持ちになるんだね。僕には死っていう概念が分からない。ゴースト無いからだと思うんだけど、悲しいって概念も理解出来ない。やっぱり僕が死ぬ事が出来ないからだな。」
ミキ「タチコマは死なないの?」
タ「うん。僕はAIだからね。」
ミキ「じゃあミキが飼っても死なない?」
タ「うん。」
ミキ「車に轢かれても?」
タ「うん。」
ミキ「そっか・・・でもやっぱり私、もうなんにも飼いたくないな・・・」
タ「そろそろ家に帰った方がいいんじゃない?パパとママもミキちゃんがいないと悲しいんじゃないのかな?」
ミキ「うん・・・」

バトー「はあ・・・」
タ「そんな深刻な顔しないで欲しいなあ。別に逃げ出した訳では・・・」
バトー「少し黙ってろ。」
イシカワ「お前が入れた天然オイルにタチコマAIのニューロチップに使われている蛋白質の一部が極微量ながら溶解した痕跡がある。バトーは自分で使うタチコマをこの一台に限定していたからな。オイルに染み出した情報が徐々に蓄積され、それを基にタチコマAIが動作記憶を復元させた可能性もある。」
トグサバトータチコマを猫可愛がりし過ぎなんだよ。只の機械なんだぜ?」
タ「それは差別発言だ!」「発言の撤回を要求する!」「トグサ君は非博愛主義者だ!機械にも愛をー!」

イシカワ「これが人工知能研究会だったら大変な発見だろうが、ま、少佐が知ったら大目玉だろう。覚悟しとけよ。」
トグサ「ん?何だこりゃ?」
タ「あ、それは・・・」
タ「おはよう御座います、少佐。」
草薙素子「胡麻を擂っても駄目よ。天然オイルの使用は今後一切禁止する。いいな?バトー。それからトグサ、その箱を鑑識に回せ。イシカワは鑑識に立ち会え。」
タ「あ゛ああ・・・」

イシカワ「ばれてたみたいだなあ。相変わらず情報が早い。」
バトー「何処で見てんだかな・・・了解。」

イシカワ「驚いたな。まさかオンラインのままだったとは。」
草薙素子「その箱の中身、相当やばい物?」
イシカワ「さっきからこいつが潜ったまま戻ってこないんだ。途中迄はトレース出来てたんだが、急に音信が途絶えた。何なんです少佐、こいつは。」
草薙素子タチコマが拾って中身にアクセスした時、タチコマAIに瞬時に同調して一気にデータを流し込んだ形跡があった。一種の洗脳プログラムの様な物かと思ったが、そうじゃない。」
イシカワ防壁迷路の一種かとも考えたが、こちらのバックアップ体制は完璧だったし、鑑識の脳はプログラムによる逆流や攻撃等を一切受けた形跡がない。」
草薙素子「こいつは望んで戻ってこないと?」
イシカワ「俺にはその辺の判断はつかんさ。」
草薙素子ウイルスの可能性は本当にゼロ?トレースしていた記録を見せて。」
イシカワ「どっかの建物らしき場所にいるって感覚は得ているらしんだがなあ。長い廊下の事を口走ってるだろう?廊下の突き当りには階段があるとも言ってる。」
草薙素子「私が潜ってみる。」
イシカワ「おいおい、課長の許可が出る迄はやめて置いた方がいい。万が一の事が起こったらどうする。」
草薙素子「もう万が一の状況よ。内の鑑識が戻ってこないのは只事じゃないわ。繋げ。」

草薙素子「画像表示完了。つまらない景色の割には重たいな。しかもこの廊下、ご親切にも前にしか進めない様になってるし。」
イシカワ「廊下以外には何かないのか。」
草薙素子「差し当たっては。」
イシカワ「お姫様には目を閉じていて貰いたいもんだな。」
草薙素子「階段があるわ。降りるわよ。」
イシカワ「トラップに注意。少佐の安全確認を最優先にな。」
草薙素子「薄明かりが見えるわ。それにわずかだけど人の声も・・・」
イシカワ「ん?」
草薙素子「何だっだっだっだ」
イシカワ「待て!少佐、おい少佐!応答しろ!少佐!」
9課鑑識B「駄目だ、もう意識が飛んでる。」
イシカワゴーストハックか?」
9課鑑識C「いいや違う、一切の攻撃を受けていない。防壁も作動していない。」
イシカワ少佐少佐!」

