the Cat Met with Special Boxes.

【攻殻機動隊】第23話 善悪の彼岸 EQUINOX

ぜんあくのひがんThe other side of good and evil

粗筋 page top

セラノ・ゲノミクス社のアーネスト・瀬良野社長邸の前に立つ、フードを被った1人の人物。
「笑い男」事件の発端とも言うべき6年前の誘拐事件と全く同じ手口の犯行に色めき立つ警察庁。
9課の面々も笑い男の身柄を拘束すべく動き出す。

登場人物 page top

用語 page top

台詞 page top

男「ん?」
男「増強されたパトロールか。」

complex episodes :善悪の彼岸 EQUINOX※1 page top

草薙素子イシカワ、強制介入班の残党から新たな証言は?」
イシカワ「大した情報は得られなかった。奴等のトップは電脳自殺を謀った新美局長自身で、それより先に進めず仕舞いだ。」
パズ「肝心の笑い男も見つからない。」
草薙素子「そうね。今後は課長の指示に従い、この人物を攻める。」
バトー「こいつは・・・!」
草薙素子「そう、現連合与党幹事長、薬島薫議員。」
イシカワ「薬島幹事長っていやあ今は党内ナンバーワンの実力者で、笑い男事件発生当時の厚生大臣だ。」
ボーマ電脳技術の管轄を通産省から厚生省に移し今の地位を築いたバリバリの厚生族。」
草薙素子「しかも余り知られてはいないが、彼と海自との間にも黒い繋がりがある。」
バトー「じゃあアームスーツの出所はその辺りか。」
草薙素子「課長はそう睨んでいる様ね。」
草薙素子「事実、政界と海自の間に太いパイプを通したのは、海上幕僚長だった薬島がかなりの額の支度金を以て政界入りしたのが切っ掛けだが、その支度金の出所を巡って海自の経理担当官が機密費横領で薬島を告発、しかし担当刑事が線路脇で轢死体となって発見され捜査はストップ。結局疑惑は解明されぬまま、薬島は不起訴処分になっている。」
荒巻大輔「更にだ、引退した大堂警視総監が薬島と同じ防衛大の後輩であり、殺された今来栖は軍医時代から薬島と最も親密なゴルフ仲間だったそうだ。」
草薙素子「もう動いても大丈夫なの?」
荒巻大輔「儂だけ寝てる訳にもいかんだろう。」
イシカワ「すると一連の事件に関して、こいつが裏で糸を引けば、全てをやれるだけの後ろ盾は持ち合わせているって訳ですか。」
荒巻大輔「今の所、証拠は一切無いがな。」
草薙素子「で、現役の幹事長をどうやって攻めるつもり?」
荒巻大輔「薬島幹事長と笑い男事件を結びつける最後の線を手繰る。」
草薙素子セラノ・ゲノミクス。」
荒巻大輔「そうだ。笑い男事件の発端と思われる村井ワクチンの黙殺と、時を同じくして認可されたセラノのマイクロマシン療法、この双方に深く関与していると思われるアーネスト・瀬良野氏を拘引※2し、直ちに事情聴取を行えばその繋がりも見えてこよう。瀬良野氏は事件以後6年間、今も身辺警護の名目で軟禁されている。手段を選ぶな。今度は確実に保護しろ。」
草薙素子笑い男もそう考えているでしょうね。もしかち合ったらどうする?」
荒巻大輔「拘束しろ。ある意味奴こそがこの事件の最重要参考人だからな。」
バトー「また俺達が動いて瀬良野が消されるって可能性は?」
荒巻大輔「当然考えられる。だから手段を選ぶな。」

刑事1「瀬良野社長、オランダ支店から連絡が入っていますが、如何なさいますか?」
アーネスト・瀬良野「出社後、こちらから連絡を入れると伝えてくれ。」
刑事1「分かりました。」
アーネスト・瀬良野「済まんね。いつも秘書の様な仕事をさせてしまって。それにしても君は今迄私についてくれた刑事さん達の中では最も優秀だよ。どうかね、このまま私の秘書にならないか?俸給を払うよ。」
刑事1「恐れ入ります。あ、お車が到着した様です。」
アーネスト・瀬良野「そうか、有難う。」
刑事1「これからそちらへ参りますので暫くお待ちください。」
アーネスト・瀬良野「改めて警備が強化されると少し緊張するな。」
刑事1「ご心配には及びません。」
アーネスト・瀬良野「ふぅ・・・」

アーネスト・瀬良野「開いてるよ。」
アーネスト・瀬良野ひまわりの会と今来栖のニュースを見た時から、次は私の所だろうと覚悟していたよ。」
笑い男:6年前の約束を果たして貰いに来ました。一緒に来て頂けますか?

