the Cat Met with Special Boxes.

第22話 無人街 REVERSAL PROCESS

むじんがいAbandoned City

粗筋

福岡に核爆弾が発見された。
仕掛けたのは難民か、との疑念が渦巻く中、住民は避難を始める。
荒巻はこの一件に内庁が絡んでいると睨むものの、事態は出島への自衛軍派兵と言う流れに推移してしまう。
バトーは最後の賭けとして、ゴーダとの直接対決に臨む。
無人の街を見下ろし、お互いの思いをぶつけ合う二人。
得意げに話すゴーダを沈黙させるべく、話を始めたバトーは逆にゴーダを追い詰めていく。
果たして二人の対決の行方は・・・


登場人物

用語

セリフ

アナウンサー「九州電波塔上空です。5日前地下鉄の通路内で発見された不発弾が、大戦時に使用された戦術核兵器ではないかとの疑いが出た為に始まった集団避難作戦は、自衛軍主導の元、半径30キロにも及ぶ範囲から漸く3500万の一般市民を全て退避し終えた模様です。しかし一部では、今回も難民によるテロなのではと言う憶測が出ており、政府による具体的な説明の成されぬまま福岡の一部を自衛軍が閉鎖するといった情勢に、街はまるで戒厳令下といった様相を呈しています。」

dual episodes:無人街 REVERSAL PROCESS

バトー「戒厳令ね。確かに政府の対応にも問題はあるが、軍に三権が委譲された訳じゃねえだろ?」
草薙素子「そうだな。クゼの乗った擬装船が出島沖で沈んだのは事実だが、そこにプルトニウムがあったかは確認出来ていないし偽装船の逃走を助けるかの様に起きた大停電テロも、本当に難民が起こしたのかは藪の中だ。国民は難民に対する怒りを政府にぶつけ、政府は難民排斥への後ろ盾を強くする。その結果が何を意味するか誰も自分の頭で考えようともしない。これが全て内庁による情報操作の結果だとしても、最早流布したデマは灰に戻らん。」
荒巻大輔バトー少佐の奴はどうしたんだ?
バトー出島でクゼの電脳に潜ってから少し変だって、報告書にも書いたでしょうが。
荒巻大輔「今は核爆弾の処理に集中しろ。既に報道規制の名目で内庁は現場のコントロールに乗り出しているぞ。儂は総理に掛け合い内庁の捜査に踏み切れるかの判断を仰ぐ。」
バトー:状況証拠だけでか?この件で総理の奴は自衛軍出島侵攻って大問題を抱え込んだ訳だろ?この期におよんで国家スキャンダルになりかねない案件に首を縦に振るとは思えんがな。下手打ちゃまた火の粉を浴びるのは9課って事になりかねねえぞ。
荒巻大輔:その為に現場に介入出来るよう取り付けた。あそこから何かを掴め。
バトー「なあ少佐、難民はここへ来て何故口を噤んでいると思う?」
草薙素子「真実は既に現象の前に沈黙した。クゼはそう判断したんだろう。今は口を噤み難民にも真実を隠したまま何処かでもう一度状況を転倒させるチャンスを探している。」
バトー「何故そう思う?」
草薙素子「私が奴でもそうするからよ。」
バトー「心ここに在らずって感じだな。俺達はな、お前の才能に惹かれてここに居るのは確かだが、お前の支えになれねえ程依存してる訳でもねえんだぞ。」
草薙素子「有難う。そういう言い方、嫌いじゃないわ・・・ボーマ、お前は予定通りパズと一緒に爆弾処理の作業に参加しろ。サイトーは私と来い。」
バトー「おい何だよ、全員で乗り込むんじゃねえのか?」
草薙素子「考えがあるのよ。それにバトーには私の代わりにやって貰いたい事がある。」

茅葺「日本の奇跡の手配は?」
荒巻大輔「失礼します。」
職員「既に完了したそうです。」
茅葺「そうですか。」

茅葺「残念な結果になりました。爆弾の解体作業が終わり次第記者会見を開き、国民に事実を発表します。その後自衛軍出島侵攻を許可する運びとなるでしょう。」
荒巻大輔「総理、報告書にも書いた通り難民にプルトニウムが渡った可能性は限りなく低い。ここ迄事態を悪化させたのは恐らく内庁です。今暫く自衛軍出島侵攻を遅らせるようご助力をお願いしたい。」
茅葺「その報告書は読みました。ですが既に時間切れです。政府はロシア当局からもたらされた情報を元に、既にプルトニウムは出島に持ち込まれた物として事を進める方針です。」
トグサ「差し出がましいようですが、それこそが内庁の思惑なのではないでしょうか?誰が望んだ訳でもないのに、自衛軍進攻の先にある物は結局難民との戦争です。どうか報告書の内容を閣議で再考して下さい。」
茅葺「もう少し早くこれを見ていれば・・・私にとっても公安9課は最後のカードだった・・・」
茅葺「荒巻課長、一応このまま待機していて下さい。」
荒巻大輔「分かりました。」

オペレーター「6班、13班より連絡。最上階での配置完了しました。」
自衛官「うむ。」
バトー公安9課だ。総理の命令で来た。」
自衛官「聞いてないぞそんな話は。」
バトー「気にするな。現場じゃよくある話さ。だろ?」
自衛官「総理のサインが・・・」
自衛官「うむ。」
自衛官「こっちの技術者も前線に置いてくれればいい。」
自衛官「やむを得んな。連れて行け。」
秘書官「は。」
自衛官「で、君は何をするのかね。」
バトー「俺はそっちの背広組に用があってな。」
ゴーダ「何かね?」
バトー「お前のお陰で俺達は廃業寸前な訳だが、どうしても二、三聞いておきたい事がある。」
ゴーダ「いいだろう。」

