the Cat Met with Special Boxes.

第9話 絶望と言う名の希望 AMBIVALENCE

ぜつぼうというなのきぼうThe Hope Named Despair

粗筋

内庁の巨大端末デカトンケイルにダイブし、その電脳空間上で仮想人格のゴーダと対峙する草薙。
そこでゴーダは「もう、全て計画は止める事が出来ない。」と不気味に言い放つ。
一方9課の面々は「予告連続自爆テロ。」最後の1件を防ぐべく新浜を奔走していた。
そんな最中、地下鉄構内で不審者発見との情報が入る。
しかし急行する9課を待ち受けていたのは、意外なテロリストの姿だった・・・


登場人物

用語

セリフ

保安課主任「侵入者か!?」
保安課オペレーター「防壁ウイルス侵入、感染拡大中。」
保安課オペレーター「抗体に機能衝突、敵走査外壁を突破。」
保安課主任「外防衛ラインへの割り当てを増強、感染部をデコイに対応させて廃棄。」
保安課オペレーター「ウイルス解析状況、共食いが進行中、14種中和、2種進行中、1種未特定。」
保安課主任「未特定とは何だ!?確認しろ!」
保安課オペレーター「初見では不活性無反応、囮かと思われます。」
保安課主任「抗体のバージョンを変えて解析、敵に対応方法を見られるな。」
保安課オペレーター「敵が中継機を制圧し始めました。回線の物理的切断不能。侵入したウイルスが増殖。」
保安課主任「くそっ、何処の電賊だ?」
保安課オペレーター「第一防衛ライン60%消失。」
保安課主任「ポセイドンのデカトンケイルにバックアップを申請しろ。」

dual episodes:絶望と言う名の希望 AMBIVALENCE※1

バトー「遅かったか!」
トグサ「救急車を呼んでくれ。怪我人の救助が先だ。」
警官「急いで救急車を回してくれ!場所は新浜三、ショッピングモール、5台は必要だ。」

ボーマ:同じだな、間違いない。
バトー:自爆か?
ボーマ:ああ。螺子釘を仕込んだプラスチック爆弾を使っている。

トグサ「くそっ、予告を出しての無差別テロってどういう事だよ?」
イシカワ「どうやらこいつは、恐怖のサイズ自体が目的の様だな。」
トグサ「恐怖のサイズ?」
イシカワ「ああ、個別の十一人同様、先に犯行予告を出しておいて、結局は無差別に自爆テロを繰り返す。明らかにその行為自体に意味を見出している厄介なタイプだ。」
トグサ「じゃあ、少なくとも今回の自爆テロは、あと1件は起きると?」
イシカワ「犯行予告を信じるならな。」
トグサ「全く、どうなってるんだこの国は?何かが狂い始めてるんじゃないのか?」
イシカワ「そうだな。これじゃ体が幾らあっても足りねえ。」

バトー:課長。これじゃどうにも追いつけねえ。犯行予告の中に、時間や場所のヒントは見つからねえのかよ?
荒巻大輔:今の所、本日中に5件の自爆テロを新浜市内で起こすと言うメールが県警に送り付けられただけだ。先週福岡で起きたタイプと同様なら、間違いなく最後の1件も、ここ新浜で起きるだろう。お前達は現場を県警に引き継ぎ、次の犯行をなんとしても食い止めろ。
バトー新浜中の義体化した人間を拘束しろとでも?
荒巻大輔:無差別テロとは言え、何か方向性がある筈だ。
バトー:了解。ところで、こんな時に少佐の奴は何処へ?
荒巻大輔:極秘の潜入捜査だそうだ。
バトー:極秘ですか。

バトー「ここは所轄とご老体に任せて移動するぞ。」
バトーボーマ、何か見つかったら連絡しろ。

トグサ「大体何なんだ?人間爆弾て。統治下の無政府国家じゃあるまいし。」
バトー「そんな事言ってられる程、平和じゃなくなってきたって事さ、この国もな。」
トグサ「確かに。難民問題はいつ火が付いてもおかしくない火薬庫だし。インディビジュアリスト※2達がここ迄過激になってくるってのも、先行きが不安な国政に責任があるのかもな。」
バトー「そうか、難民って可能性を・・・忘れてたぜ。」