刑事2「対象が部屋を出た。」
刑事2「玄関ホールの方へ向かう。」

刑事1「お早う御座います。」
アーネスト・瀬良野「お早う。」

刑事3「玄関の扉を開く。」
刑事4「お気を付けて。」
アーネスト・瀬良野「有難う。」

刑事3「対象は玄関ホールを抜けた。」
刑事5「了解。今確認した。」

アーネスト・瀬良野「あの時と同じだな。」
笑い男:そう、廊下にいたのが貴方の家族か刑事かの違い位でしょうかね。尾行の車もありませんでした。
アーネスト・瀬良野「で、どうするのかね?」
笑い男:運転手さん、次の交差点を左に行って下さい。

刑事5「らしくないな・・・」
刑事6「離されるな。」
刑事2「うぅむ・・・」

笑い男:これで覆面パトカーがセラノ・ゲノミクス社に到着する迄およそ1時間。あそこでこの6年間、僕との約束を果たさず沈黙を続けた理由を聞かせて下さい。今後の方針を決めなくちゃ。
アーネスト・瀬良野「大胆だな。」

警官1「動くな。両手をボンネットの前に付け。」
バトー「慌てるんじゃねえよ。」
荒巻大輔公安9課だ。先程連絡を入れたが?瀬良野氏は既に此処を出たと言うのは本当か。」
警官2「いつも通り迎えの車が出発したが、何か?」
バトー「時計をよく見てみろ。いつもの時間かあ?」
バトー「随分働き者の社長じゃねえか。お前等雁首揃えて奴に目え盗まれてたんだよ!」

刑事1「私が連絡した時も瀬良野氏は1人でした。」
バトー「ふん、監視カメラのAIハッキングされているな。」
刑事1「メドゥーサ?」
バトー「身分証。」
刑事1「え?」
バトー「早く。」
バトー「全くお前等、お人好しだな。」
刑事1「これは・・・」
バトーインターセプターだよ。未だに仕掛けられたまんまでいるとはな。インターセプターは外部へデータを送る時、電脳内にある通信デバイスを利用する。時々負荷をを感じる事があった筈だ。」
刑事1「あ・・・!どうなっているんだ・・・?」
バトー「お前等の脳には瀬良野1人が通ったと記録されているだろうがな。インターセプターにはしっかり奴の姿が映ってる。これが6年前の誘拐の真相だ。」
荒巻大輔少佐、瀬良野邸から半径3キロのIRシステムに潜って瀬良野氏の公用車を捜せ。笑い男が再び瀬良野氏を誘拐した。なんとしても見つけ出せ。
草薙素子:分かったわ。でもIRシステムに車が映っているって保証は無いわよ。イシカワイシカワ:聞いてましたよ。一斉検索をかける。
草薙素子AIへの上書きの可能性も考慮しろ。
イシカワ:了解。

アーネスト・瀬良野「30分程この辺を流していてくれ。ちょっと個人的な用事だ。」
笑い男「行きましょう。」

笑い男「此処からの眺め、随分様変わりしましたよね。瀬良野さんは白い物が目立つ様になったし。」
アーネスト・瀬良野「過酷な6年だった。君の脅迫から私を保護するのが表向きの名目だが、実際は事件の真相について私が余計な事を喋らない様に見張るのが目的だ。事実上軟禁だな。君はあの時に比べると青臭さが無くなったな。」
笑い男「少しは成長出来たんでしょうか。確かにあの時は世の中の全てのいんちきに蹴りを入れてやるって本気で思ってた位だから。でも、そういう瀬良野さんだって相当尖がっていたじゃないですか。匿名で電脳ハッキングしてきた只の学生に脳潜入を許していたとは言え、2日間も付き合ってくれた訳ですからね。」
アーネスト・瀬良野「青臭い事を言う学生なぞ論破してやろうと言う熱情は、まだ確かに残っていたよ。」

