the Cat Met with Special Boxes.

第16話 心の隙間 Ag2O

こころのすきまChinks in the Armor of the Heart

粗筋

バトーは、軍内部で機密情報を横流ししているスパイを探し出す為に、潜入捜査を命じられ、そこでザイツェフと言う男に出会う。
ザイツェフは「義体の隙をつく」と表現される独特の間合いと技により、無敗を誇った格闘家だったが、たった一度の敗戦により、すっかり落ちぶれていた。
かつて憧れていた銀メダリストの凋落に、バトーの怒りの鉄拳が炸裂する・・・


登場人物

用語

セリフ

タチコマ達「赤い靴ー、履ぁいてたー、女の子ー♪異人さんに連ーれられーてー、いーっちゃーったー♪」
タチコマ1「あ、バトーさん!」
バトー「お前等、その歌の意味分かってんのか?」
タチコマ1「やだなあ、知ってますよ。女の子が異国に連れて行かれちゃう歌でしょ?」
タチコマ2「母親が開拓地に入植するんで、異国の神父に預けられちゃうんだよね。」
タチコマ3「そうそう、家族愛が貧困に負ける歌なんだよね。」
タチコマ1「そうそう。」
タチコマ1「まあまあ、僕達ラボ送りって事みたいです。では!」
タチコマ3「バイバーイ!」

a stand alone episode:心の隙間 Ag2O※1

9課オペレーター「失礼します。」

9課オペレーター「県警公安部より要請のあった潜入捜査の件ですが、出発の手続きが完了致しました。」

バトー「へっ、これが俺の新しい履歴ね。」
9課オペレーター「スパイ容疑で行確対象となるパブロ・ザイツェフと接触し、スパイ活動を教唆したものを特定、両者を逮捕せよとの事です。尚、国際テロ対策協議に出席されている課長より、イギリスから戻る迄に処理しておけとの伝言が18分前に御座いました。」
バトー「ふっ・・・」

トグサ「ねえ旦那」
バトー「ああ?」
トグサタチコマのラボ送り、気にしてんの?」
バトー「何故?」
トグサ「いや、気にして無いならいいけどさ。」
バトー「お前なんかに心配されたかねえよ。」
トグサ「別に心配って訳じゃねえけど、どう見ても乗ってないぜ?」
バトー「そうでもねえよう。俺はこのザイツェフって野郎の大ファンだったからな。」
トグサ「ファン?」
バトー「それより俺が基地に着いたらこの車、ちゃんと9課に戻しとけよ。」
トグサ「分かってるって。乗り回しゃしねえよ、こんな車。」

作業員「オラーイ、オラーイ、オラーイ、オラーイ」
ザイツェフ「もっと腰を入れて打ってこいよ。そうじゃねえだろ。何を聞いてたんだ?」
隊員「今一つ信憑性が無いもんで。」
ザイツェフ「何ぃ!?ようし、そこ迄疑うんなら俺を本気で伸してみろ。」
隊員「だと。」
隊員「望みどおり一発かましてやれ。」
ザイツェフ「よーし、打ってこい。」

隊員「なんてな。」

ザイツェフ「なあんだおい、口程にもねえな。」

ザイツェフ「脳震盪か、だらしねえ。おいどうした!?仲間がやられて悔しくねえのか?俺を伸してみろよ。誰でもいいぞ。挑戦してくる奴はいないのか?この腰抜け野郎共!」
バトー「じゃあ俺が相手になってやる。」
ザイツェフ「その面構えは新入りって訳でもなさそうだな。」
バトー「ふふん。」

バトー「よし。退屈な合同訓練なんざサボっちまおうと思ってたんだけどな。あんたが最近格闘教官に赴任して来たって噂を聞いたもんでな、態々顔を出したんだよ。がっかりさせねえでくれよ銀メダリスト。」
ザイツェフ「随分古い事を覚えてるんだな。」
バトー「ふふん。ああ、どうだ?ボクシングで行こうぜ。」

ザイツェフ「上手いな。俺の手の内も研究済みか。」
バトー「ふふふん。」

バトー「ふっ、拳は死んじゃいねえか。」

バトー「あれ!?」

ザイツェフ「おーい、大丈夫か?」
バトー「うぅ・・・どうなったんだ?」
ザイツェフ「義体の隙を突いたのさ。」
バトー「勝てたと・・・思ったんだがな。」
ザイツェフ「気に入ったよお前。何故やられたのか本気で知りたきゃ内に来い。じっくり説明してやるよ。」

