the Cat Met with Special Boxes.

第19話 偽装網に抱かれて CAPTIVATED

ぎそうもうにだかれてEmbraced by a Disguised Net

粗筋

神崎元首相の娘、玲子が突然失踪してしまう。
果たして本当に失踪なのか、それとも誘拐なのか。
個人的怨恨か、組織的犯行か。
9課の間に繰り広げる情報の規制、漏洩、そして撹乱。
やがて、捜査の中で、過去に数々の組織的犯罪に関与してきたクルツコワと言う名の女スパイの存在が浮上する・・・


登場人物

用語

セリフ

a stand alone episode:偽装網に抱かれて CAPTIVATED※1

トグサ「駄目だな。第一報の時と似たり寄ったりだ。」
バトー「こっちもだ。どいつも娘が居たとこ迄は覚えちゃいたが、肝心の消える瞬間ってのは見てねえとよ。」
草薙素子バトー、状況は?
バトー辺のIRシステムから映像を拾いに来て見たが何にも出ねえ。聞き込みも無駄だった。そっちは?
草薙素子:課長が今内務大臣と一緒に神崎元総理から事情を聞いてるわ。
バトー:なあ、似てると思わねえか?例の手口に。
草薙素子:課長もそう考えてるみたい。大都会のど真ん中で忽然と人が消える。目隠しイワン、奴等の常套手段ね。
トグサ:でも消えたってのはその目隠しイワンって呼ばれた集団拉致の存在を否定してきた他ならぬ神崎元総理の一人娘でしょう?連中にしたって態々自分達の首を絞める様な真似をするとは思えませんがね。
草薙素子:或いはそう思わせたい何者かの偽装工作か。

神崎「いっその事手の込んだ家出であってくれればと思うよ。メディアに叩かれ政権を追われて以来、娘には辛い思いばかりさせているからな。」
荒巻大輔「一昨年の集団拉致否定発言、ですな。」
神崎「ああ、無論それも公人の宿命と言われればそれ迄だが、私に言わせれば国家あっての国民だ。当時のロシアは拉致疑惑が発端となって外交面で窮地に立たされていた。EUとの窓口を失いつつあったロシアは、日本との関係を強くしたがっていたのだからな。それにしても犯人からの要求が未だに無いのは何故かね?」
荒巻大輔「実は確定ではありませんが、犯人は玲子さんを議員のご令嬢とは知らずに誘拐した可能性があります。」
神崎「と、言うと?」
荒巻大輔「今分かっている状況から推察するに、貴方自身がその存在を否定なさった目隠しイワンにより連れ去られたものと考えられます。」
神崎「馬鹿な。有り得んよ。」
荒巻大輔「議員は表向きその存在を否定して来られましたが、奴等の行動を知らない訳ではありますまい。」
神崎「まあ彼等のやってきた事は兎も角、そういった疑惑を擁護してきた私の娘をそうとは知らずに攫う等と言う事は考えられん。」
荒巻大輔「北方マフィアは上から下迄数万人の構成員で組織されています。使いっ走りの中には貴方の努力を知り得ない者もいるでしょう。」
神崎「君には失望したよ。その程度の推理にしか辿り着けんとはな。それとも何か、主流派の連中から捜査を妨害するよう圧力でもかけられたか。」
内務大臣「神崎さん、それは無い。お気持ちは察するが総理も大変憂慮されてこうして9課を捜査に加えた訳で。」
神崎「君には聞いておらん。」
内務大臣「あ・・・」
荒巻大輔「何かと危惧される事がお有りの様なのではっきり申し上げておきます。私はお嬢さんを無事に保護する事以外に興味はありません。」