男「そうか、お前は真実を垣間見る結果として**に生きる事を決意した瞬間なんだ。この真実を認識したんだ。」
草薙素子「ここで何をしている?」
草薙素子「おい!」
神無月「無駄だよ。ここにいる連中は、あれに取りつかれてしまった連中だからね。」
草薙素子「取りつかれた?何に?あれとは何だ?」
神無月「ふっふ、あんたも我々と一緒に入って確かめてみたらどうかね?」
草薙素子「おい!」

神無月「急がないと始まってしまう。予告編はないからな。ほっほっほっほっほ」

男「しぃー」
草薙素子「映画館・・・」

草薙素子「おい、どうした?ここで何があったんだ?」
9課鑑識A「あ、少佐、奇遇ですね。こいつは素晴らしいですよ・・・」
草薙素子「おい!ここを出るぞ!おい!」

神無月「どうだった?」
草薙素子「確かにいい映画とも言えないくもないわね。でもどんな娯楽も基本的には一過性の物だし、またそうあるべきだわ。始まりも終わりもなく只観客を魅了したまま手放そうとしない映画なんて、それがどんなに素晴らしく思えたとしても害にしかならない。」
神無月「ほお、手厳しいのう。我々観客には戻るべき現実があるとでも言いたいのかね?」
草薙素子「そうよ。」
神無月「ここの観客の中には、現実に戻った途端に不幸が待ち受けてる者もいる。そういう連中の夢を取り上げあんたは責任を負えるのかね?」
草薙素子「負えないわ。でも夢は現実の中で闘ってこそ意味がある。他人の夢に自分を投影しているだけでは死んだも同然だ。」
神無月「リアリストだな。」
草薙素子「現実逃避をロマンチストと呼ぶならね。」
神無月「ふ、強い娘よのお。いつかあんたの信じる現実が造れたら呼んでくれ。その時儂等はこの映画館を出て行こう・・・」

イシカワ「ったく、さっきは冷や冷やしたぜ。」
草薙素子「悪かったわね。ゴーストラインを突破するのにてこずって、声掛けてる場合じゃなかったの。」
イシカワ「一応記録は照合した。神無月渉、一般的には殆ど知名度のない映画監督だ。彼は特異な作家性に固執する余り、資金も人材も集められず、まともな作品は一本も作っていない。せめて自分の電脳の中で理想とする映画を作りたかったんだろう。生命維持装置を内蔵させ、脳と脊髄の一部を肉体から切り離して箱に封じ込めたんだなあ。」
バトー「つまり、この箱はその映画監督の作品がぎっしり詰まったミニシアターって事か。」
イシカワ「まあ、そういう事になるな。」
バトー「で、どんな映画だったんだ?」
イシカワ「一部じゃカルト的人気を誇ってたって話だ。だが映画に興ずる余り、箱にダイブしたまま意識が戻らず死んだ者すらいるってんで、警察が回収に乗り出していた様だ。市場にはオリジナルが残ってるって噂だったが、嘘か真かこいつがそのオリジナルって訳だ。ゴーストがしっかり入ってる。」
バトータチコマの奴、何処で拾って来たんだ?こんな物。」
イシカワ「トラップでもハッキングでもなく、自分の作品の魅力で訪問者を帰さないとは恐れ入ったぜ。大した才能だよ。」
イシカワ「でどうするよ。監督さん、まだ生きてるぜ。」
草薙素子「脳を箱から救出し、オンライン出来ないよう筐体を変えろ。意識を取り戻した観客のリストも洗い出しておけ。それから、箱を売っていた露店主を人身売買の容疑で逮捕。課長には私から報告しておく。以上。」

バトー「珍しいじゃねえか。」
草薙素子バトー、貴方映画に感動して泣いた事ってある?」
バトー「何だよ、藪から棒に。俺はハンガーに戻るぜ。タチコマのオイルも交換しなきゃならないんでね・・・そういや、昔あったな。マルクス兄弟の映画で笑いすぎて涙が出た事が。」
草薙素子「貴方らしいわ。」
バトー「そうだ、今度二人で映画でも見に行かねえか?」
草薙素子「有難う。でも本当に見たい映画は一人で見に行く事にしてるから。」
バトー「じゃあ、それ程見たくない映画は?」
草薙素子「見ないわ。」
バトー「ふっ、成る程。」


脚注
※1:nursery 保育園、託児所の意。

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