the Cat Met with Special Boxes.

第20話 消された薬 RE-VIEW

けされたくすりVanished Medication

粗筋

トグサは、授産施設での油絵の具の落書きから、独自に笑い男事件の真相を推理し、厚生労働省の資料捜査を願い出る。
そこでトグサは、電脳硬化症の非認可薬についての普及活動を行っているNGO組織、ひまわりの会の存在を知る。
しかしトグサが訪問している最中に、事件は起こるのだった・・・


登場人物

用語

セリフ

警備員「うん?」

清掃員「あ・・・?あらやだ・・・」

complex episodes:消された薬 RE-VIEW

9課鑑識「安定している。次は?」
イシカワ「B14から16を。」
9課鑑識「抽出した記憶は証言内容と一致している。彼女は嘘をついていないと言う事だ。」
草薙素子「事務処理をしただけで目的は知らなかった訳ね。」
トグサ「でもナナオ・Aについての証言者達の記憶の上書きは、彼女が厚生労働省から出した正規の書類により執行された事は確かです。だとしたら、やはり庁内にこの上がいると考えるのが妥当では。しかも、俺が内偵に失敗したあの授産施設からも、厚生省に対するハッキングが行なわれていた。やはりあそこには笑い男事件について隠しておかなければならない何かがあるんですよ。」
草薙素子「或いは我々にそう思わせたい第三者の意図が介在しているのかもね。」
トグサ「だったらもう一度、厚生省のデータベースにダイブを」
バトー「これ迄イシカワボーマがうんざりする位サルベージを掛けただろうが。で、何処にも改竄履歴らしき物は見当たらなかった。情報の窃盗っていうのは盗んだ物が無くならねえんだから他の手段で迫るしかねえだろ。」
荒巻大輔「確かに厚生省は怪しい。しかし正面切って捜査をするとなると、こちらの動きも先方に知れる事になる。それでも動くとなると、それに見合うだけの見返りがなければな。」

トグサ「ふぅ、あっ、ごめん。食事中に。」
トグサの妻「お芋、おいしいよ。」
トグサ「うん。」
トグサの妻「今日のはよく味染みてるでしょう?」
トグサ「うん。染みてる。」
トグサの妻「うふふ。」

トグサ「誰も僕を知らず、僕の方でも誰も知らない所でありさえしたら、そこへ行ってどうするかと言うと、僕は耳と目を閉じ、口を噤んだ人間になろうと考えたんだ。なろうと・・・なるべき・・・なろうか・・・もしかして!」

草薙素子「で、サリンジャーの線を追ってるって?」
トグサ「ええ。」
草薙素子「確かに彼は笑い男と言う名の短編を残しているし、物語と事件との類似性を指摘する輩も少なくない。でもその著書に関しての解釈は特捜本部によって分析が済んでいる。作品の解釈が事件を解決する鍵にはならないと思うけど。」
トグサ「文学は現実を模倣する。だったらその逆だって。俺はあの授産施設で会った青年が本物の笑い男の様な気がしてならないんです。」
草薙素子笑い男と思しき容疑者はこれ迄たくさんいたわ。なのに、貴方がその青年を本物であると考える根拠は何?」
トグサ少佐笑い男のマークに書かれている文字の意味を知っていますよね?」
草薙素子「耳と目を閉じ、口を噤んだ人間になろうと考えたんだ。ザ・キャッチャー・イン・ザ・ライ25章からの引用と言う話ね?」
トグサ「ええ、報告書にも書きましたけど。その一部を施設の中でも見つけたんです。最初は小説のまんまだと自分でも思いこんでいた。でも俺が見つけた文章は、なろうと考えたんだの後に続きがあったんです。or should I?、だがならざるべきか。そう書き加えられていたんです。あれは彼自身の自問自答だったんじゃないでしょうか?沈黙を破り、再び世に出て行くべきなのかと言う。少佐にもこんな心理ありませんでした?例えば、好きなアーティストなんかを真似する時って、出来るだけ完全な物真似をする事でオリジナルに近づこうとするでしょ?なのにサリンジャーからの引用をあえて書き換えた青年は、自分が本物だったからこそ文章の最後を書き換えられた。」
草薙素子「随分個人的思考に因った推論ね。根拠としては余りにも弱いって分かってる?」
トグサ笑い男は、特A級のハッキングテクニックを持っていながらセラノ社長を直接誘拐したり、銃を持ち出したり、大凡技術力に似付かわしくないアナクロな行動が目立った犯罪者です。ひょっとしたら笑い男って、ハッキングが得意でありながら、いや、得意だからこそ書き換えが可能な電子情報に、なんら価値を見出していなかったんじゃないでしょうか?そう考えると奴が狙っていた物は物理的に保存されている情報、つまり紙媒体での資料だったのでは?」
草薙素子「それを直接確かめて来たい?」
トグサ「はい。」
草薙素子「施設での失敗の感情的復讐戦って事だったら止め様と思ったけど、貴方もゴーストが囁く様になって来たのかしらね?いいわ好きにしなさい。課長には私から言っておく。」
トグサ「有難う御座います。」

