the Cat Met with Special Boxes.

第18話 暗殺の二重奏 LOST HERITAGE

あんさつのにじゅうそうAssassination Duet

粗筋

かつての同僚の娘から、とある依頼を受ける荒巻。
私的な感情で仕事する事は出来ないと一旦は断る荒巻だったが、何者かにより中国外務次官の暗殺が計画されていると言う極秘情報を掴む。
そしてその依頼内容が暗殺計画に関与している可能性が生じる。暗殺を阻止すべく動く荒巻だが・・・


登場人物

用語

セリフ

王「荒巻さん、今回はご足労願いましてすいません。」
荒巻大輔「金外務次官の暗殺予告があった以上、事態は我々の管轄です。それにこの前の一件ではこちらこそ貴重な情報をご提供頂いた。外務次官は予定通り鹿児島に入られました。」
王「5年も待ちました。戦没者への慰霊訪問も漸く許可され金外務次官が初めて訪れる政府の要人ですから。荒巻さん、最善の対応をお願いしますよ。」
荒巻大輔「分かりました。」
王「では、宜しくお願いします。」
荒巻大輔バトー、現場の指揮権を暫くお前に一任する。」
バトー「なんだよ、こんな大事な時に私用か?」
荒巻大輔「夜には戻る。サイトーパズボーマバトーにつけ。暗殺予告犯の線は少佐と密に連絡を取り合って対応しろ。」
バトー「で、どちらに?」
荒巻大輔「知人の7回忌にな。」

a stand alone episode:暗殺の二重奏 LOST HERITAGE※1

久保田「遅かったな。先程迄辻崎を慕って仲間が大勢来ていたよ。」
荒巻大輔「そうか。すまない。」
久保田「あの頃は電脳硬化症に対する有効な治療法は無かったからな。」
荒巻大輔「惜しまれる奴程早く逝ってしまうものだ。」
久保田「うむ。我々3人の中では辻崎が最も殿田大佐に目を掛けられていたからな。大佐の件は心中察するよ。」
荒巻大輔「儂は大佐に教えられた通りに動いた迄だ。」
久保田「はっ、お前らしいな。」
久保田「ああ、そうだ。分かったすぐ戻る。すまんが先に失礼する。」
荒巻大輔「構わんよ。」

荒巻大輔「貴方は確か・・・辻崎の・・・」
サオリ「はい。サオリです。荒巻さんに来て頂いて父も喜んでいると思います。母の葬儀の際にも、色々と便宜を図って頂いたと言っておりました。」
荒巻大輔「あの頃貴方はまだ学生でしたな。確か小学生の弟さんもいらした様ですが。」
サオリ「ええ・・・あの、荒巻さんに相談があるのですが・・・」
荒巻大輔「何でしょう?」
サオリ「弟のユウの事なんです。あの子が最近亡くなった父に急に似て来たんです。」
荒巻大輔「立派に育てられましたな。若い頃の辻崎の面影がある。」
サオリ「いいえ、そういう意味では・・・面影だけじゃないんです。声も話し方もそっくりで。」
荒巻大輔「それに何か問題でも?」
サオリ「最近弟は今迄全く興味が無かったネットの軍事関連のニュースサイトに頻繁にアクセスする様になりました。それに夜遅く物音に目を覚まして居間に行くと、弟が真剣な顔で父の蔵書を読んでいたりもするんです。いつ寝てるのかも分からない位毎晩の様に。」
荒巻大輔「そういえば辻崎もいつ寝てるか分からん様な奴でした。」
サオリ「ええ、それで心配になって声を掛けたんですが、振り返った弟は私に、サオリまだ起きていたのかって言ったんです。それだけじゃありません。最近のあの子頻りに誰かと連絡を取っている様で・・・でもそれが誰かどうしても教えてくれないんです。海外から大きな荷物が頻繁に届いたりもしますし。ユウは何か妙な事に巻き込まれてるんじゃないでしょうか?お願いです。あの子が突然変わってしまった原因を調べて頂きたいんです。」
荒巻大輔「申し訳ありませんが、個人的な理由で私の職務権限を行使する訳には行きません。お話を聞く事は出来ますが、今の話だけでは何の力にもなれんでしょう。」
サオリ「そうですね。すいません。荒巻さんは父の親友だとお聞きしておりましたので、つい。」
荒巻大輔「辻崎とは親友なのではなく只の戦友です。」