ザイツェフ「基地を渡り歩いて技を教えて来たんだ。今はそれだけしか残っちゃいない。」
バトー「ふぅん。それだけって数でもねえけどな。」
ザイツェフ「そうかあ?」
バトー「これだけの大会を闘って来て殆ど優勝しかない。」
ザイツェフ「優勝じゃなかったのはそいつだけだ。」
バトー「見てたよ、この試合。ショックだったなあ。あんたが負けるなんて微塵も思ってなかったから。」
ザイツェフ「へっ、俺もショックだったよ。あのたった一度の敗北で人生の全てが狂っちまったんだからな。ちやほやしていたマスコミも義体メーカも皆去って行っちまった。」
バトー「あん時何故あんた、義体の隙を突かなかったんだ?あの試合だけは今思い出しても納得が行かない。」
ザイツェフ「義体の隙、か。」
バトー「そうだ。義体の隙。昼間のあれがそいつだろ?俺はその話を聞く為にここに来たんだぜ?」
ザイツェフ「あれか。実はあれにはちょっとした秘密があってな。」
ザイツェフの妻「今夜は随分話が弾んでるようね。」
バトー「あ、どうも。」
ザイツェフの妻「何の話かしら?私も仲間に入れて。」
ザイツェフ「おい、そんな物を客に出すつもりか?もっと高い酒があっただろう。」
ザイツェフの妻「あら、高ければいいってものでもないでしょ。おもてなしは気持ちが大切よ。」
ザイツェフ「何も分かっちゃいない。おい、外で飲もう。いい酒を出す店が近くにあるんだ。」
バトー「どうしたの?俺は別にこれで構わないぜ?」
ザイツェフ「そう言うなよ。俺のおごりだ。」

ザイツェフ「悪いな。急な連絡が入った。すぐ戻るから待ってろよ。」

ザイツェフの妻「ごめんなさい。今日は久しぶりに機嫌が良かったから、メドブーハでもって思ったんだけど、怒らせちゃったみたい。」
バトー「メドブーハ?」
ザイツェフの妻「私達の故郷で家ごとに作る自家製酒よ。お口に合うかしら?」
バトー「ん?」
バトー「ん、甘え!」
ザイツェフの妻「ふふっ、当然よ。蜂蜜を発酵させて作るんですもの。貴方とっても良い人みたいね。ご結婚は?」
バトー「ああ一応。子供が一人。6歳になる。」
ザイツェフ「本当か?そうは見えんな。悪いが急用が出来ちまった。また今度飲み直そう。話の続きもその時に。」
バトー「あ、そう。残念だな。」
ザイツェフの妻「またいらしてね。」
バトー「ええ、近い内に寄らせて貰います。」
ザイツェフの妻「おやすみなさい。」
バトー「おやすみ。」

ザイツェフ「待たせたな。客は帰したぞ。」
電話の声「よし、では次の指示を送る。」

隊員「あ、どうも。」
ザイツェフ「おい、バトーは来てないのか。」
隊員「バトー・・・?ああ、昨日の。まだ見てませんねえ。」
ザイツェフ「そうか。あいつここじゃ有名なのか。」
隊員「いえ、あ、昨日から寄港している三雲の103航空隊の奴じゃないですかね?」
バトー「俺に何か用か?」
ザイツェフ「いたのか。どうだ?飯でも。」
バトー「飯?今は飯よりシャワーって気分だな。」
ザイツェフ「そうか。それじゃあ一人で行ってくるか。」
バトー(グローブ持って飯ってか?俺をがっかりさせんなよ。)

ザイツェフ「よぅ、元気?」

ザイツェフ「頼まれてたサイン、色紙よりはこういった物にしてあった方がいいと思ってね。」
宮原「有難う。甥も喜ぶわあ。」
ザイツェフ「良かった。」
宮原「そうだ。いい豆が入ったの。お礼に一杯淹れて差し上げるわ。」
ザイツェフ「お構いなく。俺もすぐに戻んなきゃ。」
宮原「すぐ淹れるわよ。少し荒めに引いた方がいいかしら?」
ザイツェフ「そうだな。金属メッシュあるんだっけ?

ザイツェフ「だったらそうしようかな。さて・・・」

バトー(さてと。あん?佐川の身代わり防壁か。いいもん使ってるじゃねえか。)

ザイツェフ「そういや今どっからか合同訓練に来ている奴がいるだろう。」
宮原「空母で寄港している海兵隊員の事かしら?」
ザイツェフ「そうかな。昨日そこの奴がジムに来たんだけど、なかなか骨のある奴だったよ。」
宮原「そうなの?」
ザイツェフ「ああ、見どころがある。」
宮原「良かったじゃない。友達になれそう?」
ザイツェフ「そいつはどうかな。俺は人見知りする性質だから。」

バトー(2重の防壁とは念のいったこって。一旦ここにデータを移してから外部に送るってしくみか。何処に転送するつもりだ?)