フィービー「どう?」
トグサ「どうにか終わったよ。答えはこれからだけどね。」
フィービー「最初の2、3日で諦めると思ってたけど、粘り強いのね。」
トグサ「ま、仕事だからね。あ、この間はすまなかったね。」
フィービー「ま、仕方ないじゃない、仕事だからね。」
トグサ「うん、あった。」
フィービー「何があったの?」
トグサ「と言うよりあるべき物が無いんだ。村井ワクチン接種者リスト。このファイルだけが無くなっている。」
フィービー「本当だ。別のボックスに紛れ込んでいないかしら?」
トグサ村井ワクチンって・・・?」
フィービー電脳硬化症に効果のある特殊な薬なのよね。発表された当時は、マイクロマシン療法がまだ実用化されていなかったから余計話題にもなったの。でも結局医薬品としての認可は下りなかった。」
トグサ「何故?」
フィービー「一応、ワクチンには一定の効果があったらしいんだけど、メカニズムがよく分からなかったのよ。何故か効く。でも結果には必ず原因がセットになっていないと、薬として認可はされない。」
トグサ「成る程。」
フィービー「だから当時の審議会も簡単に認可する訳には行かなかったの。それに村井博士は電脳硬化症の専門じゃなかったし、偶然の発見だったのね。ま、それでも始めから順調に行った訳では無くて試行錯誤の末、ワクチンを完成させたらしいけど。」
トグサ「うーん・・・で、そのワクチンの接種者リストが紛失している・・・」
フィービー「いつから無いのかしら。あんな物盗んだって何の役にも立たないと思うけどなあ。」
トグサ「誰か心当たりは無いかな。そんなファイルでも価値を見出しそうな奴。」
フィービー「そうね・・・ 強いて挙げればひまわりの会位かしら。」
トグサ「ひまわり・・・?」
フィービー「明日迄に報告書書いとかなきゃ・・・」

トグサ「2019年、当時電脳化が一般的になり始めて間もない頃、ある原因不明の電脳障害が医学界で話題となった。電脳化を施した部位が次第に硬化し、最終的には脳死に迄至る。後に電脳硬化症と呼ばれる症例である。発症する確率は極めて低い物の、電脳化している者なら誰でも罹る可能性がある。一度発症すれば根本的な治療法が見つかっていなかった事から、結核・癌・エイズ等に続き、21世紀の不治の病と言われた。村井ワクチンとは、その特効薬として医学博士村井千歳によって開発された抗腫瘍抑制剤である。しかし当時の医師会は、マイクロマシン療法推進派が主流を占め、村井博士の開発したワクチン療法は時代に逆行している事もあり、研究を認可すればマイクロマシンでの治療法の完成をも遅らせるとの意見が大多数を占めた。その為か村井ワクチンの認可は見送られ、ワクチン療法を最後迄夢見た村井博士は、2021年2月、薬事審議会の裁定を見届ける事なく68歳で無念の死を遂げた。ところが、21年4月、一度は不認可とされた村井ワクチンは急遽、特定指定者有償治験薬として認可される事になる。この認可は一般的には発表されておらず、村井ワクチンを使用している患者も表向き存在しない事になっている。この事実に今も興味を抱く者、ひまわりの会。大手企業や政府機関に対する個人レベルからの告発や裁判をサポートしているNPO団体。彼等は過去にも関係省庁に対し、村井ワクチンとその接種者についての情報開示を再三にわたって要求。しかし厚生省サイドは個人情報規制法を盾にそれを拒否。」
トグサひまわりの会笑い男が関係あると考えたのは俺の早とちりか?うーん・・・」
トグサ「このマーク・・・」

ノギ「成る程。確かによくお調べになっておられる。フリーのジャーナリストですか?」
トグサ「実は、数ヶ月前に父が電脳硬化症で他界しまして、最後迄マイクロマシン療法を受けていたんですが後になってこちらの活動を知り、村井ワクチンの存在を。」
ノギ「そうですか。お気の毒に。」
トグサ「誰かがもっと早く、村井ワクチンの効能を伝えてくれていたら、父も助かったんじゃないか、そう思うと残念で。」
ノギ「ああ・・・」
トグサ「私は今迄こうした事には関心すらありませんでした。でも父と同じ病気の人の助けになるなら自分の仕事で役に立ちたい。」
ノギ「分かります。過去にもそうした志を持った方は大勢いましたが、悉く失敗に終わっている。」
トグサ「それは何故?」
ノギマイクロマシンを否定されては困る連中が多いって事です。それも彼方此方にね。」
トグサ「やはりそうでしたか。只私は幸い、芸能関係に顔が利くんです。聞く所によると芸能関係者の中にも、村井ワクチンを秘密裏に接種している者がいるとか・・・こういう堅い話は広がりにくい。話題を広めるにはある意味スキャンダルも必要じゃないですかね?」
ノギ「どうやら一時の感情だけでお越しになった訳では無い様ですね。実はあるファイルを手に入れましてね。」
トグサ「ファイル?」