ユウ「分かってるって。うん、やるよ。ちゃんとやるって。分かってるよ・・・」

テレビ音声「本日来日した中国政府の金外務次官は、明日鹿児島戦没者への慰霊訪問を予定しています。戦没者を埋葬した慰霊碑には日本人だけでは無く、当時沖縄に居留していた中国人も多く含まれる為に中国政府は予てより訪問を希望していましたが、今回特例として日本政府の承諾が得られる事になり、金外務次官の表敬と言う形での来日が実現したのです。尚、これに対して抗議活動を行う日本人の声も上がっている為に警察は警戒態勢を強めているようです。」
トグサ「旦那の奴、態と写ろうって狙ってんだぜ。」
イシカワ「余裕だな。こっちが地味に暗殺予告犯の足取りを追っ掛けてるってのによう。」
草薙素子「犯人の目星はついた?」
イシカワ「ああ、それなんですが、こんな情報が入ってます。」
草薙素子「これが金外務次官を狙う暗殺者な訳?」
イシカワ「外務次官の行動スケジュールから逆算すると、最も有効な暗殺手段は狙撃であると考え、その線から絞り込んでみた結果、択捉ルートから入念に分解された精密狙撃銃一丁分、国内に入り込んだ形跡が見つかった。」
トグサ「そっから荷物の引き受け先を洗ったんですが、数箇所に分けられた私書箱に荷物を受け取りに来たのがそいつなんです。」
イシカワ「写真を元に姓名照合させてますが、特定迄には2時間程掛かります。」
荒巻大輔「犯人の割り出しは済んだか?」
イシカワ「まだ特定と言う訳じゃありませんが、状況から判断してそいつが最有力です。」
荒巻大輔「ん!?」
草薙素子「知り合い?」
荒巻大輔辻崎ユウ。元陸自調査部長であった辻崎英雄一佐の息子だ。」

ユウ「だから俺がやるよ。分かってる。俺がやらなきゃ駄目なんだ。お袋の・・・律子の仇だからな。そうだろ?ユウ」

草薙素子「静かに。」
トグサ少佐、遅かったようです。部屋は既に空です。
草薙素子「こんな夜更けにごめんなさい。」
草薙素子イシカワ、こちらの動きが読まれてる。至急各交通機関のモニターを洗え。
イシカワ:了解。
サオリ「あ、貴方は・・・?」
草薙素子「荒巻の部下よ。」
サオリ「荒巻さんの?」
草薙素子「ええ。結論から言わせて貰うと、貴方の弟、辻崎ユウの身柄を拘束しに来たの。」
サオリ「拘束って、ユウを?」
草薙素子「ここにはもういないわ。」
草薙素子「ノック位しなさい。女性の部屋よ。」
トグサ「すいません。少佐、机の上にこれが。」
サオリ「ユウは何をしたんですか?」
草薙素子「今来日している中国政府の金外務次官、知ってるわね。外務次官の暗殺予告がなされ、その容疑者としてリストのトップに名前を挙げられているのが貴方の弟なの。」
サオリ「そんな・・・」
トグサ「動機は分かりませんが、彼が陸自内にある辻崎一佐の残したデータライブラリに度々侵入していた事実が確認されています。」
草薙素子「その痕跡は彼の誕生日の翌日から昨日迄続いていた。今迄発覚しなかったのはちゃんと管理防壁の錠前を開けて中に入っていたからでしょうね。」
サオリ「ユウがそんな事を・・・」
草薙素子「弟さん、携帯端末をいつから使ってる?」
サオリ「16歳の誕生日にユウ宛に父が生前使っていた携帯端末が送られて来たんです。ユウがまだ小さかった頃、父の端末を強請って困らせた事があって。父はユウに一人前になったら譲ると約束をしたんです。」
草薙素子「端末の中に管理防壁のパスコードが隠されていたのね。そのライブラリはこっちでも辿ってみたけど、コードが厳重で開錠にはまだ数時間を要するの。そこで何を見たのかは今の所弟さんにしか分からない。」
サオリ「送られて来てから、ユウはあれに夢中で・・・私には何も・・・しかもこんな時間に何処へ・・・?」
草薙素子「ここに居ないとなると恐らく暗殺計画の最終段階に入ったと考えるべきね。」
サオリ「お願いです。弟を止めて下さい。人殺しにはしないで下さい。」
草薙素子「その為に来たのよ。」

イシカワ少佐
草薙素子:何か見つかった?
イシカワ:今の所駅や空港のモニターにそれらしき人影は映ってないな。しかし辻崎一佐の事で一つ気になる事が・・・
草薙素子:辻崎一佐の?
イシカワ:俺が軍属の頃に聞いた話なんだが、内の課長と久保田陸自情報部長、それに辻崎一佐は殿田塾三羽鴉って呼ばれていてな、その中でも特に辻崎一佐は人望が厚く特に新人の教育に定評があったそうだ。狙撃から爆発物解体、近接戦闘、それに武器調達や潜入方法に至る迄あらゆる技術を教え様々な名手を育てていったと言う話だ。ここから先は単なる憶測なんだが、辻崎ユウのここ迄の動き、我々の行動を先読みしている様な到さ、それを合わせて考えると
草薙素子:父親がライブラリに残したのは、長年蓄積した戦術理論だったとしたら、辻崎ユウは携帯端末に残されたパスワードを使って極秘裏にその情報を入手する事に成功した。つまり、今の辻崎ユウの頭の中は優秀な諜報員によって訓練された暗殺犯と一緒だと?
イシカワ:確証は無いが、我々の追跡をかくも鮮やかに撒いているとなると、その可能性は高いと思うがな。
荒巻大輔バトー、言う迄もないが儂の旧友の息子であろうと私情は持ち出すな。金外務次官の身の安全を守る事が我々の最優先事項だ。それ以外の事を考えるな。
バトー「元よりそのつもりですけどねえ。」
草薙素子:課長、そうは言ってもなるべく彼を助ける様にする。でも最悪の場合は・・・
荒巻大輔:無論だ。
9課オペレーター「荒巻課長、陸自からコード8390852で電通が入っておりますが。」
荒巻大輔陸自の旧式暗号・・・解読してこちらに回せ。」