荒巻大輔少佐草薙素子:聞いてたわよ。神崎元総理、相当疑心暗鬼になってる様ね。
荒巻大輔:無理もない。辞任騒動の発端は身内である与党内部からの垂れ込みだったのだからな。北方の臓器密売グループは明らかに祖国政府の暗黙の承認を得て動いているプロ集団だ。その事は神崎議員とて知らぬ筈はない。
草薙素子:なら尚更擁護派神崎の娘を誘拐したって事が解せないわ。本当に偶然の誘拐だと?
荒巻大輔:確証は無いがな。プロ集団と言っても末端は只のチンピラだ。だが近頃北方マフィア内部で不毛な抗争が起きているとの情報もある。そういったものに何らかの理由で巻き込まれた可能性はある。
草薙素子:前者なら神崎の娘って事、犯行グループの耳に入るのは得策じゃないわね。もし私が使い走りなら・・・
荒巻大輔:うむ。その情報だけは奴等に知られてはならない。その為の報道管制だ。それと同時に、敵に我々の動きも悟られるな。過去に目隠しイワンに対してこれ程迅速に警察が動いた例は無い。今は油断している筈だ。が、逆に気付かれれば人質全員を消して地下に潜るだろう。
草薙素子:分かったわ。バトー、敵は商品を生きたまま国外に持ち出すリスクを負うとは考えにくい。何処かで加工を行う筈だ。大量の人間を解体処理出来そうな施設を可能性の高い順に洗って。
バトー:了解。
トグサ「即物的だなあ、少佐は。」

玲子「あ・・・!ここは・・・?あ!」

クルツコワ「空気が悪いなあ。これでは何の為にアジアの奇跡後に産まれた綺麗な体を選んでるのか分からん。」
男「はいはい。」
クルツコワ「目標迄あと何人だ?」
男「んー・・・少しは休ませてくれよ。」
クルツコワ「この仕事が無事に終われば休暇をやる。だが万一終わらなかった時は廃業だ。」
男「あと3人。」
クルツコワ「よし、早急に確保して来い。私はここで女共の臓器と電脳デバイスの解体。出荷に備える。」
男「一人でやんのかよ。」
クルツコワ「解体作業は地元ヤクザに闇医者を紹介して貰ってある。」
男「そうじゃなくて俺の方。」
クルツコワ「当たり前だ。払った分は働け。」
男「分かったたよ・・・」

女「貴方神崎の娘でしょう?これって貴方のお父さんが無いって言ってた集団拉致じゃないの!?貴方の顔見た時何かの間違いだって思ったけど、さっきの女の言ってた事聞いてたでしょう。もう!どういう事なのよ!?」
玲子「そんな事・・・言われても・・・」

9課オペレーター少佐、最初の書き込みが入りました。」
草薙素子「もう?呆れるわね。何処から嗅ぎ付けるのかしら。」
9課オペレーター「場所はバーチャルシティ・βの垂れ込み寺。書き込みに対する反応、拡大中。個人サイトにも飛び火、確認。」
イシカワ「怪しいな。9大ネットワークが報道協定を破る為にリークしている可能性が高い。さぞかし面白いネタなんだろうが、どんな悲劇も娯楽に変えやがる。むかつく連中だ。」
草薙素子「まあ予想していた事だがな。犯人が第6レベルに到達する予測時間は?」
イシカワ「運に頼って精々2時間。AI検索でも掛けられたら物の20分てとこだ。」
草薙素子「F4デコイで連鎖破綻を仕掛けろ。それで更に30分は稼げる筈だ。」

トグサ「かわいそうに。本当に北方の拉致だとしたら天罰だよなあ。彼女が自分の娘じゃ無かったららどうする気だったんだ?」
バトー「仕事に私情を挟むんじゃねえよ。お前は個人的に神崎が嫌いなだけだろうが。」
トグサ「俺は国民の感情を代弁して言ってるつもりだぜ。今迄連れ去られた人間はどうなるんだよ。」
バトー「分からねえ理屈じゃねえが、今被害に遭ってる者の気持ちも考えろ。事実この3日間で行方不明になってる未成年の女性がこの街だけで29名確認された。今時未成年の家出なんぞ珍しくも無いが、29人中28人から既に何らかの捜索願いが出されている。それだけ身持ちの固い人間が消えてるって事だけでも北方の臭いがプンプンじゃねえか。」

