the Cat Met with Special Boxes.

第20話 北端の混迷 FABRICATE FOG

ほくたんのこんめいConfusion at the North End

粗筋

クゼを追い択捉に向かった9課。
草薙は旧知の情報屋の元に急行するが、待っていたのはその男の死体だった。
不自然に残されていたフロッピーを解析する草薙。
するとそこにはプルトニウムの取引情報が記録されていた。
買い手はなんとアジア難民。
クゼ達は、核を手に入れ独立を実現しようとしているのだ。
取引を阻止する為、現場に向かう9課。
しかし、そこでは既に難民と陸自アームスーツが戦闘を始めていた。
この戦闘が意味するものは・・・


登場人物

用語

セリフ

荒巻大輔「お前らしくもないな、この有様は・・・」
草薙素子「言葉も無いわ・・・」
バトー「まだ無理だったんだよ、新入りを実戦で育てていくなんて事はな。」
タチコマ「記憶を電脳に入れ替えてみたらどうかな?矢野君再生しない?」
サイトーゴーストが複製出来ない様に、記憶をコピーしてもゴーストは宿らない。」
荒巻大輔「9課の維持だけを考えるなら新たな人材は不要かもしれん。だが今後の情勢を考えた時、これは我々が乗り越えなければならん課題でもある。」
草薙素子「かもね・・・でもこの作戦からアズマは外すわ。」
荒巻大輔「良かろう。」
イシカワ「丁重に扱ってくれ・・・頼むぞ。」

individual episodes:北端の混迷 FABRICATE FOG※1

荒巻大輔「これは、儂の古い友人からもたらされた情報だ。元ロシア軍士官で今はマフィアに鞍替えした、ボリス・ジャブロフとその部下数名が、本国からプルトニウムを持ち出し択捉入りした事が確認された。」
トグサ「って事は、クゼの奴、そのプルトニウムを買い付けるつもりですかね?」
イシカワ「核武装して独立国を名乗ろうってか?大胆にも程がある。」
荒巻大輔「内偵を続けていた諜報部員を仲間のサイボーグが殺害。今は行方を暗ましている。」
バトー「諜報部員が殺されたのが2時間前か。どうする?と言っても俺達には既に選択の余地は残ってねえけどな。」
草薙素子「そうね・・・」
バトー「ふう・・・となると、どうやって場所を特定する?闇雲に択捉へ行っても埒は明かねえぞ。」
荒巻大輔「公安部からの情報にヒントがありそうだ。択捉市省の佐川電子社がベルタルレックの地下工場を許可無く拡張しているらしい。」
バトー「ベルタルレイ。ロシアの潜水艦基地があった所か?」
イシカワ「確か、ロシア軍が引き上げる際に爆破して埋めたと言う話でしたね。」
荒巻大輔「そうだ。その後佐川の拡張工事が順調に進んでいれば今頃は基地に到達しているそうだ。」
トグサ「成る程。臭いですね。潜水艦基地なら偽装船を隠すには持って来いだ。」
バトー「だが、確証は無い。」
草薙素子「それだけの取引が計画されていたとしたら、現地の情報屋達も何か掴んでるわね。課長、私達はこのまま択捉に入る。万が一に備えて海上保安庁に出島封鎖を要請して。難民に核が渡れば全てのたがが外れるわ。」
荒巻大輔「良かろう。だが儂はお前達を信じている。ここでクゼを抑えられなければ内庁の行為は闇に消え、軍が介入してくる。出島を戦場にしてはならない。」

難民「どうだった?」
難民「大丈夫、何も仕掛けは無さそうだ。」
クゼ「取引迄には時間がある。交代で休んでくれ。」
難民「分かった。」

バトー「おい、これでも食ったらどうだ・・・?本当に大丈夫なのかよ・・・?」
草薙素子「不味い、確かに酷い味ね。課長に抗議しなくちゃ。」
イシカワ「まだ幾らか時間がある。電脳活性をチェックしてみるか?」
草薙素子「大丈夫だ。只ちょっと、クゼの妄想のサイズに戸惑っただけだ。」
バトー「はあー?それが分からねえな。奴は一体どんな妄想を抱いてるって言うんだ?」
草薙素子「端的に言えば、世界征服って事かしら。」
バトー「なんだって?」
イシカワ「とんだ誇大妄想狂だな。そんな物に当てられるなんてらしくないぞ。」
バトー「ちっ、まるで思春期の餓鬼が運命の相手と出会っちまったって面だな。」
草薙素子「そう?でもこれではっきりした。奴は個別の十一人ウイルスが一度は発症したものの、元々持ち合わせていた資質や思想が今の行動を生んでいるってね。まあ確かに妄想自体は陳腐ではあるが、軽く笑い飛ばせないのは奴は独裁者になる事で世界を平和に出来ると本気で考えている、そんな感じがしたからだ。しかもアドレナリンの分泌量は常人の致死量に達していた・・・クゼは既に聖域に入っていると考えるべきだろうな。」
バトー「何だよ?聖域って・・・」
草薙素子「馬鹿になってるって事よ。歴史的に見てもそういう奴は信じられない力を発揮する。たとえばチェ・ゲバラやマルコム・エックス、カシアス・クレイなんかがその典型だな。」
バトー「思想家とは違うのか?」
草薙素子「ある意味同類だが、思想的に近いのはガンジーやキング牧師だろう。常時接続の難民達はゾーニングとフィルタリングのかかったネットを介し、奴の行動のライブ中継に酔っている。だがバイアスをかけ意識を共有しようとしないのは、奴のゴーストラインより先がキルゾーンと分かっているからだ。私も危なかったって事ね。」
バトー「はあ・・・?面白くもねえ話だな。」