バトー:課長!先週福岡で起こった奴と、この数時間で起きた自爆テロ、両方の被疑者がどんな奴だったか調べてくれ。
荒巻大輔:む?死体は殆ど原形を留めていない。分かっているのは義体化率が比較的高いと言う事位だが?
バトー:いや、そうじゃねえ。生きている時の姿をIRシステムや監視カメラが捉えている筈だろ?そいつを全部をそろえて欲しいんだ。
荒巻大輔:分かった、やってみよう。

トグサ「どういう事なんだ?」
バトー「こういった事件はな、他人に強要されたり、上からの命令なんかで、そうそう大規模に起こるシロモンじゃねえ。自爆テロって奴は、自分が生きてく上で、一切の希望が持てなくなった時にやらかすもんなんだよ。」

草薙素子:課長、大丈夫?大分後手に回っているみたいだけど。
荒巻大輔:次は必ず抑える。そっちこそ首尾はどうだ?
草薙素子:エージェント化させたタチコマは良好ね。距離的なロスを殆ど考える必要がない。勝ちはないけど、負けもなさそうよ。
タチコマ:そうでしょそうでしょ。
荒巻大輔:余り派手にやるなよ。
草薙素子:どうかしら?一応自粛はするけど。

草薙素子タチコマ。全感覚マスクは効いてる?
タチコマ:最短ルート検索済みでーす。
タチコマ:マスクアレイ起動完了。
タチコマ:保安室、緊急ロック解除してます。

保安課オペレーター「敵の攻性防壁512種。レベル1に展開中。403が破壊移動型。82が合体部品。27は爆弾と囮。デカトンケイルからの支援防壁、機能値最大97%迄到達。」
保安課オペレーター「防衛ラインを70%回復、22%交戦中、8%」
保安課主任「持ち直したか?」

草薙素子「何でもかんでもAI任せだと、鼠や猫にも出し抜かれるわよ。」

9課オペレーター電警よりレポートが入りました。事件発生のポイントより回収された映像から、自爆したと思われる人物を特定。以下がその映像です。」
荒巻大輔「成る程。」
荒巻大輔ボーマ、爆弾の方はどうだ?
ボーマ:残留物から見て、4件ともコンポジション※3C-4ですね。
荒巻大輔:入手経路か製造方法はプロファイル出来るか?
ボーマSPring-8にでも持ち込めれば詳しく分かるんですがねえ。
荒巻大輔:そうか・・・

イシカワ:課長、爆破された店舗から面白いデータが取れました。最初の2件は個別主義者達が集うサロン※4として使用していたビルで、次の2件も難民措置法を隠れ蓑に実利を上げていた団体の持ち物です。このレストランにしても背景は同様、こりゃバトーの読み、当たりですかね。
荒巻大輔:その情報を、県警公安部は掴んでいたか?
イシカワ:公安網にも該当データは無し。
荒巻大輔:そうか。
荒巻大輔「至急県警に連絡。個別主義者の集う集会所、並びに、難民措置法で資金調達を行っている暴力団関係の事務所・店舗等に警官を巡回させろ。難民キャンプ出身者と思われる20歳前後の人物を見つけたら、男女を問わず職質。義体化率の高い者程注意してかかれとな。」
9課オペレーター「了解しました。」

バトー「やっぱり難民か。」
サイトー「意外だな。寧ろ国民の方にこそ彼等に対する不満があった筈だが。」
トグサ「だからこそ個別の十一人なんていうインディビジュアリスト達が台頭してきたんだろ?それに対する逆切れかよ。」
バトー「まあ言ってみればそういう事なんだろうが、既に難民て火薬庫には火が付いちまったと考えるべきだろ。」
トグサ「自分が死んで迄何かを訴えるって言うのは、尋常じゃないよな?」

バトー「最初の自爆からさっきの4件目迄、それぞれの間隔は何分置きになっている?」
サイトー「犯行予告が出されたのが正午きっかり。そこから1件目が起きたのが13分後。2件目は、そこから38分後だ。3件目は少し間隔が空いて、約2時間後の15時23分。4件目は更に空いて、19時11分。」
バトー「次はもっと空く筈だ。連続自爆テロの場合、覚悟を決めている奴から順に決行する。次の自爆迄、まだ幾らか時間があると信じよう。」

