the Cat Met with Special Boxes.

第2話 飽食の僕 NIGHT CRUISE

ほうしょくのぼくWell-Fed Me

粗筋

しがないヘリパイロット「ギノ」。
戦争で身体の一部を失った彼は夜な夜な妄想する。
この世の不正を白日のもとにさらし鉄槌を下すべきだと。
そんなささくれ立ったギノの心は、娼婦のヒララによってのみ癒される。
ギノは、権力の中枢に存在しヒララの顧客でもある3大ネットワークの会長に狙いを定め、真実とヒララを開放する為に銃を片手に行動を開始しようとする・・・


登場人物

用語

セリフ

片倉「結局、我々は事実如何に関わりなく、贖罪の機会を求めていたのも事実ですよ、アジア諸国に対してね。」
議員「前世紀の戦後教育を受けた者なら、尚更そうかも知れんね。」
片倉「アジアとヨーロッパとの戦争を傍観しつつも、各地で第二のベトナム戦争を戦った事然り、そして、この救済基金の数字然りだ。」
議員「私はもう・・・」
片倉「これも税金だと思えば・・・」
議員「会長にはかないませんなあ。」

片倉「うー!」
議員「おお・・・」
片倉・議員「ああ!」

議員「き、君は・・・!」

片倉「や、やめろギノ!」
片倉「た、助けてくれ!お、お願いだ・・・ギノ君・・・!」

片倉ギノ君」
SP「おい!」
ギノ「はっ!」
片倉ギノ君、どうかしたのか?少し揺れが激しいな。」
ギノ「申し訳ありません・・・会長。」
片倉「うぅむ。」

dividual episodes:飽食の僕 NIGHT CRUISE

パイロットA「どうだ、例の店で牡蠣でも食わないか?あれは絶品だ。」
ギノ「あ、でも、今日はやめときます。」
パイロットA「なんだ。例の本業って奴か?稼ぐねえ。」

ギノ(哀れだ・・・人工臓器のサイボーグに食料等必要ない。ましてや、全ての感覚器官をデジタル化した彼に、旨い物を食う等と言う行為は最早郷愁でしかない。)
ギノ「えっ・・・!」
ギノ「はっ!」
パイロットA「どうした?また公安に付け狙われているのか?」
ギノ「あ、いや・・・」

パイロットB「へっへっへ、ナカマツの話だろ?」
パイロットC「そうそう、またフラれたんだってなあ・・・」
ギノサイボーグ用食品。考えてみれば彼等もまた被害者だ。第二のベトナムと呼ばれた第四次非核大戦に召集され、従軍の規定で高性能電脳と部分義体を施術された。戦争は多国籍企業の見本市とはよく言ったものだ。電脳化義体化技術を飛躍的に進歩させた実験場、それが先の大戦の正体だ。彼等はモルモットであった事にすら気付かず、己の肉体も、家族も、そして国土すら失いながら、わずかな給付金とあてがわれた仕事にしがみつき、一見幸せを享受しているかに見える。それが電脳義体で構成された擬似人格によりもたらされた、偽りの快楽であるとも知らず・・・)
ニュース「招慰難民居住区を狙った連続爆破事件で、警視庁の合同捜査本部は先頃、個別主義者のテロ組織からの犯行声明があった事を発表しました。それによりますと同組織は、アジア系招慰難民の国外退去を求めており、一連の犯行をアジア系難民による暴動、及び難民救済措置による財政破綻への報復措置と位置づけている模様です。」
ギノ「ブラフ※1だ。」

ギノ(当局の発表を鵜呑みにして報道するだけのマスコミ。ブラフであると知りながら情報を操作し利益を上げる。それが彼等のやり方だ。)

ギノ(マスコミが何を望み、何を試そうとしているのか・・・それは彼等の夜の生活を覗き見ればいい。快楽に溺れた己の所業を客観視する能力すら持ち得ず、只ひたすら愚かな一般大衆をあざけり続ける。)

ギノ3大ネットワークの会長である片倉が、高級料亭にて会食を続ける連中を論うだけでも明白だ。連合与党の党代表クラスは言うに及ばず、各省庁の高級官僚の電脳義体のパテント※2を牛耳る、多国籍企業の幹部連。片倉に真実を報じる気概等毛頭無い。あるのは只、己の帝国を維持し続けたい欲求のみ・・・)
リポーター「現場では、今尚黒煙が上がっており、難民政策に反対するアジア系難民による庁舎襲撃が、かなりの規模だった事を物語っています。」
ギノ(手ぬるい・・・。これでは何も終わらせる事等出来ない。また何も始まりはしない。)

ギノ「Reset the world.」
ギノ(本当の敵はマスコミだ。奴等は当局と手を組み、声高に正義を気取る。だが奴等は知らない。ここに全てを知る者がいる事を。真実を知り、尚それを貫こうとする強固な意志が存在する事を・・・奴の処刑を急がねばならない。それが、真実を知り、その探求の為には死をも厭わぬ者に与えられた使命だ。」