トグサ「まあ、優先順位の高さから行けば妥当だけど、こんな分かり易い所に隠れてるかね。」
バトー「蓋を開けてみたら隣人が犯人なんて事は間々あるもんさ。」

クルツコワ「何故医者を連れてこない?」
ヤクザ「組長は前回の支払いも含めて5掛け払えば考え直すと言ってる。」
男「ふざけるな!前の代金なんてもうとっくに振り込んでるぜ。」
ヤクザ「知らねえなあ。こっちは上に伝えられた通り伝えてるだけだ。」
男「てめえん所はこっちの足元を見てっ掛け様って魂胆だな。ああ!?」
バトー「なんだありゃ?」
トグサ「さあ・・・?」
男「仲間か!?」

男「ちっくしょう。」
トグサ「どうなってんだ?」
バトー「知るかよ。とりあえず追うぞ!お前は反対側から回り込め。」

バトートグサ、女がそっちへ行った。油断すんなよ!」
トグサ「分かってるって。」

トグサ「当たりかよ。はっ!」

バトー「馬鹿野郎!さっさとその腕を捨てろ!」

バトー「よく生きてたな。」
トグサ「なんだよ。ひっでえな。一瞬家族の顔が頭を過ったぜ。」
バトー「お前の事じゃねえよ。」
トグサ「え?」
バトー「元SVRの婆さんさ。」
クルツコワ「警察か!?何処で追っ手が付いたんだ?早く女共を始末しなければ。」

バトー少佐、拉致されていたと思われる女性3名を保護した。女達の証言から北方マフィアの集団拉致に間違いはねえ。
草薙素子:で、議員の娘は?
バトー:主犯格の女が連れて、依然逃走中。
草薙素子:お前が付いていて何をやっていたんだ!
バトー:すまねえ。だが主犯の身元は判ったぞ。クルツコワだ。
草薙素子:クルツコワ!?あのロシア対外情報局SVRの元特殊工作員のか?
バトー:ああ、前世紀東南アジアを拠点として暗躍していた筋金入りの国粋主義者だ。
トグサ「前世紀って・・・」
バトー:年齢は不明、全身を義体化し若作りしちゃあいるが、中身は恐らく80に手が届く婆さんだ。
草薙素子:課長!
荒巻大輔:うむ。状況が変わったな。儂に考えがある。

荒巻大輔「失礼します。議員、お嬢さんを誘拐した犯人が判明致しました。」
神崎「誰だ?」
荒巻大輔「やはり北方マフィアの犯行です。」
神崎「で、玲子は。」
荒巻大輔「依然犯人が身柄を拘束したまま逃走中です。」
内務大臣「どうです?大使館に連絡を入れてみては。」
神崎「ああそうだな。」
荒巻大輔「それも宜しいが、彼等に白を切られた場合はどうするおつもりですか?」
神崎「だが貴様ら警察も当てにはならんだろう。」
荒巻大輔「言葉もありません。ですが私に一つ考えが。」
神崎「なんだ、言ってみろ。」
荒巻大輔「議員の力をメディアを通して利用するのです。今迄報道管制を敷いて隠して来た現状を逆にネット上に流してやるのです。」
神崎「なんだと?そんな事をすれば私はメディアの格好の餌食だ。それこそ政治家生命の終わりだよ。」
荒巻大輔「現行のいい加減な情報の垂れ流しを見れば、或いはそういう事になるやも知れません。しかし今はお嬢さんを無事救出する事が最優先事項です。聴衆にとって格好のスキャンダルは何よりも速くネットを駆け巡り必ず犯人の耳に届く。そうなれば議員の力が物を言ってくる。」
神崎「言ってる事の意味が分からん。」
内務大臣「そうだ。もっと分かる様に説明したまえ。」
荒巻大輔「今逃走している犯人は幸いな事にプロフェッショナルです。相手がプロであるが故に、この作戦は功を奏する。奇妙な事に思われるかもしれませんが、相手が敵であってもプロならばその行動原理に一定の信頼が置ける。つまり政府の犬である犯人が祖国の恩人である神崎議員の娘に手を出した事を知れば、必ず仲間に助言を求める。そして対応を考える間はお嬢さんに危害を加える事はまず有り得んでしょう。ですから尚の事、現状を速やかに聴衆の目に晒しておく事が望ましいのです。」
荒巻大輔「そうなった時、敵が逃げ込む所は一つです。」
神崎「大使館か・・・?」
荒巻大輔「あとは議員のご決断次第です。」