トグサ「旦那、こういったやばい事件流石に詳しいんだな。」
バトー「ふん。」
トグサ「ついでに、一つ聞いていいか?」
バトー「なんだ?」
トグサ「恐怖の大きさが目的なら、爆破予告すら出さずに決行した方がより効果的だと思うんだけど、奴等は何で最初に予告を出して来るんだと思う?」
バトー「さあな。誰かに知っといて貰いたいんじゃねえか。自分のとった最後の行動を。」

草薙素子(予想通りか。ゴーダの経歴からポセイドンとのパイプが太い事は確認していたが、ここ迄マニュアル化されているとはな。罠か、或いは・・・)

草薙素子:ルートアレイ3軸展開。攻性防壁全種スタンバイ。
タチコマ:展開、完了しました。
草薙素子:機能全開でバックアップ。合体ウイルスに気をつけるのよ。
タチコマ:はーい。
草薙素子:よし、一番分厚い防壁に全感覚投入。

草薙素子:敵が来る前に、クロマファイルをシステムに注入。アレイ8基で高度戦闘体制セットアップ。

タチコマウイルスアレイ搭載の全追尾地雷アクティブ。
タチコマ:サットマン1二人の脳を制圧しました。
草薙素子:よし、辺の安全最終確認。

タチコマ:保安部員45名に注入した行動制御ウイルス解凍確認。
タチコマ攻性防壁全種作動、機能衝突ありません。

草薙素子:よし、保安部員のフリーズが発見される迄がリミットだな。お前達は45の電脳を監視、状況が発覚したら直ちに知らせろ。
タチコマ::了解しました!

緑山「どうかしましたか?」
ゴーダ「いや、何でもない。」

クロマ:これが噂に聞くデカトンケイル。大量のデータを基に仮想人格を構築し、シミュレーションしているのか。

クロマ:お前は誰だ?
ゴーダ:私は合田一人。かつては大日本技研で放射能粉塵除去、分子工学ロボットプロジェクトにも従事していた。
クロマ(放射能粉塵除去・・・日本の奇跡の事だな。)
クロマ:技術者としてか?
ゴーダ:とんでもない。私の脳は言語機能に特化している。二度に渡る大戦後、私のプロデュースした放射能除去技術を用いて、この国は再び経済大国に伸し上がった。私もその時に、人としての最上部構造へ行く筈だった。しかし、この国が国際社会の中で大した地位を獲得出来なかった様に、私もシステムの中で大きな位置を占める事は出来なかった。
クロマ:社会は、口だけの人間に具体的な評価を与えてくれなかったって事かしら。
ゴーダ:私は、随分以前から今の社会システムには、致命的な構造的欠陥がある事を発見していた。
クロマ:それは?
ゴーダ:本来変質しない筈の情報の変質と、個性と言う名の幻想的オリジナリティが、今の社会システム内において、いとも簡単に並列化を起こしてしまうと言う事だ。それを私は、消費と言う名のクリエイト行為と名付けている。
クロマ:ネットに引き篭もった個が辿り着きそうな結論だな。
ゴーダ:スタンド・アローン・コンプレックスか?幸い私には孤独に対する強固な迄の耐性があった。しかしだ、私が社会に及ぼした痕跡を、システムが全うに評価しなかった理由を、私が生まれ持って持ち合わせた資質がそうさせていたのだと気付くのに、随分時間がかかったよ。
クロマ:つまり、自分に劣等感があった?
ゴーダ:いや、存在その物に問題があったのだ。社会にはシステム自身が望む人格と言う物が確実に存在する。人はそれを渇望する。なのに、その事に対しては悪戯な迄に無自覚だ。
クロマ:今の自分には満足を?
ゴーダ:予想以上にね。物理的身体とは逆説的にその存在が確認されているゴーストが、実は身体の変化に応じて変容すると言う事実を知っているか?
クロマ:さあ・・・かつて革命に自身の存在意義を見出した思想家が、それを実践して見せた事があったみたいだけど。
ゴーダ:パトリック・シルベストルか。私も彼の思想に傾倒した事がある。英雄に憧れ、カリスマを得たいと本気で望んだ。私は人の上に立つ筈の人間だ。その思いは、物心がついた頃から私の中にあった。結果、身体がそれを邪魔した訳だが、運命は私に味方した。死線をさ迷う事故に遭遇し、私の身体は変貌を遂げ、期せずしてゴーストも変化した。革命と遭遇する事で先の思想家がそうした様に私も使命を得たのだ。国家と言うシステムを私が再構築すると言う使命をね。
クロマ:国家改造論者?それとも誇大妄想狂?
ゴーダ:今、この国が求めている物は、第三者を消費する事でのみ成立する桃源郷の再現だ。かつて、この国は偶然にもそれを体現した歴史がある。動機なき者達は今もそれを無自覚に欲している。私は彼等にそれを与えてやるだけだ。
クロマ:それで自分が英雄になると?
ゴーダ:ふっふっふ・・・今の私にその願望はない。私の役目はその英雄をプロデュースする事。動機なき者達が切望し、しかし、声を大にして言えない事を代弁し実行してくれる行動者を作り出す事だ。
クロマ:消費の果ての桃源郷とは、冷戦構造下の日本の事か?では、お前がプロデュースすると言う英雄とは誰だ?個別の十一人か?

