the Cat Met with Special Boxes.

第14話 左眼に気をつけろ POKER FACE

ひだりめにきをつけろBeware the Left Eye

粗筋

2020年夏、傭兵だったサイトーは反政府軍の一員としてメキシコで戦っていた。
しかし状況は次第に悪くなり傭兵達は投降の機会を伺う迄になっていた。
そんな最中、敵の特殊部隊が核輸送を極秘に行っている事を知ったサイトーは、逆転の手段としてその核を奪取する事を計画する。
しかしその特殊部隊の中には若き日の草薙がいた。
戦火の中で運命の出会いを果たす二人、はたしてサイトーは核を奪取出来るのか・・・


登場人物

用語

セリフ

アナウンサー「今、茅葺総理がシュレイダー国務長官を握手で迎えました。先の大戦後強大な軍事国家としてその力を誇示してきた米帝ですが、今や経済の破綻からくる国力の低下に伴い、日本主導での安保再締結案の落とし所を模索すべく、国務長官を緊急来日させると言う形振り構わぬ対応を見せています。しかし日本政府も、国内に目を向ければ、景気の不安定感、難民対策の遅れや9条問題と、課題が山積しており、各方面からの抗議行動が激化してくる事は必至の情勢です。」

ミニミ「休憩中に迄そんなもん見てんな。」
アズマ「負けてるからって八つ当たりするなよな。」
ミニミ「お前に言われたかねえな。」
アズマ「へっ、こんどは頂きだ。」
サイトー「そいつはどうかな?」

dividual episodes:左目に気をつけろ POKER FACE

タチコマB「ふーん。ねえねえ、何で今更安全保障を結ばなきゃならないの?日本にも軍隊はある訳でしょ?」
タチコマA「現政府は超鷹派政権だけど、米帝が経済的に疲弊している今こそ、自分達が主導権を握った状態で安保を締結したいんだよ。前世紀の屈辱を晴らしたいって事かな。」
タチコマB「前世紀の屈辱って?」
タチコマA「まあ簡単に言っちゃえば敗戦の記憶って事だね。それに、憲法第9条っていう不確定な装置が今でも稼動しているから、自衛軍は公に外へ出て行けないし、核兵器も所有出来ない。前世紀の安保は、屈辱の上での合意だったとは言え、アメリカが矛で日本が盾っていう暗黙の不可分が上手く機能していた訳。でもここにきて、経済問題と言う新たな敵が見えてきた事で、お互いの弱点を補い合いましょうって事での合意なんだよ、きっと。」
タチコマB「ふーん、君って大人なんだなあ。今のデータ並列化させてよ。」
タチコマA「別に良いけど。」

ミニミ 「だからうるせえって。」
アズマ「そうだぞ。これは真剣勝負なんだ、黙ってろって。」
タチコマB「何だよアズマ君迄。新入りのくせに生意気なんじゃないの?」
サイトー「負けてるからって、人のせいにしてるんじゃねえよ。」
ミニミ「ちっ、全部ひっくり返してやるからな。レイズだ。」
サイトー「レイズ。」
ミニミ「そうこなくっちゃな。」

タチコマB「ポーカーなんて所詮確率のゲームなのに、どうしてサイトーさんばっかり勝ってるの?」
タチコマA「僕もさっきからそれがすっごく気になってるんだ。特に今やってるルールだと、全員のカードを記憶しておいて、最初と最後のカードから相手の手を予測すれば良い訳だから、必ずしもサイトーさんばっかりが勝つとは限らないんだけど、何故か最後はサイトーさんがチップを取っていくんだ。」
ミニミ「はったりが上手いだけだ。もうじきその仮面をひっぺがしてやる。」
アズマ「そういう事。それをポーカーフェイスって言うんだ。覚えとけ。」
サイトー「お前等には無理だな。俺がやってきた命の駆け引きに比べたら、ポーカーなんて餓鬼の遊びだ。」
ミニミ 「言ってくれるじゃねえか。あんたが一流のスナイパーだって事は認めるが、それとポーカーを比べられても説得力は無いな。」
サイトー「俺は一度、腹の底から震えが来る様な相手と、一対一のスナイピングを経験した事がある。あの時程、相手との心理戦を怖いと思った事はない。その勝負を経験して以来、大抵の奴の思っている事は一目見れば予測出来る様になった。」
アズマ「信じられねえなそんな話。」
タチコマA「ちなみにそれはどんな相手だったの?」
サイトー「聞きたいのか?」
タチコマA&B「聞きたい聞きたい!」
サイトー「全員レイズなら話してやってもいい。」
ミニミ「別にあんたの話を聞きたい訳じゃない・・・誤解するなよ。」

