the Cat Met with Special Boxes.

第17話 修好母子 RED DATA

しゅうこうぼしMother and Child

粗筋

クゼの足取りを追い台湾に潜入した草薙は、マフィアに追われている少年をひょんな事から助けてしまう。
行きがかり上、行動を共にする二人だったが、反発しながらも次第にその溝を埋めていく。
しかし少年は忽然と姿を消し、単独でマフィアとの取り引きに向かう。
そんな行動に呆れる草薙だったが、沸き上がってくる奇妙な感情に苦笑しつつ行動を開始する・・・


登場人物

用語

セリフ

草薙素子「この男と写真に納まる事がそんなに嬉しかったのか?皆随分いい顔をしている。」
公安刑事「ああ。文字通り難民共の英雄だった様だ。もっともこちらではクゼ・ヒデオではなくロウと呼ばれていた様だが。」
草薙素子「ロウ?」
公安刑事「時には狼の様に無慈悲で凶悪。時には晴天の様に朗らか。だがまたいつ何処へともなく彷徨い消えてしまいそうな浪人のようでもあった事から、難民共にはそう呼ばれていたらしい。」

dividual episodes:修好母子※1 RED DATA※2

公安刑事「台湾当局がこの男の存在に気付いたのはごく最近になってからだ。難民が地元やくざと折り合いを付け、路上に進出し始めた頃から妙な噂が立ち始めてね。難民を統率する指導者の様な男がいる、初めはそんな噂だった。だが暫くすると、難民共による密輸や地元やくざとの組織だった抗争が頻発し始めるに至り、その噂の真相を調べてみる必要に迫られたって訳だ。」
草薙素子「そしてクゼの姿を確認した。」
公安刑事「初めは難民が問題を起こさなくなって良かった位に思ってたが、全く迷惑な話さ。つい最近迄ボートピープル※3に過ぎなかった奴等が、陸での商売にしてもやくざとの抗争の仕方にしても、一気にレべルアップしてしまったんだからな。その原因の全てがこの男にあるのだとしたら、こいつは大した男だと言わざるを得ない。」
草薙素子「コンポジションC-4の密輸ルートも彼が?」
公安刑事「ああ。改造漁船を使った海賊行為は最早難民の十八番になってる始末でね。それでもこっちとしてはロウが台湾を出て行ってくれたってだけで随分と助かっているんだ。日本の公安にはお悔やみを申し上げるがね。」
草薙素子「クゼがここを離れた理由は?」
公安刑事「さあな。連中の話じゃ義体のメンテナンスをする為に日本に戻らなくてはならなかったって話だが、それも本当かどうか。」
草薙素子「辻褄は合うか・・・有難う、参考になったわ。」
公安刑事「そりゃどうも。それとね、お戻りの航空チケットなんだが今日は生憎便が取れなかった。」
草薙素子「明日?」
公安刑事「あんたもご存知の様に大陸側との国交が漸く正常化した矢先の日米安保だ。火の粉が飛んでくる範囲にきな臭い事件が多発するのは世の常。お陰で国際線のスケジュール管理もままならない有様でね。」
草薙素子「それで忙しい公安職員に休息の時間を捻出してくれたって訳?」
公安刑事「一日観光でも楽しんでいってくれ。」
草薙素子「そうさせて貰うわ。」
公安刑事「但し、一人で難民街を彷徨く様な真似はしないでくれよ。これ以上の情報はこの街には無い。もし調べたければ大陸を西に旅でもしてみる事だ。各地の難民街には奴を歓迎した写真が今も至る所に残ってるって噂さ。まあ実際の所国際手配されている訳じゃないから、そいつを確かめた奴はいないだろうけどな。」

草薙素子(分からんな。長崎に現れたハブ電脳は恐らくクゼだと思うが、こっちの難民にしても老人や子供は電脳化していない者が多い。だとしたら奴はどうやって彼等を自分の思考と並列化させているんだ?)

チャイ「仕事をさせてくれよ!こいつは取引だろ!?」
草薙素子(子供相手にも容赦ないわね。)
小傑「人様から盗んだ物を持ち主に返す事を取引とは言わねえんだよ!物は何処だ!?」
小傑「物は何処だ!?ええい、糞餓鬼が!」

草薙素子「行きなさい。」

草薙素子「何?付いて来ないで。」
チャイ「責任取ってよ。」
草薙素子「責任?」
チャイ「ああ。あいつ等小傑って言って、ここいらじゃ有名な新興やくざなんだ。」
草薙素子「だから?」
チャイ「ああんな事やったら、もっと酷い仕返しをしに戻ってくるだろ?俺がやったんじゃないのにさ。」
草薙素子「黙って腕を切り落とされた方が良かった?」
チャイ「ある意味。」
草薙素子「じゃあ謝りに行ってくれば?今度は腕一本じゃ済まないかもしれないけど。」