草薙素子イシカワ、F4デコイは有効か?」
イシカワ「今の所意味消失に効果を発揮している。」
草薙素子「課長の指示が出たらカウンターでリークを仕掛けるぞ。最速で飛び火を誘発させろ。」

トグサ「課長も随分と容赦の無い手に出たな。これじゃ神崎の奴晒しもんだ。」
バトー「どうやらお前と同じ血が流れてる様じゃねえか。怖え怖え。」

バトー少佐、俺はクルツコワの足取りを追う。どうせ落ち合う場所は同じだと思うがな。
草薙素子:そうね。こちらも今から出る。

クルツコワ「協力出来ないとはどういう事なんだ!?今迄散々いい思いをさせて来ただろう?」
電話の声「すまねえな。」

クルツコワ「私だ。ちょっと不味い事になってな。料金を倍払う。荷物の処理を頼みたい。」
電話の声「あんた不味い荷物を掴まされたらしいな。」
クルツコワ「どういう事なんだ。追っ手が掛かった事と関係があるのか?」
電話の声「なんだ、ニュースもネットしてねえのか?さっきから9大ネットワークはおろか個人サイトでもあんたの話題で持ちきりだぜ。北方のスパイが恩を仇で返すってな。集団拉致組織が擁護派神崎の娘を誘拐、怒った神崎は政治家生命を賭けて北方を糾弾して行くそうだ。あんた立場的に相当やばいぞ。おい、聞いてんのか?おい。」

クルツコワ「この中に神崎玲子と言う者は居るか。お前か!?お前か!?」
玲子「あ・・・」
クルツコワ「お前、神崎修三の娘か・・・!何で神崎の娘が対象者リストに入ってるんだ!?立て!来い!」

アナウンサー「各機関で既に報じられている通り、ここ3日間神戸港辺で相次いで起きた29名の若い女性の失踪事件に関して、捜査当局は元ロシア対外情報局の秘密工作員クルツコワ・ボスエリノフによる拉致の可能性が高いとの見解を発表しました。失踪者の中には神崎元首相の長女、神崎玲子さんも含まれており、神崎元首相が集団拉致の存在を否定していた擁護派の筆頭であるだけに、事件の成り行きは各界で論議を呼んでいます。」
クルツコワ「同志、私だ。不味い事になった。急いで日本人一人分の亡命手続きをして貰いたい。」

クルツコワ「ここでいい。来い!」
クルツコワ「立て!」
クルツコワ「くそ!」
クルツコワ「何故だ!?」
草薙素子「見捨てられたようね。」

バトー「そこ迄だ!」
バトー「まったくカラクリの多い婆さんだ。」

荒巻大輔「議員、たった今私の部下がお嬢さんを無事保護致しました。」
神崎「そうか。良かった・・・」
内務大臣「すぐに病院に向かわれた方がいい。」
神崎「ああ・・・荒巻君」
荒巻大輔「何でしょう。」
神崎「感謝するよ。」

荒巻大輔「ご苦労だった。」
草薙素子「クルツコワも考えてみれば惨めなスパイね。」
荒巻大輔「マフィアの内部抗争に負けたクルツコワが、神崎の娘の名を紛れ込ませた対象者リストを掴まされた挙句、裏切り者に仕立て上げられ、最も忠誠を誓っていた大使館の同志にも捨てられた、と言う訳か。」
草薙素子「でも課長、非常時に良くあんな事考え付いたわね。政治家生命と自分の娘の命を天秤に掛けさせるなんて。」
荒巻大輔「北方が関係している以上、神埼とのパイプを断つ事がこの犯罪の抑止力となる。その為には神崎自身が真実を認める必要があった。」
草薙素子「真実を認めた事で彼、楽になれて良かったじゃない。」
荒巻大輔「彼に感謝をされて損をする事はあるまい。」


脚注
※1:captivate 心を奪う、魅惑する、夢中にするの意。

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