サイトー「あれは2020年の夏、ユーラシアが不毛な消耗戦に明け暮れ、奇妙な政治バランスの狭間で、外罰的鎖国状況を享受し続けている日本に嫌気が差していた俺が、メキシコ暫定政権に味方する義勇軍、赤いビアンコに傭兵として参加していた時の話だ。そしてあの時はまだ、俺の左目は無事にそこに収まっていた。」
サイトー「中東の石油に南米の麻薬・・・利権が発生する所には常に争いが付き纏う。先の核大戦で分裂し、草臥れきっていた米帝は、新大陸の麻薬市場を壊滅させる事で無駄な国家予算の流出を抑える事を、本気で考え始めていた。」
サイトー「メキシコの涜職政権を打倒すると言う名目で国連を焚き付けた米帝は、英日で編成された国連軍を南米に派兵。まずは迅速な首都攻略を理由に絨毯爆撃を敢行し、その後抵抗するゲリラを一掃すべくモンテレー※1に機械化師団を送り込むと言う荒業に出ていた。爆撃後、国連軍の機甲部隊により味方が全滅した俺は、潮時とばかりに投降する機会を窺っていた。」
サイトー「そんな時だ。敵の通信を傍受していた端末が、戦術核を持った特殊部隊との接触を告げてきた。それ迄大した戦果を上げていなかった俺は、スリルと言う土産と引き換えに、給料分の仕事をしてやろうと考えた。戦術核なんてとんでもない代物を持ち込もうって不届き者に、神の目線からの恐怖を与えてやるのだと、本気で考えていた訳だ。」

イシカワ「どうした?」
草薙素子「いや、何でもない。」

サイトー「あれか。」

軍曹「医療機関や教会への攻撃に対する非難を気にし過ぎだ。ゲリラの潜める巣穴が残り過ぎている。」
マザー伍長「確かに。ですが二個小隊が残党を殲滅している筈です。」
ピクルス「だといいがな。あんた達は基本的に大雑把すぎるからな。」
マザー伍長「お前等イギリス人もSAS伝説を信仰し過ぎているんじゃないのか。」
スノー「ふん、ジョン・ランボーが。」

サイトー「ビットスタートだ。」
サイトー「3、4、5・・・」

マザー伍長「うわっ。」
草薙素子「狙撃だ!伏せろ!」
草薙素子イシカワ! 衛星を使った攻撃を想定、ハッキングをかけて敵の居場所を突き止めろ。」
イシカワ「分かった。」

マザー伍長「な、何でだ・・・畜生・・・」
ジンジャー「マザー伍長、動かないで。」

イシカワ「衛星は使ってない。半径1km以内に広域ジャマー。」
草薙素子「ジャマーの発信源から、相手の位置を割り出せるか?」
イシカワ「やってるよ。」
バトー「手際がいいな。あんたら古いのか?」
イシカワ「無駄口きいてる暇があったら索敵しろ。新入りが。」

軍曹「どっちから撃ってきた!?確認出来たか!?敵に聞かれる、電通に切り替えろ!」
スノー「やってみろよ、雑音に驚くぞ。」

軍曹「くそっ。」
スノー「ぬかったな、敵の位置が全く掴めなかった。」

ジンジャー「早く助けないと。」
スノー「おい軍曹、どうする?」
軍曹「ジンジャー! 全員で援護する。その隙にマザーを救出!スノーはジンジャーを手伝え!」
スノー「ちっ、差別野郎が。」
軍曹「おいジャップ!お前等は西側の建物を。残りの者は東側の建物だ。行くぞ!」