辻崎:久しぶりだな、荒巻。
荒巻大輔「辻崎・・・!?どういう事なんだ?」
辻崎「最初は何もする気は無かった。只俺に真実を知らせたかったんだ。将来に語り継いで行って貰いたい真実。それを知らせる為に私は記憶を俺の電脳の上に上書きしたのだ。まさかそれが俺を暗殺者に仕立て上げてしまう事になるとは思わなかったが。」
荒巻大輔「データライブラリに何を隠したと言うんだ?」
辻崎「沖縄を巡る真実だ。それを後世に語り継いで行って貰いたいだけだ。だが俺はそれを知る事で、母さんの死の真相を知り、そしてそこからは復讐心しか生まれて来なかった。私にとってそれは誤算だった。私は暗殺等遂行しようとも思わなかった。だけど私には俺の復讐心をもう止められないんだ。」
荒巻大輔「この後に及んで復讐か。お前らしくないぞ。」
辻崎「私もそう思うよ。今の私は辻崎英雄でもあり、辻崎ユウでもある。溶け合っていく記憶が意思に伝わり、私の考えで俺が動く。或いはその逆か。もしかしたら全てが終わったら私は俺でもない全く別の自分になってしまうのかもな。」
荒巻大輔「息子を殺人犯にするつもりか?」
辻崎:出来れば、そんな事はしたくない。けどな、もう誰にも止められないんだよ。きっとユウの若さがそうさせるんだろう。サオリを宜しく頼むよ。やはり私は復讐を果たさなければならん様だ。」
荒巻大輔「辻崎。」
辻崎「すまんな、荒巻。」

トグサ:くそー。識別コードにも引っ掛からない。入り口でもっと一般の墓参者を足止め出来ないのかよ?
バトー:出来るだけ多くの同胞と共に戦没者を慰霊したいって金外務次官のリクエストなんだとよ。
バトー:とは言え、まるで殺して下さいって言ってる様なもんだな。どっちに転んでも最高のパフォーマンスな訳か。サイトー、ポイントは特定出来ねえか?奴は超長距離レンジの狙撃ライフルを持ってる。分解して携帯したとしても目立つ筈だ。
サイトー:狙撃するなら今俺がいる所がベストポジションだろう。ここ以外じゃ海風の影響や遮蔽物が多い。まともな狙撃は出来んぞ。

ボーマ:ちっ、こんな日に釣りかよ。
バトーボーマボーマ:いや、こっちも何もねえよ。
バトー「予定じゃこのあと花束の贈呈か。べったり張り付いてるSP共が離れる絶好のチャンスだ。何処だ・・・?どっから狙ってやがる・・・?」

トグサ:武器が見つかった。
バトー:奴は?
トグサ:本人は見つかってない。見つかったのは狙撃中一丁と服を取られた学生が一人。
バトー:狙撃はフェイクか。あ!

バトー少佐、来てたのかよ。」
草薙素子「辻崎一佐のデータからぎりぎりで手の内が分かってね。最も確実な暗殺手段、それは退路を考えず標的の傍らに近づく事だって。」
バトー「片道切符の暗殺者って訳か。」

草薙素子「なに!?」

テレビ音声「金外務次官は予定されていた全日程を無事終了し昨日午後帰国の途につきました。」
草薙素子「危険を伴う方法だったけど、暗殺を成就したと言う更なる記憶を彼の電脳に上書きさせる以外方法が見つからなくってね。只申し訳ないけど、例え目を覚ましたとしても貴方を覚えていないかもしれないし、弟でも父でもない全くの別人になってしまった可能性もあるわ。」
サオリ「構いません。ユウが生きて私の傍にいてくれさえするなら。」
荒巻大輔「何かあったらここに連絡してくれるといい。」
サオリ「有難う御座います。」

草薙素子「父親の残した情報を元に、息子が記憶を復元し二人の人格が共存しようとした。その結果相互に干渉してしまったのね。でもあれで辻崎一佐の記憶は消えたと思うわ。それにほんの少しの可能性だけど元の辻崎ユウ少年に戻ると言う確率だって存在している。」
荒巻大輔「ああ。だがこの歳で親友を2度失うのは堪えるよ。」
草薙素子「戦友じゃなかったの?」
荒巻大輔「そうだったな・・・」


脚注
※1:heritage 生まれながらに受け継いだ物、親譲りの物、天性、運命、遺産等の意。

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