草薙素子イシカワパズボーマはこのまま待機。取引場所が違った場合に備えろ。」
一同「了解。」

男「死ね!軍国主義者が!」
トグサ「物騒な所ですね。」
草薙素子「返還されたとは言え、ロシア系とやまとん※2との摩擦はすぐには無くならん。」

タチコマ「わーおー、建設途中のジオフロントですね。」
サイトー「こいつを基地の方へ進んで行けばクゼに会えるかもしれないって事か。」
バトー「俺達にまだ運があればな。」
タチコマ「運が無かったら?」
バトー「そん時は佐川の土木作業員と御対面するだけだ。少佐からの連絡を待ってる余裕は無い。」

クゼ「何だ?」
青年「俺は武器を買うって聞かされてこの船に乗った。だけど指揮を執っているのがお前だって知っていたら、ここへは来なかった。」
クゼ「そうか・・・なら無理に付き合う事はない。このまま帰るも良し、択捉の街に消えるも良しだ。俺は強制しない。」
青年「俺も革命には賛成だ。だけど俺達に最初に革命を教えてくれたのは伝説だ。今では出島の殆どの人間が同志クゼの事を知っている。でも、あんたの正体を知っている人間は殆どいない。だから俺は納得出来ないんだ・・・俺は今でも伝説の教え通り、自爆をやる覚悟はある。」
クゼ「下らんな。そんな物は自己満足でしかない。革命とはゴーストが在ってこその産物だ。」
青年「だからお前の事が知りたいんだ。俺にもお前を信じられる根拠をくれ・・・でなけりゃ・・・どうなんだ!?」
クゼ「今日我々が手に入れようとしている武器は、プルトニウムだ。出島を独立国であると日本政府に認めさせる。」

男「借りたものは返せ!それが最低限のルールだろ!分かったか!?」
草薙素子「羽振り良さそうね。」
男「ああん?」
草薙素子「他人に貸せる程何があるの?」
男「あ、姉さんじゃありませんか・・・」
草薙素子「覚えてた?クロルデンがまだこの奥でやってるって噂、本当?」
男「もちろんですとも。こちらに。」

男「相変わらず用心深くてね。ささ、どぞ。」
草薙素子トグサ、お前はここで待て。」
男「あちらで。」
草薙素子「お前もここ迄でいい。この世界じゃ愛想良いのは嫌われる。」

男「あんた、姉さんの相方務めるの、大変だろう?姐さんとは仲良くしておかないと、すっげー後悔すっからねえ。」

草薙素子クロルデン、私よ。根室上陸作戦の時は世話になったな・・・攻性防壁・・・まだ焼かれた直後ね。何処に潜って焼かれたのか・・・」

草薙素子「ちっ・・・!まだここに居たようね。にしても、クロルデン程のハッカーを焼き殺すとは相当の手練だな。攻性防壁の走らせ方も機密保持法が認めていない対応だった。」

草薙素子「あった・・・フロッピー?こんな旧式のメディアを外部記憶にしておくなんて・・・さっきの奴はこれを消すのに手間取っていたのか?佐川の裏帳簿か。『出物、レモンケーキ20キロ』・・・レモンケーキ・・・?『キロ50万ドル、MAU取引から撤退。ブローカーSAGAWA・K、BJレモンケーキ20キロ、K取り分40%退職金。買い手BP紹介』。私の読み通りプルトニウムの取引情報に枝を付けていたのね。佐川のK。Kは北端特務課長の加賀崎か。奴が仲介屋となってキロ50万ドルで売買。売り手がボリス・ジャブロフ。買い手は、アジアンBP・・・アジア難民って事?するとさっきのハッカーは・・・加賀崎の取り分の内容が円となった様だな。既に前金が佐川に振り込まれている。2億4千万円?難民の何処にそんな金が・・・クゼが用意したと言うの?だとしたらどうやって・・・?でも助かったわ。佐川電子は一番嫌いなヤマトンだって言ってた事覚えてたの・・・?そういう事・・・貴方、報道庁の仕事辞めるべきじゃなかったわよ。そうすれば内庁も、もう少し増しな機関だったかもしれないもの。」
草薙素子イシカワ、取引場所は鯨船基地だ。この件にも内庁が絡んでる可能性がある。
イシカワ:何だと?
草薙素子:時間が無い、バトー達はどうした?
イシカワ:既に大深度地下だ。通信は遮断されてる。すぐそっちに行く。

