the Cat Met with Special Boxes.

第18話 天使の詩 TRANS PARENT

てんしのうたAngel's Poem

粗筋

冬のベルリン、一人車椅子で佇む少女。
彼女は首を長くして待っていた、年に一度の父親との邂逅の日を。
そんな少女は最近になってこの町では余り見ない義眼の大きな体の男を見かける様になり、次第にその大男の事が気になっていく。
遂に約束の日が来た。
少女は待ち合わせの教会に向かう。
だが、その中からは聞こえてきたのは父親の声ではなく、大きな銃声だった・・・


登場人物

用語

セリフ

バトー(退廃と復興が共存している街ベルリン。ここは第三次核大戦と第四次非核大戦の二度に渡りミサイル攻撃の標的にされた、数少ない国際都市の内の一つだ。だがゲルマン民族にとって特別な意味を持つこの街は、その都度ドラスティック※1な迄の復興を繰り返し、三度、この国の首都として、今またその息を取り戻している。)

dividual episodes:天使の詩 TRANS PARENT

バトー「京レの3003式熱光学迷彩も、犬の嗅覚迄は誤魔化せねえか・・・」
草薙素子「何してるの?バトー。遊んでると痛い目見るわよ。」
バトー「ついな。大体俺はこういった長時間の監視任務は向かねえんだ。それに、この雪も具合が悪い。光学迷彩の視認値を上げる。」
草薙素子「ここ迄過酷な監視任務に向いている人間などそういるもんじゃない。」
バトー「早い所終わらせて帰ろうぜ。」
草薙素子「それとてあと数日中には結論が出る。バトー、もう切るぞ。幾ら暗号通信とは言え枝が付かないとは限らない。早く持ち場に戻れよ。」
バトー「分かったよ。」

バトー「ここの寒さは感覚器官を切っていても堪えるわ。」

バトー「よく間に合ったな。台湾から直通便があったのか?」
草薙素子「一旦香港に寄ってから、一番早い便を空けさせたわ。にしても、これ程の大捕物を混成チームで行うとは驚きだな。」
バトー「ああ。俺も課長から任務の内容を聞かされた時はがせねたなんじゃないかと一瞬疑った位さ。まあだが、天使の羽根って言やあ先進国首脳会談ばかりを標的にしてきた超大物テロリストだ。各国に花を持たせるってのが、この作戦形態に落ち着いた一応の理由なんだろうよ。」
草薙素子「で、私とバトーが名指しで選出。このタイミングでの国外任務。やはり内庁の推薦があったと思うのが自然だな。」
バトー「ふうむ・・・」

ローランド「それでは、今回の作戦について説明を始める。まずはこれを見て貰いたい。この男の名はアンジェリカ。全身義体の自称代理商だ。国籍はオランダ。だがある出来事から、この男が単独犯としては史上最大の犠牲者を出したテロリスト、諸君もよく知る天使の羽根である事が判明した。」
男「そのある出来事とは?」
ローランド「順を追って説明しよう。天使の羽根の犯行思想とそのスタイルは一貫している。奴は一握りの先進国がグローバルな意志決定権を独占する事に異議を唱え、サミットが開催される国の何処かでガラス張りの高層ビルを爆破する事を予告。爆破時大量のガラス片を降らせる事により多くの犠牲者を出す事からこの名前が付いた。当然開催各国も厳重な警備体制を敷きそれに対処してきた訳だが、国内の何処で起こるかもしれん爆破テロを全て阻止する事は出来なかった。そこで捜査当局は爆破されたビルのIRログから奴の顔を割り出そうとした。しかし奴は全身義体により毎回顔を変え、全くの別人になっていたのだ。それが今迄天使の羽根の正体が一度も捜査線上に上らなかった理由だ。」
草薙素子「では、何故今になって奴が全身義体であると?」
ローランド「うむ。実は今から2ヶ月前、オランダ人の義体医師が一人の男の義体換装手術の際、誤って患者を意識不明の状態に陥らせた事から、この男が天使の羽根ではないかと言う幾つかの記憶が発見されたのだ。このオランダ人医師によれば、その時に抽出した記憶の中から、この男が過去に行った爆弾テロについての詳細やその都度乗り換えた義体の顔データ等が次々に出てきた、と言う訳だ。」
男「その顔データと同一の人物が爆破現場のログから確認出来た?」
ローランド「全て見つかった。オランダ人医師は数日間倫理と道徳の狭間で悩んだ末、地元警察に通報したそうだ。」
男「もっと早く通報してくれれば・・・」
ローランド「その通りだが、彼を責める事も出来ん。」
バトー「そこ迄は分かったが、じゃあ何故来月サミットが行われるリーズではなく、ベルリンに俺達は集められたんだ?」
ローランド「いい質問だ。捜査当局はこの男の過去の顔データを世界中の空港のIRシステムと照合、その結果、天使の羽根は爆弾テロを起こす前にここベルリンに立ち寄り、二日前にテーゲル国際空港から現地に向け出発すると言う事実を発見した。上海サミットの際には2028年2月17日、モスクワサミットでは2029年11月25日、そしてパリサミットでは2030年7月13日と全て二日前だ。何故か過去三度とも同じパターンを繰り返しており、犯行スタイル以外は共通行動が見られなかった天使の羽根にしては珍しいルーチンパターンと言える。」
草薙素子「ベルリン入りする際のルートは?」
ローランド「それは分かっていない。だが奴は何らかの理由により犯行を起こす前に、必ず一度このベルリンに立ち寄っていた訳だ。従って今回もサミット前にベルリン入りし、数日間ここに滞在する可能性は高い。その間に使用する名前義体はこのデータと変わっていないと思って間違いない。これは最初にして最大のチャンスと言える。その間に我々は何としても奴を見つけ出し、身柄を拘束する。」