班員「弁護士会への接触を確認。」
安岡「陳腐な暗号変換だな。嘗めてんのかねえ?全く、近頃の素人には頭に来るぜ。」
班員「到着迄2分。」

ノギ「まあ、見てください。」
トグサ「うん?これは作家の・・・」
ノギ「そうです。他にも芸術家、元スポーツ選手、これは浜大医学部の教授ですよ。」
トグサ「驚いたな。政治家の名前もありますね。」
ノギ「ええ、更に決定的な人物が村井ワクチンの接種を受けています。分かりますか?」
トグサ今来栖尚中央薬事審議会理事長。村井ワクチンを不認可にした理事長本人が、そのワクチンに頼っているんですか?」
ノギ「昨日、その今来栖本人からこのファイルが届いたんです。」
トグサ「どういう事なんです?」
ノギ「今来栖は長年の行為に対して、沈黙を守る事に疲れてしまったそうです。効果を認めておきながら、何らかの思惑により村井ワクチンを黙殺してきた。今来栖は、彼しか知らないその理由を司法の元で語る事を約束してくれました。」
トグサ「薬事審議会の中心人物がワクチン黙殺の理由について証言すると?」
ノギ「ええ。今度こそ我々が勝てます。」

トグサ麻取の強制介入班!?」

安岡「おらおらあ。さっさと殺せ。目標は後でゆっくり探せばいいぞ。まずは皆殺しだ。」

トグサ「連中は厚生省の関係者です。」
ノギ「じゃあ、このファイルを!?」
トグサ「すぐに逃げてください。相手は組織的に訓練を受けている。」
ノギ「貴方は一体?」
トグサ「公安の者です。」

トグサ「こっちはまだ安全です。」
ノギ「ファイルをお任せします。ここでの事を明るみに出してください。誰かがファイルに託された事実を語る必要がある。」
トグサ「いや、それは貴方方の仕事です。」
ノギ「貴方の方が脱出出来る可能性が高い。」
安岡「おーい。そっちの部屋はどうだ?」
トグサ「とにかく行きましょう。」

ノギ「あっ!」

安岡「うーん。おっと、味方がやられてるぞ?」
安岡「まあ、こっちもちっとは死んでねえとな。それがリアリティってもんだろ・・・なあ!」

安岡「死体を探しておけ。」
班員「うっ!」
安岡「へへへへ。」
トグササイボーグ・・・!」

トグサ「あっ、はあー。」
安岡「おーうおうおう。面白くなってきやがった。生き残りがいる。こっちに回れ。」
トグサ「うっ、あっ、うわっ!」
安岡「おらあ、おらあ。早く逃げないと撃っちゃうぞ。」
安岡「畜生、あれ内のトラックじゃねえか。お前等、ちゃんと殺してこい。」

安岡「局長。作戦終了。でも例の物はコピーですね。」
新美「何だと!?」
安岡「出所は分かりました。今来栖です。」
新美「ファイルの原本を持っているのはお前なのか?」
今来栖「違う、私じゃない。信じてくれ。」
新美ひまわりの会が手に入れた複製ファイルは、お前の所から送付されたものらしいぞ。まさか今さら懺悔づいた訳ではあるまいな!?」
今来栖「そんな事をして何の得がある?誰かが私の名前を語っているだけだ。」
新美「じゃあ、接種者リストにお前の名前があると言うのは?」
今来栖「うぅ。」
新美「答えろ。お前は電脳硬化症なのか。」
今来栖「随分前からな、既に末期だそうだ。」
新美「何故俺に一言相談しなかった!?リストに記録を残す様な失態を!」
今来栖「すまん、只、やはり村井は効く・・・」
新美「そんな事は分かっていた事だ!処分を待て。」
安岡「どうします?消しますか?」
新美「黙ってろ。後で連絡する。末期だと・・・馬鹿め・・・」

トグサ「くそっ、俺も全身義体化しとけばよかったかな・・・」

トグサ少佐、課長・・・やられちゃいました・・・」

トグサの妻「ふわあ、眠い・・・雨?」



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