ギノ(前世紀初頭に現れた偉大なるユダヤの作家※3はこう言った。『真実のない生はありえない。真実とは多分、生その物の事だろう』。そして、ここにこそ真実の生が存在する。)
ギノ「ん?」
ギノ「あっ・・・」

ギノ(彼女の美しさはまぎれもない真実だ。生き物として、一切飾らぬその美しさ。快楽を快楽として享受し、片や生存の為と割り切った余計な物を一切持たぬ潔さ。一見して分かる完全な義体。快楽に特化した存在と、分かつ事の出来ない完全な肉体。これこそが美だ。)

ギノ(彼女だけは人間であると確信出来る。俺と同じ様に、彼女には人間である事を頑なに守り抜こうとしている何かが見える。)

ギノ(彼女の精神の前にはどんなものも霞む。例え金に物を言わせ彼女を手に入れたとしても、彼女の意思、美、そして真実を手に入れる事は出来まい。)

ヒララ「はっ!」
ギノ「あっ!」
片倉「へへへへへへ・・・」
ギノ「うううう・・・」
ヒララ「何故・・・?」

ギノ(何人たりとも真実を汚す事は出来ない。例えその権力を振りかざし、我々の心を弄ぼうとも。真実を知る者は只一人、それはこの俺をおいて他にない!
ギノ(明日だ。明日、世界は真実に目覚める!」

ギノ「いよいよ明日だ。」

主任「だから、休むんだったら休むって言えよ!副業だか本業だか知らねえけどな、片倉会長の専属パイロットなんて上等な職を宛がって貰ってるだけ幸せに思えよ。確かにお前の腕は最高だよ。大戦時の英雄だよ。だがな、本来ならお前等みたいな傷痍戦闘サイボーグに職なんぞ無いんだ!」
主任「何だよ?」
ギノ「昔の貴方はそんな人じゃなかった。」
主任「ああ?」
ギノ「あの頃の貴方は、真実から目を逸らさぬだけの勇気を持ち合わせていた。昔の貴方なら、片倉の様な人間を野放しにしておく様な事はなかった筈だ!」
主任「じ、時代が変わったんだよ。生きていく為にはしょうがないだろ。」
ギノ「私が何故、軍を退き貴方について来たかお忘れですか。」

主任「おい聞いてんのかよ?」
ギノ「はい?」
主任「大丈夫かお前?何ブツブツ言ってんだよ。」
ギノ「いえ・・・すみませんでした。」

片倉「そこら辺は任せるよ。ああ、向こう側の・・・何かね?」
ギノ「え・・・?あ、いえ。昨日はすみませんでした。無断で仕事を休んでしまって。」
片倉「昨日?」
ギノ「ご迷惑をおかけしました。」
片倉「ああ、そうだったかね・・・?私だ。ああ、すまん、何でもない。それより・・・」
ギノ「ぐっ・・・ぐぐぐぐ・・・」

ギノ「くそっ!くそおー!はあ、はあ、はあ、俺の腕が必要なくせに!わざと忘れたふりしやがって、あのサディスト野郎!こっちがちょっと謙ってやりゃあつけ上がりやがって!お前等なんぞ、俺の操縦一つで・・・!」

片倉「お・・・お、お・・・」

ギノ(俺の心には一点の曇りも無い。哀れな大衆の為に命を捧げる事をいとう気はない。だが、例え俺が片倉をこの世から抹殺しようとも、その事自体が奴等のネットワークによって、隠蔽されるおそれがある。そうなった時、真実が世界に伝わらなくなってしまう。そうならない為にもこの真実を誰かに伝えておく必要がある。)

パイロットD「かみさん、口きかなくなっちゃって。」
パイロットA「そりゃ大変だ。たっぷりサービスして御機嫌とらなきゃな。はっはっはっは・・・ん?おー、どうした?」
ギノ「たまには、どうかな?一杯。何なら、この前言ってた牡蠣を食わせる店にでも・・・」
パイロットA「珍しいな。何かあったのか?」
ギノ「あ、いや、実は・・・近く、例の本業のほうで会社を辞めざるを得なくなりそうなんだ。それで・・・」
パイロットA「おー、出世か!羨ましいねえ。」
ギノ「あ、いや、そういうんじゃないんだけどね。」
パイロットA「まあ、そういう事情なら、是非とも付き合いたいんだが・・・今日は、ちょっと無理だな。」
ギノ「あっ、いいんだ。問題ない。」
パイロットD「へっ!」
パイロットA「頑張れよ。」

ギノ(存在とは程遠い目的で、一部の権力を維持する為だけに俺は戦いに駆り出された。そこで失った物の大きさは誰にも理解出来ない。)

バトー「何か用か?」
ギノ「あ、ああ。これで彼女を買いたい。」
バトー「足りねえ。」
ギノ「へ?」
バトー「全然足りねえ。それっぽっちじゃあな。」
バトー「お前だけじゃねえ、戦争で大切な物を無くしちまったのは。お前だけじゃねえ。」