(ザイツェフの見ている端末で「REGARD」の文字が)

ザイツェフ「ん?何だ?まさか枝が・・・くっそー、あと少しなのに・・・」

宮原「お待たせ・・・あ・・・」
ザイツェフ「すまない、急用を思い出した。」
宮原「うーん・・・」

バトー(おいおい、ネタを抜くのに時間を掛け過ぎだぞ。これでホントにスパイなのか?とろくせえ。さあ、何処に転送する?)
ザイツェフ「おい。」
バトー「おっ」
ザイツェフ「お前等、俺の部屋に誰か入ったか?」
隊員「誰も入ってませんよ。」

電話の声「豆はどうした?」
ザイツェフ「碾き終わった。」
電話の声「では何故ドリップしない?」
ザイツェフ「枝が付いた気配があった。」
電話の声「念の為そのドリッパーを2度と使うな。汚れた可能性が高い。」
ザイツェフ「ああ。ドリップは別にやる。ポットに入れて待つ。」
電話の声「配達先は追って知らせる。もし身辺に見慣れぬ者が現れたら注意しろ。」
ザイツェフ(見慣れぬもの・・・)

ザイツェフ「おい、バトー。今夜こそ俺のおごりだ。一杯付き合えよ。甘い酒は置いてない。」

ザイツェフ「いい店だろう?ここに赴任してからろくな奴に会わなくてな。殆どここに入り浸りさ。」
バトー「ああそう。」
店員「ボックス席は初めてですね。」
ザイツェフ「うん。やっと友達が出来そうでね。」
店員「それはよかった。」
ザイツェフ「そういやお前、結婚してるって言ってたがカミさんの写真位持ってるんだろう。見せろよ。」
バトー「そういう性分じゃねえよ。」
ザイツェフ「ふっ。」

ザイツェフ「おっと。」
バトー「高い酒なんだろ?もったいねえ。」
ザイツェフ「悪いが拭くものを借りてきてくれないか?」
バトー「ああ。」

ザイツェフ「性分じゃねえか・・・読めねえ野郎だ。」

店員「すぐお持ちします。」
バトー「ども、有難う。」

バトー「後でなんか持って来るとさ。」
ザイツェフ「そうか。」

ザイツェフ「また呼び出しか。すまない暫く一人で」
バトー「構わねえよ!あんたは情報部並に忙しいみたいだからな。」

男の声「ポットは?」
ザイツェフ「持ってきた。」

ザイツェフ「冷えるな・・・」

男「おいこりゃなんだ?」
ザイツェフ「うん?」
男「只の数字の羅列を掴まされやがって。」
ザイツェフ「ちょっと待て。俺はあんた達の言う通りデータを抜いて来ただけだ。中身が違うのはそっちの指示ミスだろう?」
男「君には失望した。」
ザイツェフ「言い掛かりは止せ。払うもん払って貰おうか。」
バトー「みっともねえ!」
ザイツェフ「バトー!?」
男「つけられたな。」

ザイツェフ「お前、情報部!?いや、監察部か?俺を内偵する為にファンを装って近づいたのか?上手く騙されたよ。俺の過去も勉強したのか?」
バトー「金が目的か?人生の計画が狂ったとは言えそれ程悪い暮らし振りとも思えんがな。」
ザイツェフ「お前に何が分かる!?」
バトー「逮捕する前に一つ聞きたい。義体の隙って奴の事だ。」
ザイツェフ「ふっ、そうか。そいつをまだ話してなかったな。」
バトー「来いよ!もう一度義体の隙を突いて俺を倒せたら見逃してやる。」
ザイツェフ「嘗めてんのか!?何度やったってお前は俺には勝てないぞ!」
バトー「だったら早く降りて来い。」

ザイツェフ「銃を仕舞った事を後悔するぞ。」
バトー「御託はいいから打って来い!」

バトー義体の出力勝負じゃ俺には勝てないぞ!」

ザイツェフ「ふっ・・・お!」

バトー「ぬうぅお!」

ザイツェフ「う・・・お前、昨日は態と負けたのか・・・?」
バトー「態とかどうか分からねえ程錆びちまったのか?」
ザイツェフ「そうか、あの時も・・・心に隙があったのは・・・俺の方だ・・・」

ザイツェフの妻「あ、こんばんは。お会い出来て良かったわ。主人と一緒じゃあ・・・?」
バトー「ああいや、途中迄一緒だったんだが。」
ザイツェフの妻「そう。でしたら丁度良かった。お口に合わないかもしれないけど、奥様に。」

トグサ「あれ?旦那終わったんだ?」
バトー「ああ。」
トグサ「どうしたのさ?解決したってのに出発前と変わらないぜ?」
バトー「そう見えるか?」
トグサ「違うのか?ん、おい・・・」

トグサ「旦那・・・?」

バトー「くそったれ!」


脚注
※1:Agは銀、Oは酸素の元素記号で酸化銀の組成式。

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