チャイ「お巡りさーん!」
チャイ「お・・・」
草薙素子「行くわよ。」

草薙素子「どういう事?恩を仇で返すつもり?」
チャイ「お姉さんもしかして全身義体?すっげー!こんな上物初めて見たよ。どっから来たの?」
草薙素子「何が望み?」
チャイ「俺もロウみたいに全身義体になる予定なんだ。だから腕の一本位、別にどうって事ないっての。」
草薙素子「ロウ?」
チャイ「ロウを知ってる?」
草薙素子「こっちが質問してるの。何が望み?」
チャイ「いてっ・・・!まあ、責任を取って貰いたいって事なんだけどさ。ちょっと付いて来てよ。あ、ほら早く。こっち。」

チャイ「着いたよ。」
草薙素子「何?」
チャイ「フィギュア。そっちはRED DATA EXシリーズの青海亀。こっちはEWシリーズの駝鳥。よく出来てるでしょ?あとは塗装して出荷を待つだけなんだ。それは大戦前に作られてた本物。本物と比べるとどうしても塗装が雑になるし、細部のディテールが潰れちゃうんだけどね。でも、刻印や型番も入ってるから殆ど本物にしか見えないでしょ?分からない?」
草薙素子「何が?」
チャイ「これ、みんなコカインなんだ。圧力成型してある。昔メキシコ辺りでやってた方法らしいんだ。こういったフィギュアだったら大人が持っててもおかしくないからね。」
草薙素子「あんたが考えたの?」
チャイ「考えたのはロウさ。実際やるのは初めてだけど。」
草薙素子「あんたそうやって大事な秘密を共有させて、無理やり仲間に引き込むつもり?」
チャイ「そんなんじゃないって。お姉さん間違っても、小傑やホアンロンの人間じゃ無いでしょ?でも、難民でも無ければ只の旅行者でも無い。」
草薙素子「だったら?」
チャイ「俺は全身義体を手に入れたいんだ。あんたなら非合法でそんな義体を手に入れられるルートを知ってるんじゃないかと思ってね。」
草薙素子「全身義体なんか手に入れて何がしたいの?」
チャイ「ロウがやろうとした事を引き継ぐのさ。何だよこんな時に。俺だ。うん、うん、そうか、助かった。何処かに潜るよ。お前達も暫く消えろ。ここは大丈夫。奴等は馬鹿だからこいつが何かなんか気付きはしないよ。ああ、気を付けろよ。」

チャイ「小傑の奴等がここを嗅ぎつけたらしい。逃げよう。」

草薙素子「想像してたのよりずっと立派ね。」
チャイ「おい!何でこんな所に入るんだよ!俺の隠れ家に行こうよ。」
草薙素子「そんな所よりずっと安全性が高いわよ。」

草薙素子「最上階のスイートを。」
フロント係「スイートですか・・・?少々お待ちを・・・」
チャイ「プラチナ・・・お姉さん一体何者?」
フロント係「お待たせしました。どうぞ。」
草薙素子「有難う。家ではお母さんって呼ばせない方針なの。行くわよ。」
チャイ「若いでしょ?ママ。」

TV音声「先程行われた日本との会談では、日米安保締結後の米軍駐留問題が主題となり、日本側の対応が」
TV音声「今では食用としてのみ飼育されている駝鳥ですが、今世紀初頭迄はこの様にサバンナを疾走し天敵から子供を守る為、その群れで一番強い母親が全ての子供を引き取り、他の子供を自分の子供のりに配置させる事で一番強い遺伝子を残すと言う、独自の保育」
草薙素子「これからどうするつもり?」
草薙素子「期待されても困るから先に言っておくけど、明日の朝ここを発つから。」
チャイ「何処に?」
草薙素子「悪い事は言わないわ。さっさと警察に事情を説明して、保護して貰いなさい。」
チャイ「難民の餓鬼を誰が保護してくれるって言うんだよ?難民は世界中何処にも居場所なんか無いじゃないか!俺達はあんたらブルジョワを食わせる為の駝鳥だよ!」
草薙素子「クゼが・・・ロウがそう教えたの?」
チャイ「ああ・・・」
草薙素子「彼はここではどんな人間だったの?」
チャイ「全てさ。英雄であり、神。」
草薙素子義体化は彼の勧め?」
チャイ「違う。でもロウと同じ事をする為には俺も義体化しなくちゃ駄目なんだ!」
草薙素子「若いわね。」
チャイ「ロウは自分はとっくの昔に一度死んだ人間だから、ゴーストの残り火は自分を知ってくれた者の為に使うんだって言ってた。何か全てに絶望してた俺にその言葉は希望を与えてくれたんだ。コピーでもいい、この人なら全てを模倣する価値があるってね。」
草薙素子「あんた電脳化もしていない様だけど、彼の思考をどうやって並列化させたの。」
チャイ「は?簡単さ。ロウと話せばいいんだ。たった一度彼と話をすればそれでみんながロウを好きになる。」
草薙素子「話す・・・?妙な男だな。」
チャイ「俺、最初にあんたを見た時ロウに似てるなって思ったんだ。だから誘った。でももういいよ。俺は一人でやる。ロウだっていつも一人で戦ってたんだ。」
草薙素子「好きにしなさい。止めはしないわ。」
チャイ「そうするよ。」

