the Cat Met with Special Boxes.

第5話 動機ある者たち INDUCTANCE

どうきあるものたちThose Who Have the Motive

粗筋

個別の十一人」から殺害を仄めかした脅迫文が茅葺首相に届き、政府は9課に首相の警護を依頼する。
囲の反対をよそに、恒例の寺での参拝行事を強行した茅葺を守るべく、万全の体制で待ち構える9課。
そして、厳重な警備網をかいくぐり、茅葺を襲う全身義体の男クゼ。
茅葺の警護に就いていた草薙は、そのクゼと対峙する事になるが・・・


登場人物

用語

セリフ

アナウンサー「本日午後、茅葺総理が九州招慰難民居住区出島キャンプを視察に訪れました。首相の出島視察は難民対策特別措置法の廃止を発表して以来初めての事ですが、今後生活の基盤を失う事になる招慰難民の新たな受け皿や、日本国籍を発行する事になるのかといった抜本的な法整備が整っていない現状での見切り発車に、難民からの抗議活動が活発化してくる事は避けられない情勢です。では続いて経済関連のニュースです。先頃発表された」

茅葺「ん?」

individual episodes:動機ある者たち INDUCTANCE※1

内務大臣「総理が視察中に受け取った花束から見つかった手紙のコピーだ。鑑識結果はまだだが、指紋等の検出はまず無理との事だ。」
荒巻大輔「首相暗殺を仄めかす脅迫状、ですか。で、この文字は?」
警察庁長官「分からんのだ。君なら何か知っているかと思ってね。」
荒巻大輔「これを見る限りでは、組織の固有名詞か何かのようですが?」
警察庁長官「ああ。実は例の中国大使館占拠事件以降目に付いてきた多数のテロ群の中に、警察庁が把握しているだけで既に7件、そのマークと同様の文字を記した犯行声明文が見つかった。それとは別に新たに見つかったのが、南陽新聞社への脅迫状と、その首相暗殺の予告状だ。」
荒巻大輔「各9件の犯行の関連性は?」
警察庁長官「今の所見つかっていない。事件を担当していた県警同士の情報伝達ミスがあった事もあるが、犯行の動機、思想的背景がどれも微妙に違っていたし、何より犯行予告が全て単独犯を臭わす内容ばかりだったからだ。だがここへ来てそのマークの統一性に気付き、慌てて一連の事件を広域重要事件に指定した所だ。」
荒巻大輔「愉快犯、模倣犯の可能性は?」
警察庁長官「それも今の所考えられん。そのマークの事を知っているのは、警察でも極一部の人間だけだし、マスコミへの発表も一切していない。」
荒巻大輔「それが事実だとするなら、あとは同一グループによる単独犯を装った同時多発テロか。」
警察庁長官「何らかの情報を媒介にした、笑い男事件タイプのテロ群の台頭だ。」
内務大臣「ま、なんにしてもだ、首相の公務をこれ以上止める事は好ましくない。」
荒巻大輔「総理の容態は?」
高倉「あれは飽く迄マスコミの目を欺く為の措置に過ぎんよ。」
内務大臣「総理は今回の脅迫の件はマスコミには一切発表せずに置きたいとの意向をお持ちだ。そこで君達の出番と言う訳だ。」
荒巻大輔「総理の身辺警護を9課で、と言う事ですか?」
高倉「察しがいいな。」
荒巻大輔「長官、脅迫状のオリジナルも頂けますかな?」
警察庁長官「犯人探しは我々でやる。君達はあく迄も総理の警護を担当してくれ。」
内務大臣「マスコミに悟られんよう、くれぐれも派手な行動は慎んでくれたまえよ。」