ジンジャー「大丈夫、助かりますよ。」
スノー「いけるか?」
ジンジャー「OK。」

スノー「畜生。西側の建物だ!」
サイトー「もう暫く、俺が何処にいるか迷っていて貰わないとな。」
サイトー「冷や汗かきな。」

軍曹「うおっ・・・!20ミリか!?」
草薙素子「待て! 撃つのをやめろ。やめるんだ!ジンジャーは何処から撃たれた?」
スノー「西だ。」
軍曹「何を言ってる!今車がき飛んだのを見たろう!敵は東だ。いや、囲まれた可能性が高い!」

草薙素子イシカワ、ジャミングの出所は。」
イシカワ「大凡だが3箇所。一つは東の建物、後の2つは教会と病院だろう。」
軍曹「東は囮だと思うか?」
イシカワ「多分な。20ミリが来る前、ジャミングが一瞬途絶えてる。それに太陽を背にするのは基本だろ。」
草薙素子「軍曹!東は囮で多分無人だ。囲まれていたらもっと撃たれてる。もしかしたら相手は狙撃手一人かもしれない。」
軍曹「何故そんな事が言える!?」
草薙素子「状況がそう教えている!提案がある。今から私が東の建物を回ってそっちに行く。建物が無人と解ったら合図する。そうしたら一斉に、教会と病院に向けて撃ちまくれ。その隙に伍長と戦術核を回収しろ。あれが無ければ前進も後退も出来ない。」
軍曹「よし。スノーと二人で行け!」

サイトー「迂回して合流か。東が無人なのもすぐに気付かれるな。その前に、誰か一人減って貰うか。」

草薙素子「やはりな。」

マザー伍長「ああ、うっ・・・」
軍曹「動くな、マザー。」
草薙素子「やはり無人だった。ご丁寧に弾は一発。食えない相手ね、でも敵は恐らく一人だ。数で追い込む。」
軍曹「ようし、スナイパーは教会だ。一気に落とすぞ。」
草薙素子「いや病院かもしれない。ジャミングを一度切ってる事から、発信機が確認出来ない廃墟は除外しても、病院の線は捨て切れない。」
軍曹「あそこから直線距離にして何メートルあると思う!?教会だ!」
草薙素子「何故そう言い切れる?敢えてGPSを使えなくして迄スナイピングで挑んでくる奴だ。コリオリの法則※2迄熟知した手練だったら、全員殺されるぞ!」
バトー「めんどくせえ。どっちでもいいだろうが。」
イシカワ「慌てるな。戦場じゃ勇猛さより慎重さが生き延びる秘訣だ。あのメスゴリラをよく見とけ。本当のプロってのはああいう奴の事を言うんだ。」
バトー「メスゴリラ?」

サイトー「女か。ん?」
スノー「ピクルス!」
草薙素子「いた!敵は病院だ。イシカワ!」
スノー「糞野郎!」
草薙素子「取り敢えずポッドは回収した。伍長は手遅れだった。」
軍曹「よし、一旦戻ろう。こんな所で全滅する訳にはいかない。」
スノー「馬鹿言うな、ピクルスが殺られたんだぞ。敵討ちだ。ぶっ殺す。」
軍曹「これは命令だ。一旦戻って立て直す。」
草薙素子「戻るのもいいが、どっちにしても狙撃兵と戦う必要はある。通信が使えない以上援軍も呼べない。」
スノー「そういう事だ。まだこっちには数の利がある。どうする、お前の仲間も死んでるんだぞ。」
軍曹「分かった・・・やろう。」

サイトー「おかしいな、パニックを起こさず立ち直ってきやがった。優秀な指揮官がいるらしい。」

サイトー「俺は、決戦の時が近付いた事を悟った。緊張感が一気に高まり、アドレナリンが噴き出すのを細胞レべルで感じていた。」
サイトー「戦場での殺し合いは、誰が誰を殺したかは分からない。だがその中で一つだけ例外がある。それはスナイパーだ。」
サイトー「狙撃には、その行為自体に始めから名詞が付いちまってる。だからスナイパーだけは捕虜になれない。自分達の仲間や指揮官を殺した仇として、必ずその場で殺される運命だ。」