チャイ「お姉さん、一つ聞いてもいいかな?」
草薙素子「何?」
チャイ「全身義体ってさあ、セックス出来んの?」
草薙素子「試してみる・・・?」
チャイ「やめとく。」
草薙素子「ふっ・・・」

チャイ「IDカード・・・」

草薙素子「車来てる?」
フロント係「あちらに。」
草薙素子「ありがと。」

草薙素子「空港迄お願い。」
草薙素子(案外骨のある奴だったわね。クゼのイメージも少し分かったし。にしても、彼等を魅了する真の要素は何だ?これもスタンド・アローン・コンプレックスの一つ?)
草薙素子「飛行機には間に合うの?」
運転手「十分間に合いますよ。」
草薙素子「あいつ・・・何よ、まだ只の甘えん坊じゃない。運転手さん、ここに行ってくれない?急用を思い出したの。」
運転手「はい。」

チャイ「今回の取引は一筋縄ではいかない。だから俺一人で行く。でももし俺が戻らなかったりした時は、この中の誰かが計画を引き継いでくれ。ロウの教え通り無駄死にはやめよう。」
少年1「分かった。」
少年2「うん。」
少年3「お前も、気を付けろよ。」
チャイ「ああ。」

番頭「お、おお?」
草薙素子「調べさせて貰うぞ。」

草薙素子「私にも、まだこんな感情が残ってたなんて・・・」

男「お連れしました。」
老板「お前がチャイか?」
チャイ「はい。不躾なお願いを聞き入れて頂き有難う御座います。」
長老「ほう。礼儀正しいな。」
チャイ「初めてお目にかかる訳ですし、ましてやこれからビジネスを共に成功させようと言うパートナーですから。」
長老「まだお前に会うと決めた訳ではないがな。」
長老「だが面白い奴だ。どうする老板。」
老板「こんな形でではなかったら、パートナーになれたかもしれんな。そう思わんか?小傑。」
小傑「冗談でしょう、老板。この事では、端からホアンロンと揉める気は有りませんから。残念だったな。まずはお前を殺し、仲間の餓鬼も皆殺しにする。物を探すのはそれからだ。」

見張り「ん?こんな時間に女を呼んだ覚えは無いぞ!」
草薙素子「私も呼ばれた覚えは無いわ。」
草薙素子「ありがと。」

小傑「騒がせたな老板。難民の血でここを汚す訳にはいかない。この礼はいずれ、別の形で・・・!?」
草薙素子「遅れて悪かったな。取引を始めよう。」
小傑「お前は昨日の・・・」
草薙素子「こいつでその子を引き取りたい。ついでに難民に報復を加える事もやめて貰おう。要求はその二つ。飲んでくれたらこのまま大人しく消えるわ。無理なら実力行使に出なくちゃならないけど。」
小傑「ふざけるな!」

草薙素子「私は気が短いぞ。」

老板「お前もロウと同じ人種か?」
草薙素子「見ての通りよ。」
老板「分かった・・・行け。」
老板「やめろ。全員やられるぞ。」

小傑「追え!」
老板「やめておけ。敵を知り己を知れば百戦危うからず。この取引は終わった。」

草薙素子「ロウはお前に義体化を勧めたり、ましてや命を落として迄危険な抗争をしろと教えた訳では無いだろう?」
草薙素子「お前には勇気も才能もある。だが死んだら何も残らん。今は矜持を仕舞って未来を作れ。じゃあな。」


脚注
※1:修好母子 修好+母子で母と子が親しく交わること。
※2:Red Data 絶滅危惧(種)の事。
※3:boat people 亡命・出稼ぎなどのため、小型船で国外に脱出する人々。特に、1975年のベトナム戦争終結以降、インドシナ諸国からの難民のこと。

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