風俗嬢「はい、おしまい。」
ギノ「え?まだ何もしてないじゃないか。」
風俗嬢「こっから先は別料金なの。それに・・・」
ギノ「そ、そんな。前金で入会金迄払ったじゃないか。」
風俗嬢「てんちょー」

ギノ「がっ!うあっ・・・あっ・・・ゆ、許して下さい!それを取られたら、女房子供に・・・め、飯、飯を・・・食べ・・・させ・・・て・・・」
店長「パァン!」

音声「はい、招慰難民救済基金です。」
ギノ「すみません。そちらの募金に寄付している者ですが。」
音声「いつも有難う御座います。」
ギノ「あの、ちょっとワケありで、引き落としを止めていただけませんか・・・?もしもし?」
音声「ごめんなさい!申し訳ありませんが、お申し出を認識する事が出来ませんでした。」
ギノ「あ、もしもし。引き落としを止めて貰いたいんです!登録を取り消したいんです!」
音声「じゃあ、お申し込みの手続きを最初からご案内致します。基金へのお申し込みに対するお問い合わせは1番を、その他のお問い合わせは2番を押して下さい。」

パイロットE「ひっさびさの快勝だったよなあ。」
パイロットF「ん?ああ、代表の試合か。」
パイロットE「あの、右からのクロスはすごかったよなあ。痺れたよ。」
ギノ「うっぷ」
ギノ(何故食いたい?必要ないだろう?何故食いたい?必要ないだろう!)

ギノ「うっ、ううっ、うええっ・・・」
ギノ(何故だ?何故だ何故だ!?何故食いたいんだ!?これは本能じゃない。真実じゃない!」
ギノ「ううっ・・・はあ、はあ・・・」
パイロットG「いやあ、驚いたよなあ。」
パイロットD「ああ。」
パイロットG「あいつが公安に引っ張られるなんて。」
パイロットD「ほんとだよ。」
パイロットG「あいつ、知ってたのかな?アジア系だなんて。」
パイロットD「誰が?」
パイロットG「ギノだよ、親しかったじゃん。」
パイロットD「ああ。はっ、知る訳ないじゃん、あいつが。」
パイロットG「そうだよな。」
パイロットD「そうそう。」
パイロットG「ははっ」

アナウンサー「アジア系難民による庁舎襲撃事件の実行犯が逮捕されました。三澤陽一こと、ヨウ・ミンテ。」
アナウンサー「今、警官に両腕を支えられる様にして出てきました。勝利を確信するパフォーマンスでしょうか。」
ギノ「何で、あいつなんだ・・・」
アナウンサー「今回の実行犯逮捕により、既に3つのアジア系難民支援団体、および招慰難民の人権と補償を求める会から、異例の記者会見がなされ、彼の行為は、いわれない差別を日々こうむっているアジア、日本両難民の代弁的行為であるとし、一連の犯行には情状的酌量の余地があるとし、刑の軽減を求めていくとの声明を発表しております。」

SP「こちらをお送りしてくれ。」
ギノ「あっ・・・」

ギノ「どうした?奴に、片倉に何をされた?」
ヒララ「仕事よ。」
ギノ「君を、探してたんだ、ここ何日かずっと。いや、生まれるずっと前から。」
ヒララ「私もよ。」
ギノ「もう辛い思いはさせない。ふたりでこのまま遠くへ行こう。誰にも邪魔出来ない、僕等だけの国。でも、その前に僕はどうしてもやらなくちゃならない事がある。」
ヒララ「何をするつもり?」
ギノ「真実を、解放しなくちゃならないんだ。」
ヒララ「私を道連れにして?」
ギノ「えっ・・・?あ・・・ああ・・・あ・・・」
ヒララ「貴方はもう充分戦った。貴方は勝ったのよ。」
ギノ「そうで・・・あればいいな・・・」

バトー少佐、今イシカワから連絡があって、そいつと一連のテロ事件との繋がりは皆無だそうだ。下半身喪失も、軍歴によれば作戦行動とは無関係。現地で悪質な性病にやられたらしい。おい少佐、聞いてるか?
ヒララ:聞いてるわよ。彼の描いた暗殺計画は、完全な妄想。
バトー:ん、で、そいつはどうしてる?
ヒララ:問題ないわ。現実に、僅かな希望と苛立ちを抱く、不特定多数の内の一人。計画を実行に移す事はないわ。
ギノ「えっ・・・あの・・・どちら迄?」

ヒララ「哀れな程真実を知らないプロレタリア※4・・・」


脚注
※1:虚勢。はったり。特にポーカー等で、手の内が強そうに見せかける事。
※2:特許。特許権。
※3:フランツ・カフカ(Franz Kafka 1883年7月3日ー1924年6月3日)は、出生地に即せば現在のチェコの小説家。ユダヤ人の家庭に生まれ、作品はドイツ語で発表した。
※4:資本主義社会において、生産手段を持たず、自分の労働力を資本家に売って生活する賃金労働者。また、その階級。無産者。

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