タチコマ:ああ!不味い・・・

ゴーダ「おい、どうした。おあ!」

ゴーダ「おい、保安課に連絡しろ。電賊が侵入しているぞ。」

ゴーダ「予想より遅かったな。」

タチコマ少佐!潜入がばれましたあ!
クロマ:分かった・・・では、お前の言う英雄の敵は難民か?彼等を仮想敵とする事で国民の思想を誘導する。違うか?
ゴーダ:思想誘導は必要だろう。その為に法を曲げる事もな。結果が手段を正当化する。これはテロリストにも、民主国家にも通用する理論だ。
クロマ:難民の排除が国民の総意だと?
ゴーダ:奥床しさが我が国民の美徳だ。
タチコマ少佐クロマ:分かってる。最後に一つ、公安9課をどう思っている?
ゴーダ:9課、そうだな・・・不在による憎しみの連鎖はもう止まらない。彼等は総意としての国民の意思と自身の正義、その狭間で苦悩するだろう。
タチコマ少佐、早く落ちないと危険です!
クロマ:時間切れか・・・

バトー:今6番ゲートに着いた。
荒巻大輔:所轄が職質した所、自爆すると脅しながら地下鉄に逃げ込んだそうだ。列車は止めさせたが、乗客を乗せたままほぼ駅構内に進入している。なんとしても止めろ!

バトー「お前はそっちだ!」

バトー「犯人は!?」
駅員「あ、ああ・・・」

トグサ:見つけました、やはり難民です。
トグサ「みんな!動くな!」

トグサ「よし、そのまま、両手を後ろで組むんだ。」
少女「ひっ・・・」
トグサ「そうだ、何もしないから。ゆっくり、落ち着いて。」
少女「ひっ・・・くっ!」
バトー「どけっ!」

トグサ「何故撃った!?」
バトー「馬鹿野郎!」

少女「ごほっ、げほっ・・・」
バトー「信管だ!」

バトー「救急車を頼む。腹ん中に爆弾を詰め込んでるから、完全隔離でな。」
警官「りょ、了解・・・」

青沼「保安課は!すぐに建物内をチェック!電賊はデコイを使って直に潜入した模様。保安部員は何をやっていた!?サットマンを再起動!」

保安部主任「あ、ああ・・・おー・・・」
ゴーダ「ウイルスをチェック、防壁アレイを再起動さしたら残りの作業はポセイドンに委託しろ。ここにはもう現れない。」

荒巻大輔:何とか最後は抑えたか。
バトー:辛うじてな。だが尾を引くぞ。

バトー:こいつは難民達からの宣戦布告だ。

草薙素子バトーの読み、残念ながら正解よ。個別の十一人は、恐らくゴーダのプロデュースしたインディビジュアリスト。その目的は難民の蜂起。落とし所は、差し詰めこの国に彼等の自治区を作り出すって事じゃないかしら。

草薙素子(ここ迄は完敗ね。ゴーダの考える憎しみの連鎖は、確かに始まっている)


脚注
※1:ambivalence 相反する感情を同時に持つこと、心の葛藤、躊躇い、両面価値、二重傾向等の意。
※2:individualist 思想・行動において独立的・個性的な人の意。個人主義者、自由主義者。
※3:composition ここでは爆薬にプラスチック結合剤、可塑剤等を混ぜて粘土の様に自由に加工出来る様にした物の意。
※4:(大邸宅の)客間、またそこで開かれる社交的な集まりの事。

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