荒巻大輔少佐、首相官邸に集合しろ。

バトー「要するに、俺達は総理のお守をしていろって訳だ。」
草薙素子「で、課長はこの件をどう推理してる訳?」
荒巻大輔「流行りに飛びつく模倣犯、と言う訳にゃいかんだろうな。」
トグサ「予告状の内容は、前政権からの時限立法であった難民対策特別措置法の廃止を決めた総理に対して、差別をやめろ、難民を解放せよとの抗議を繰り返した挙句、難民問題が進まない事を国民に対する裏切り行為と決めつけ、処刑を執行する、ってんでしょ。言ってる事が支離滅裂ですよ。これで一連の事件が同系列の組織による犯行って言われても、今一つピンとこないですね。」
荒巻大輔「確かに、このマークの同一性と言う条件を除けばな。警察庁長官の言葉を全面的に信じる事は出来んが、このマークを記した犯行声明が立て続けに出されている以上、我々もそれを踏まえて動かざるを得ん。」
草薙素子「スタンド・アローン・コンプレックス。」
バトー「確かに、笑い男事件に似てなくもねえな。」
荒巻大輔「今は事件の背後を推察する事が目的ではない。総理を護る事に全力を尽くせ。だが同時に予告状とマークの線からも犯人或いは犯行グループの割り出しも行う。」
草薙素子バトーサイトーパズは私と総理の護衛に回る。トグサイシカワボーマと共に予告状とマークの線を当たれ。」
一同「了解。」

アナウンサー「昨日は一日静養をとった茅葺総理ですが、本日は元気な姿で臨時閣議に臨みました。しかし、懸案となっている難民政策の進展がみられないまま、予算委員会を数日後に控え、日本人初の女性総理も内閣発足当時の輝きは既に無く、早くもその表情は曇りがちのようです。」
クゼ(予告状についてのリアクションは無しか。一旦は難民の解放を口にしておきながら一向にその行動を起こせぬお前に、その理念を貫く事は荷が重かった様に見える。然るべき制裁を加える事で、お前の背中を押す。だが彼女との密会は、一期一会。一度たったからには、その目的を果たさずして身を引く事は許されない。だが目的無くたてば、どの様な思想も容易に敗北し、挫折する。我は動機ある者、個別の十一人。)

ゴーダ「これで8件目か・・・」
部下A「そんな事、ご自分でなさらなくても・・・」
ゴーダ「ん?拙い所を見られたな。これは私が好きでやっている事でね。活字の情報を得る事で、咄嗟の時に最も有効なアイデアが口をついて出る様に記憶の裏打ちをしているのさ。で?」
部下A「官房から回された情報です。」
ゴーダ「ん、成る程。妙な因子が芽いたな。首相暗殺とはまた大胆な奴が出てきたものだ。どんな奴かは分かってないのか?」
部下A「警察は、犯人の特定には至っていません。」
ゴーダ「そうだろうな。警護はどうなってる?」
部下B「公安9課が当たっているようです。」
ゴーダ「9課か。あそこなら問題ないだろう。本当に暗殺されても困るしな。よし、内からも誰か一人総理に張り付け。この予告を出した奴の姿を確認しておけ。もし9課の手に落ちそうになった時は、手を回してこっちで引き取ろう。」
部下A「分かりました。」

バトー少佐、何だか乗ってないって感じだな。
草薙素子:そう?生理中なの。
バトー:冗談はよせよ。どう思う?この所の任務。俺達は犯罪に対して攻性の組織だった筈だよな?幾ら首相の暗殺予告があったとは言え、こうあからさまに頭を押さえられちゃ面白くねえぜ。
草薙素子:嫌になった?
バトー:だからお前がそうなんじゃねえかって聞いてんだよ。
草薙素子:どうかしら?
バトー「はあ・・・?」