バトー「で、その方法がコレってんだからな。いい加減ご辞退申し上げたくなる任務だぜ。」

バトー「どうもあいつ等とは相性が悪いらしい。」

バトー「またあの娘か。こんな時間にいつも一人で何処へ行くんだ?しかも雪ん中を。」

通信員:本部より定時連絡。地区確認。状況を報告せよ。
D1:D1対象者未確認。他特に異常無し。
D2:D2対象者未確認。潜伏の可能性無し。
草薙素子:D3対象者未確認、他異常無し。
バトー:D4対象者確認出来ず、特に異常無し。
通信員:本部了解。確認引き続き監視を継続してくれ。泣いても笑っても本作戦はあと二日で終了する。天使の羽根がこのまま現れなければ、作戦はリーズ当局に引き継がれ、また何処の誰とも分からないテロリストの捜査に逆戻りだ。この期を逃さぬ様、心して任務に当たってくれ。
D1&D2&草薙素子:了解。
通信員「D4、どうした?」
バトー「了解。」

バトー(やっぱり俺には向かない任務だ。駅や空港で透明なモンスターを目撃・・・?どうやら退屈してるのは俺だけじゃなさそうだ。ん?日本の出島でアジア難民らによる自治区宣言だと?厄介な事になってる様だな。)
バトー(何なんだ?あの娘。俺の存在に気付いてるのか?だとしても理由が分からねえ。)

テレジア「天使様、何故かしら?メールはもう2週間も前に来ているのに、どうしてパパは現れないの?」
バトー(パパ?)
テレジア「でも、気配は感じるの。きっと何か別の用事があるのね・・・誰?」
バトー(勘が鋭いのか?)
テレジア「もしかして・・・」

バトー「養護施設・・・ここから俺が見えてたってのか?」
テレジア「天使様、いつもパパには欲しい物なんて無いって言ってきたけど、今度は欲しい物があるんだ。パパは、また今度も違う義体で帰ってくると思うけど、私には・・・」
院長「テレジア、ちょっと降りて来て。」
テレジア「はい。」

バトー(これか?)
音声「パパだよ。2週間以内に会いに行く。いつもの教会で会おう。」
バトー(具体的な日付は無しか。)
バトー(悪いな、ちょっとだけ見せて貰うぞ。)
バトー(読みにくい字だな。2030年7月12日、夜パパが来た。教会の礼拝堂で会う。2029年11月24日、約束通りパパが帰ってきた。1ヶ月早いクリスマス。教会の礼拝堂で貰ったプレゼントはカシミアのコート。2028年2月11日、突然パパから連絡があった。教会の礼拝堂で会う。プレゼントにミトンを貰った・・・一致する!全部アンジェリカがベルリンを発つ1日前だ。これは・・・義体を変えたパパと会った時パパが分からなかった時の合言葉。天使は今日、何をしに行くの?世界中に天使の羽根を降らせに行くよ・・・って事は、あの娘の父親が天使の羽根・・・!?」

D1:D1対象者未確認、潜伏の可能性無し。
D2:D2対象者未確認、潜伏の可能性無し。
草薙素子:D3対象者未確認、他異常なし。
通信員:D4、何故場所を変えた?
バトー:いや、あそこは野良犬が多くてな・・・3003式も犬の嗅覚には効果が無い。
通信員:ポジションを変える場合は連絡を入れろ。確認の上指示を出す。
バトー:了解。

バトー「大勢の罪のない人間を殺してきた事への懺悔か?」
アンジェリカ「誰だ!?」

バトーアンジェリカ!お前が天使の羽根だって事は分かってる。観念するんだな。」
アンジェリカ「何の事だ・・・?俺は・・・」
バトー「無駄だ。こっちには確かな情報がある。でなきゃここに警察が居る訳ないだろう?違うか?」
バトー「自分勝手な思想の為に大勢の人の命を奪っても娘の父親ではありたいのか?お前が爆破し、ガラス片を降らせたあの場所にも、プレゼントを待っている子供や母親がいた筈だ。そういった人達の命を奪ったお前だけが、何食わぬ顔で娘に会えると思ったら大間違いだ。残念だがもう二度と娘に会う事は出来ないだろう。」
アンジェリカ「そうだな・・・その通りだ・・・お前、俺の娘を知っているのか?頼みがある。もし娘を知っているなら、あの包みをあの子に渡してくれないか?あれはあの子がどうしても欲しがっていた物なんだ。」

アンジェリカ「おおっ!?」

バトー少佐・・・」
草薙素子「仏心でも出したか!?黙って見ていようと思ったが、たるんでるぞ!」
バトー「すまねえ・・・だが、何故ここが?」
草薙素子「流石にトグサの様にゴースト侵入錠を付ける訳にもいかないからな。視覚素子に枝を付けさせて貰った。」
バトー「いつの間に・・・?」
草薙素子「昨日の暗号通信の時からたるんでいたからな。本部に連絡。こいつを回収し次第作戦は終了だ。日本に戻るぞ。」
テレジア「パパ?パパなの?今凄い音がしたけど、何があったの?」
バトー「お前、見えてたんじゃなくて、目が見えなかったのか・・・」
テレジア「誰?パパ?パパよね?私には分かるわ。」
テレジア「ね?パパ・・・?わっ・・・パパ・・・怖いよ、返事して・・・ねえ、そこに居るんでしょ・・・?パパ・・・?天使は今日、何をしに行くの?」
テレジア「天使は今日、何をしに行くの?」
バトー「天使は・・・」
テレジア「天使は・・・?」
バトー「天使は、もう・・・何処にも行かない・・・」


脚注
※1:drastic (薬が)強烈な、(行動・処置・手段等が)徹底的な、思い切った。

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