軍曹「無反動砲をビルにぶち込んだらスモーク弾を撃ちまくれ!煙に隠れて突っ込む!」
軍曹「撃ち・・・うっ」
バトー「糞野郎が!」
サイトー「くっ・・・」
草薙素子「よし、援護しろ!私とスノーで突入する!」
バトー「ちっ、バックアップかよ。」
イシカワ「良かったじゃないか。信頼を得たと思え。」

サイトー「ちっ・・・」
イシカワ「もういい、少佐に任せるんだ。あとはあいつが何とかする。」
バトー少佐だ?何なんだよ、メスゴリラだの、あいつは何もんだ?」
イシカワ「さあな。只あいつは戦闘の天才だって事だ。そして俺達は彼女の事を少佐と呼ぶ。」

サイトー「俺は、少佐と対峙したそのわずか1秒足らずの間に、この撃ち合いの結末を想像し、戦慄した。それは、俺のスナイパーとしての経験が、あらゆる状況を想定した上で弾き出した結論だった。俺はやられる。ライフルを腰だめに構え、瞬きすらしないその身のこなしから、彼女が全身義体サイボーグだとすぐに理解した。そしてその手にあるライフルはフルセンシングのセミオート。当然射撃制御ソフトは長中短距離をフルインストール。試しに俺はイメージの中で1発、少佐に向けて発射した。少佐に初弾を撃ち落とされ、ボルトアクションの俺は、柱に身を隠す間に2発目を食らう。それは、何度シミュレーションしても同じだった。」

タチコマA「でもでも、そのままでは・・・」
サイトー「ああ。このままではいずれ殺られる。俺はこの状況からどうすれば逆転出来るのかを必死で考えた。そしてある物に気付いた。それは、最初に少佐が撃ったジャミング装置だった。少佐は何故最初に3発も使ってこいつを壊したのか?待てよ、もしかして奴は中距離射撃の制御ソフトはインストールしていない?いや、そうに違いない。奴はスナイパーのポジションにありながら、フルセンシングのライフルをショートバレルにしていた。それは、中距離時、サブマシンガンの代用とする事を前提にしている為だ。なら、俺とここでスナイピングする為には、制御ソフトが要る!奴は今制御ソフトを、衛星からダウンロードしている最中か!?間に合え!」

草薙素子「貴様、いい腕をしているな。今から私の部下になれ。」
サイトー「あんた、初めっから・・・」

サイトー「そう・・・俺は初めから少佐のポーカーフェイスに嵌められていたんだ。そして、俺に断る権利は残されていなかった・・・それは、少佐からの、最初の命令だったからだ。」
タチコマA&B「はあ・・・」
サイトー「ラストカードをくれ。」
ミニミ「面白い話だったが、このゲームとは関係ない・・・有り金全部レイズだ。」
サイトー「じゃあ俺も全部だ。」
ミニミ「強がるな。今度ばっかりははったりでどうにかなる勝負じゃねえ。お前の狙いはスペードのロイヤルフラッシュだろ。だがお前はブタさ。何故ならスペードのエースは俺に来ているからさ。お前に勝ち目はねえ。それに今の話も嘘だろ。面白い話だったが、たしか昔の映画に似た様な話があったっけな。」
サイトー「ああその通り、全部作り話だよ。」
タチコマA「えっ、そうなの!?」
サイトー「今回はこの辺で勘弁してやる。アズマ、精算しとけよ。」
ミニミ「へっ、恥ずかしくなったか?おい新人、立て替えとけよ。」
アズマ「ちえっ、我がままな先輩だぜ。」

タチコマA「サイトーさん、本当にブタだったのかな?おおっ!みんな見て見て!サイトーさん最後にスペードの9でストレートフラッシュが出来てるよ!」
ミニミ「おおっ!」
アズマ「何だって!?」
タチコマA「って事は、さっきの話も、ホントかも・・・かも・・・」


脚注
※1:Monterrey メキシコ北東部の工業都市で鉄鋼生産の中心地。
※2:Coriolis law 回転座標系上で移動した際に移動方向と垂直な方向に移動速度に比例した大きさで受ける慣性力の法則の事。

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