アーネスト・瀬良野「君の言い分は分かるが、私はマイクロマシンの開発者で薬事審議会の委員じゃない。村井ワクチン不認可には関係ない。」
笑い男:それは分かります。でも薬事審議会は糞っ垂れでいんちきな集団だ。いずれあの連中にも挑戦して行かなくちゃならない。まずは貴方に、御社のマイクロマシンが硬化症に対して殆ど効果が無いってデータを公表して欲しいんです。
アーネスト・瀬良野「だから何度も言う様に、それは出来ん相談だ!確かに3年前の脅迫メールに書かれていた通りあの時点でのマイクロマシン療法は理論上のアイディアに過ぎなかった。だが特許とはそういう物だ。確実に到達可能な技術を先に登録する事はなんら違法じゃない。」
笑い男:糞っ垂れの弁護士なんかはみんなそう言うんだ!全く!
アーネスト・瀬良野「確かに認可申請が早過ぎたのは自覚していた。それは競合していた他社へのブラフでもあったが・・・我々の予想を超えて3ヶ月で審議会に認可されたのは弊社の理論が優れていると認められたからだと思っている。今、医療用マイクロマシンの信用を貶める事がどれだけ大きな損害か君には分かっていない。今後大きく発展していくこの分野」
笑い男:僕が言いたいのは、電脳硬化症に苦しんでいる人にとっては生きるか死ぬかの問題だって事です。せめて確実な効果がマイクロマシン療法に認められる迄村井ワクチンに可能性を譲る事は出来ないんですか?
アーネスト・瀬良野「村井に関して私が言える事は何も無いよ。」
笑い男:本当にそう言い切れますか・・・?もし神様の野郎が悪戯心を起こして貴方を電脳硬化症にしたら、貴方は迷わずマイクロマシン療法を選ぶんですか?
アーネスト・瀬良野「当然だ。自分が作って来た物に誇りと自身を持っている。」
笑い男:じゃあ、貴方の子供が電脳硬化症になっても?
アーネスト・瀬良野「ああ、そうするだろうな。仮定の話はこれ以上出来んな。」
笑い男:誇りと情動は別物ですよね。ずるいな瀬良野さん。それ程マイクロマシン療法に誇りを持っているのなら、貴方の立場を活かして正義を成すべきだ。今来栖は村井博士の名前の付いたワクチンを不認可にする事しか頭に無かったんだ。本来、厚生省の窓口を通った新薬に認可の判を押す為だけにあった糞審議会!その理事に就任した今来栖は村井ワクチンを潰す為に態々不認可の判迄作った。そんな醜い足の引き合いに、貴方のマイクロマシンも利用されたんですよ。瀬良野さんだってその辺の事情、全く知らない訳じゃないでしょ?あいつ等は別に貴方のマイクロマシンじゃ無くったって良かったんだ。あの時期に申請が出ているマイクロマシンならどんな糞だって良かったんですよ!医療業界の糞っ垂れな体質を知ってて
笑い男「それでも貴方は自分に関係が無いって言い切れるんですか!?」

アーネスト・瀬良野「ふぅ・・・分かった、こうしよう。一旦拘束を解いて私を自由の身にしてくれ。その後準備が出来次第、マスコミを集めてマイクロマシン療法の現状を発表する。」
笑い男:本当ですか?貴方にとってなんのメリットも無い約束ですよ。
アーネスト・瀬良野「私はそんなけちな人間じゃない。君程じゃないが私も社会正義は人並みに持ち合わせているつもりだ。」
笑い男:どうかな・・・
アーネスト・瀬良野「約束する。ん・・・?」

アーネスト・瀬良野「あの時君の脳潜入に疲れきっていた私は、その場を逃れたい一心でそう約束した。そして聴衆の目があるテレビカメラの前迄行けば、君もこれ以上の無茶はしまいと考えていた。
笑い男「そう、でも運悪く僕のポケットにはSWのチーフ※3が入っていた。」

アーネスト・瀬良野脳潜入を解いてくれないか。君もこれが犯罪行為だって事は自覚している訳だろう。顔を隠して匿名性を維持したいなら、テレビに映るのは不味かろう。」
アーネスト・瀬良野「おぉ・・・うぅ・・・君との討論は楽しかったよ。だが企業を守る者として約束を守る事は出来ないかもしれん。社会とは君が思っている程単純ではない。私も君が何者なのかは詮索しない。今は此処で別れよう。」

アーネスト・瀬良野「ん・・・?」
笑い男「そいつはずるいな!」
通行人「あ・・・きゃあ!」

笑い男「だったら今、あのカメラの前で真実を語ってください!」
アーネスト・瀬良野「やめろ、君には撃てんよ。」
笑い男「どうかな!?」
アーネスト・瀬良野「ぐはっ!」