難民「そろそろ時間だ、もう行こう。」
青年「もう一つ教えてくれ。プルトニウムを買うのに、最低25万ドルは要るって聞いた事がある。その金はどうするんだ?ロシア人から騙し盗るのか?」
クゼ「いいや、ちゃんと金を払って買い取る。金は俺達の痛みを理解して貰う為に、難民を消費し続けてきた国民から、ほんの少しずつ寄付して貰った。と言っても分からないだろうな。絡繰りはこうだ・・・未だ、暖衣飽食に無自覚な国民の総貯蓄額は900兆円を軽く超えている。尤も、この額にさえ彼等は無自覚だがな。そしてその貯蓄に対する利子の中に表面上存在しない額が存在するのを知っているか?」
青年「表面上存在しない?」
クゼ「1円以下の金額の事だ。端末のデータにも通常表示されない小数点以下の数字。その僅かな何銭かの金額をネット上の口座から徴収するだけで1日数千万単位の金額になる。そいつが俺の架空の銀行に振り込まれる様プログラムを組んだんだ。金はそこから用意した。一般人は自分の口座に小数点以下の預金がある事など知りもしない。銀行も今や口座の管理はAI任せ。難民は本土で働けば源泉を徴収されるのに決して帰化を認められる事は無い。国民は国民でシステムからの重大な搾取に気付きもせず、口当たりの良い受け入れ易い情報のみを摂取している。何ていんちきな社会だ。俺はその事を啓蒙していきたい。」
青年「そのお金、今一体幾ら位あるんだ?」
クゼ「ざっと107億6千万だ。これが俺達の革命に使える軍資金の額となる。」
青年「すげえ・・・あんた一体・・・」
クゼ「俺は単なるテロリストだ。只・・・今は少しヒロイズムに酔ってはいるがな。お前は残れ。いつでも船を出せる様に準備しておいてくれ。任せたぞ。」

サイトー「問題の拡張区画か。」
責任者「またか、今日は何があるんだ?あんたら許可取ってるんだろうなあ。」
サイトー「現場の責任者か?」
バトー「おい、今『また』って言ったな?どういう事だ?」
責任者「ちょっと前に本社のアームスーツが2機、その前にはロシア人の怪しげサイボーグが一人、でっかいスーツケースを2個ぶら下げて降りて行ったがなあ。」
サイトー「当たりか?」
バトー「かもな。だが、何故陸自が・・・?」

責任者「おっ、おー・・・」

クゼ「何故、お前一人なんだ?」
コイル「ジャブロフも加賀崎も公安にマークされている。だから俺一人で来た・・・早いとこ、取引を済ませよう。」
クゼ「いいだろう。ここに指定された口座への入金記録がある。確認しろ。」

難民「あっ・・・」

草薙素子「先に行く。お前達は後から来い。」

コイル「取引は成立だ。中身を確認出来ないのはお互い様だ。」

タチコマ「武器を捨てて出て来ーい!兵器規制法と核物質不正取引の容疑で逮捕するー!」
バトー「早く面見せろ・・・!」

タチコマ「はきゃあ!うぅー!」
クゼ「ぬんっ!」

バトーサイトー、何か変だ。ここはいいからコイルを押さえろ!」
サイトー「分かった!」

バトー「糞!出るぞ。しっかり潰しとけよ!」

バトー「止まれえー!クゼえー!」

バトー「そいつは下に置け!」
クゼ「何故直ぐに撃たない・・・?こいつが何だか分かっているからか?」
バトー「そっちはどうでもいい・・・俺の獲物はお前の首だ!」
クゼ「そいつは無理そうだな・・・早くケースを持って船に行け。」
難民「しかし・・・」
クゼ「行け!」

バトー「なめてんのか貴様あ!?」


脚注
※1:fabricate fog 混迷の偽造 (fabricate 作り上げる、でっち上げる、偽造する。 fog 当惑、混迷、不明確。)
※2:沖縄の方言で県外の、本土のと言う意味?

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