イシカワ「んー・・・過去、難民解放機構にこれと同一のマークを使用していた組織は存在していないな。」
トグサ「大体このマーク自体、何て読むのか分かりゃしない。組織名位他人にも読める様にしとけっての。」
イシカワ「仇、無限大に士・・・何かしら思想的背景はありそうなんだがな。」
トグサ「案外、既存のモチーフを使用しているってだけかも。」
イシカワ「例えば?」
トグサ「うん、そうだな・・・過去の偉人の遺した文学とか演劇、映画のタイトル、歴史的事件に登場した組織や人物を表すトレードマークとか・・・」
イシカワ「成る程・・・ん、あったぞ。こいつはこれで個別の十一人と読むそうだ。どうやら半世紀前に書かれた革命評論集のタイトルの様だ。」
トグサ「こっちに出してくれ。」
イシカワパトリック・シルベストル著、国家と革命への省察 初期革命評論集、うむ、こいつは読んだ事があるな。」
トグサ「革命評論集?」
イシカワ「当時は特に話題になる様な評論集ではなかった筈だ。一般的には、第三身分の台頭、支配からの脱却、王朝の終焉、社会主義への希求、狂喜前夜、神との別離、カストロとゲバラ、虚無の12年、原理への回帰。の9編と、作者が自ら遭遇し革命指導者への夢を掻き立てられた五月革命の10編をあわせて初期革命評論集としているが、作者自身が日本で起きたその事件を革命と見出せずお蔵入りにした幻の11編も含めると言う説が有り、その曰く付きの一編が個別の十一人なる評論らしい。」
トグサ「だけど、一度も出版された形跡は無い?」
ボーマ「ああ、このデータにしても、飽く迄マニア共が自説をネットに上げてる程度の情報だ。」
イシカワ「だが見過ごせないのは、そのマニア連中ってのが狂信的な個別主義者ばかりだってとこだ。」
トグサ「インディヴィジュアリスト達の聖典、か・・・思い出した。このマーク、例の陸自のヘリが暴走した時、死亡したパイロットの自宅を捜査したろ?」
イシカワ「ああ。」
トグサ「あの時、このマークの書かれたメモを部屋で見たんだ。」
イシカワ「ん?」
トグサ「それに、中国大使館を占拠した奴等が名乗った組織名も、確か個別の十一人じゃなかったか?」
ボーマ「あっ!」

トグサ少佐
草薙素子:成る程、興味深い話ね。だがそれだけでは犯人の特定には繋がりそうにないな。それにその辺り迄は警察も掴んでいるだろう。もっと深い所迄潜って、どんな小さな手掛かりでもいい、犯人特定に繋がる何かを見つけ出せ。
トグサ:分かりました。
官邸職員「中身のチェックお願いします。」

クゼ(目覚めた同志からのメッセージ、その意味を考えろ。我が闘争の聖典、個別の十一人、あれが何故素晴らしいか。それは彼が五・一五事件を日本の能と照らし合わせ、その本質を論じた所にある。能とは、戦国の武士達があらゆる芸能を蔑む中、唯一認めてきた芸事だ。それは幾多の芸能の本質が既に、決定された物事を繰り返し得ると言う虚像に過ぎないのに対し、能楽だけはその公演を只一度きりのものと限定し、そこに込められる精神は現実の行動に限りなく近しいとされているからだ。一度きりの人生を革命の指導者として終えるなら、その人生は至高のものとして昇華する。英雄の最後は死によって締めくくられ、永遠を得る。それが、シルベストルによって記された個別の十一人の内容だ。)

秘書官「進めておきます。」
茅葺「分かりました。荒巻課長、明日のスケジュールの件ですが・・・」
荒巻大輔「ご心配には及びません。総理のお気を煩わす事がない様、お供をさせて頂きます。」
茅葺「有難う。プライベートの用で、申し訳ないけど・・・」
茅葺「どうぞ。」
草薙素子「課長」
荒巻大輔「何だ?」
草薙素子「総理宛の手紙や小包に混ざって配送されて来たそうよ。」
茅葺「何ですか?」
荒巻大輔「ご覧にならない方がよろしいかと。」
茅葺「余計な配慮は女性蔑視に繋がりますよ。」