アーネスト・瀬良野「あの後、警察に保護された私は、君との2日間が世間を騒がす重大な誘拐事件に発展していた事を面会に来た専務から聞かされて知った。最初に君と家を出た直後には、既に社の方へ膨大な身代金要求がされていた事をね。だが私は君がそんな要求をしたとは到底信じられなかった。確かに君は天才的なハッカーで犯罪者には代わり無いが、その能力は若者らしい正義感を、世の中の不正にぶつけて行く為だけに使われている様に見えたからだ。だが警察は君を身代金目的の誘拐犯だと断定し、私に何か心当たりは無いかと執拗に尋問を繰り返した。しかし、私と専務は一切思い当たる節が無いと言い張る事に決めた。自社のマイクロマシンの不備が追及される様な事態を招いてはならないと。君の言う通り、我々は脛に傷ある身だと思い知らされたよ。我が社はマイクロマシンの秘密を人質に取られて身代金を要求されているのだとね。」
笑い男「そして、その後のマイクロマシンへの殺人ウイルス混入事件。」
アーネスト・瀬良野「そうだ。私はマイクロマシン療法を認可されてその気になっていた自分に、怒りを覚えると共に君を心底呪ったよ。これでは只の企業テロじゃないか、と。だがあれは君じゃなかったんだろう?世の中に潜む悪は我々が想像する様なレベルを超えてそこにいる。殺人ウイルス混入事件で破綻寸前迄追い込まれた我々脅迫企業に対し、公的資金が導入されたのは君も知っているだろう。その後の顛末についても話しておこう。暴落していた株価が徐々に戻り始めたのと時を同じくして、ある代議士の私設後援会会員を名乗る男が我々の下を訪れた。彼は企業脅迫をやめさせる事が出来る人物を知っているので、もし無事に犯行終結宣言が出された暁にはその代議士に献金してくれないかと言ってきた。提示されたのは公的資金と脅迫された要求金額を合わせた額だった。なんの事は無い。我がセラノ・ゲノミクスは後発メーカー故に始めから企業テロに目を付けられていたと言う事だ。」
笑い男「僕のやった事は彼等にとって正に都合のいいパフォーマンスだった訳ですね。」
アーネスト・瀬良野「そういう事になるな。彼等は君が引き起こした事件を模倣し続ける事で笑い男と言う虚像を作り出した。実在しない犯人の顔をちらつかせて株価を操り、内以外の企業からも金を奪った。それ以前に株の空売りだけでも相当の額を手にしている筈だが。」
笑い男「その代議士とは薬島幹事長ですか?」
アーネスト・瀬良野「知っていたのか?」
笑い男「本来ハッカーって奴は隠された物を覗き見する為に存在している様な物ですから。自分が挑もうとした伏魔殿の闇の深さに敗れ去った僕も、全ての事から目を背け、耳を塞いだまま沈黙を続けるしかなかった。貴方が6年間そうしていた様に。」
笑い男笑い男、上手いネーミングですよね?僕はホールデン※4の言葉を引用して、貴方の説得に失敗したら自分が消えようと思っていただけなのに。サリンジャー繋がりか。参ったね。ねえ瀬良野さん。彼等がそうするなら、僕がオリジナルの笑い男になって、薬島のいんちきを白日の下に晒さなきゃ。」
アーネスト・瀬良野「私も君が姿を現した事で決心が付いたよ。彼を告発する為に必要な証拠は少ないが私も君の模倣者になって戦おう。」
笑い男「証言台に立つ迄は死なないで下さい。」
アーネスト・瀬良野「ああ。」

警官隊員:2班、準備完了。
警官隊員:3班、準備完了。
警官隊員:4班、準備完了。
警官隊員:全班、配置に就きました。

警官隊員:ビル内セキュリティシステム掌握。
荒巻大輔バトーバトー:対象に変化無し。
荒巻大輔:突入!

警官隊員「全員動くな!」
警官隊員「全員そのまま!」
警官隊員:対象Bを確保。1人です。対象Aは確認出来ません。
荒巻大輔:そのまま待機。

バトー「大した演技だな。それならどんな奴の目でも簡単に盗めるぜ。
草薙素子:ふっ・・・学芸会には一度も出た事無いんだけど。
バトー「薬島と瀬良野の繋がりとやらは掴めたんだろうな?」
草薙素子「ええ。笑い男から聞かされた事も本当だったわ。これで瀬良野氏も決心した筈よ。行けるわ。」


脚注 page top

※1:equinox 昼夜平分時、天文学における分点の事。
※2:こういん 人を捕らえて無理に連れていく事。
※3:Smith & Wesson社のModel 36回転式拳銃。
※4:Holden Caulfield ライ麦畑でつかまえての主人公。

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