イシカワ「駄目だな。評論の内容その物は全く見つからない。」
トグサ「その評論で取り上げられた事件ってのは?」
イシカワ「1932年5月15日、国家改造運動の渦中にいた海軍の青年士官と陸軍士官候補生、そして農民有志が決起行動を起こした事件がそれだ。その内の中心人物達が当時の首相を暗殺、これを機に、日本は軍部が主導権を持つ時代へと驀進していった。ま、士官達の行動は非道なテロ行為と言わざるを得んが、後に起こった現象が、この事件の意味を象徴的に表している。首相暗殺後、陸軍から参加した青年士官11名が軍法会議にかけられた訳だが、この裁判が異様な展開を見せ始める。まだ二十歳になったばかりの被告達は自らの信念に基づき弁護を拒否し死刑を覚悟、涙ながらに陳述を始めた。すると、裁判官も検察側の軍人も報道も傍聴席も、彼等に心情をダブらせ、自分達も涙を流したそうだ。更に、公判迄殆ど見られなかった減刑運動が論告求刑を境に大衆運動と化した。そして判決の9月19日迄には35万の嘆願書が寄せられ、最後には奇しくも被告と同数の11本の指が公判廷へと運び込まれるに至り、国粋へと傾倒していた世論は最高潮に達したそうだ。」
トグサ「1一人の青年士官達による首相暗殺事件後、彼等を英雄視する事で拡がりをみせたナショナリズム。その顛末に魅せられた作家の残した評論だ。恐らく、その事件の当事者達に余程感情移入して書かれたものなんだろうな。」

草薙素子「本物じゃないわ。恐らく廃棄された義体から切断してきたものね。」
草薙素子トグサ、官邸に11本の切断された指が届けられた。こいつの出所を洗え。

トグサ「11本の指だって!?」

トグサ少佐、こちらでも例の評論の線を洗っていて、五・一五事件に絡んだ11本の指にまつわるエピソードを見つけたんです。こいつは何かありますね。

住職「間に合ってよかった。こちらに修行に来られる方達の多くはその絵を寵愛しておられる。」
クゼ「それは良かった。」

タチコマA「ねえねえ、座禅って宗教的意味よりも寧ろ人間の業を雑念から解放する意味合いが強いんでしょ?」
タチコマB「僕達で言うと、溜まったキャッシュ上のデータを消去するって事かもしれないね。それと並列化を足した様な意味かな。」
タチコマC「じゃあ、座禅を組んでる人と繋がったら悟りがダウンロード出来ちゃうかも!?」
タチコマA・B「うん!」

バトー囲に異常なし。にしても我が儘な首相だな。自分が狙われてるって時に座禅も糞もあるかよ。しかも本堂に入れないってんじゃ、責任なんか持てねえぞ。
草薙素子:彼女なりには立場を理解してるんじゃない?こんな時だからこそ座禅を組みたかった。だから非公式のインターセプター使用にも同意したんでしょ。
バトー:その勇気には敬服するが、データの接続は少佐とだけってんじゃな。

茅葺「あ・・・う・・・!」
クゼ「正義は我にあり。」
クゼ「消去!」
クゼ「うっ、くっ!」
クゼ「ふんっ!」
草薙素子「んぐ・・・!」

草薙素子「無駄だ、囲まれているぞ!」
茅葺「あ、ああ・・・!」
クゼ「ふん!」

クゼ「てあっ!ふんっ!」

草薙素子タチコマ!

茅葺「大丈夫です・・・」

タチコマ「あっ!あっ!ひっ!ふゅぅ」

草薙素子「相当強化されたサイボーグね。」
荒巻大輔「うむ。まずは軍関係のものから洗い出せ。」
茅葺「申し訳ありませんでした。もし貴方方がいなかったら、今頃は・・・」
草薙素子「どうかしら?犯人に殺す意志がなかっただけかもしれない。」


脚注
※1:誘導係数の意。

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