パズ「あれか。」
秘書官「5日間かけて構造解析してきた。いよいよ解体作業に入る所だ。公安9課だ。何か任せられる事があったら使ってくれ。」
作業員「うむ。」
パズ「『To 茅葺 with Love』?悪趣味なラブレターだ。」
ボーマ「昔ファットマンやスカッドの弾頭にも、似た様なメッセージが書かれたそうだ。」
秘書官「アメリカの真似って訳か。」
ボーマ「さあ?そいつはどうかな。」
ボーマ「ガイガーカウンター※1の数値は?」
作業員「当たりだ。だが核弾頭にする技術と時間は無かった様だ。」
ボーマ「只のプルトニウム爆弾って事か?」
作業員「そうだ。だが爆発すれば30キロ圏内は放射能に汚染される。市民の避難と日本の奇跡の準備が整う迄は冷凍しておく他無かった。」
ボーマ「時限装置は無かったのか?」
作業員「幸いな。」
ボーマ「成る程。だが少なくとも振動式圧力センサーと光導電素子による二重の起爆装置が仕掛けてある。ん?待てよ・・・裏蓋にも何かある。」
秘書官「あんた本当に公安か?」
ボーマ「大戦中は軍にいた。ま、その頃は仕掛けるのが専門だったがな。」

バトー「核弾頭の解体処理が行われている真上で話すってのも悪くねえだろ・・・?で、何処迄やるつもりなんだ?」
ゴーダ「何をかね?」
バトー「状況の悪化をだよ。」
ゴーダ「その様な質問は難民か軍事アナリストにでも聞くんだな。私は専門外だ。」
バトー「はっ、そんな事ねえだろ。模倣者を生み出す為の媒介者の創造、あんたが昔研究していた分野の話だぜ?元々この社会はこういった事態を生み出しやすい要素を内包してる。人類の歴史は神話や伝説といった類をプログラムした権力者達によって作られてきた訳だからな。そんな世界で誰にも知られず自己顕示欲だけを肥大化させてきた誇大妄想狂が、自分の身の丈以上の英雄をプロデュースしたくなった。個別の十一人ってのはそんな犯罪者が作った似非スタンド・アローン・コンプレックスだったんじゃねえのか?」
ゴーダ「ほう、興味深い話だ。」
バトー「ふっ、食えねえ野郎だ。だがお前はやはり二流だな。」

ボーマ「明かりを消せ。」
作業員「蓋緩んでないか?」
作業員「クリア。」
ボーマ「あった。平行反射型スイッチ1個。」
作業員「よし、反射鏡を入れるぞ。」
ボーマ「光導電素子、全て切除した。ん?爆縮型核爆弾の模型だ。」
作業員「技術や時間が無かったんじゃない、造らなかっただけと言う意思表示か。」

回収班「どういう事だ!?」
男「つい先程、別の回収班がここを通過しまして。」
回収班「何だと・・・?」

草薙素子ボーマ、爆弾の構造から見た印象はどうだ?
ボーマ:難民からのメッセージといった演出は為されていますが、妙な点も。
草薙素子:何だ?
ボーマ:使われている爆弾が米軍のM-112なんです。今迄難民が使用していたコンポジションC-4じゃない。
草薙素子:そうか。お前達は最後迄そこに残って移送班と合流しろ。
ボーマ:ですが、内庁につながる様な物証はまだ・・・
草薙素子:今はそれで十分だ。
ボーマ:了解。

ゴーダ「私が二流とはどういう意味かね?」
バトー「俺達は以前スタンド・アローンタイプの天才ハッカーと出会った事があってな。どうしてもそいつの起こした現象とこの事件とを比べちまうのさ。そいつと比べるとどうにもここで自決した連中が大した存在に思えなくなってな。それで個別の十一人の外部記憶を調べ、奴等がウイルスによって現れた只の模倣者だって事実を知った訳だ。」
ゴーダ「ほう。」
バトー「奴等はどっかの犯罪者が、恐らくは中国大使館を占拠した連中の名前を上手い事引き継ぐ形で作った思想誘導装置だったって事さ。それでもウイルスをばら撒いた野郎はさぞかし自分を優秀なハッカーだと思ってるんだろうな。」
ゴーダ「そのウイルスを作ったのは私だとでも言いたいのかね?」
バトー「そうは言ってねえ。」
ゴーダ「では私に何を話せと?」
バトー「そういうお前は、連中をどう見てるんだ?」
ゴーダ「ふん、いいだろう。君が言う様に個別の十一人ウイルスによって現れた者だとして、君の言うスタンド・アローンタイプのハッカーとやらと同様、未だ状況を拡大し続けている彼等の方こそ天才、いや英雄と言えなくは無いかね?」
バトー「確かに集団自決と言うパフォーマンスでその意志を広めはした。だが奴等は誰の英雄になった?国民のか?そんな事はねえ。精々奴等は難民問題が拡大する切っ掛けを作った道化でしかねえ。現に奴等の死なんざ既に忘却の彼方だ。」
ゴーダ「成る程。だが事の本質が彼等の記憶では無く今の状況を作り出す事であったとするなら、個別の十一人をプロデュースした犯人こそは天才的なハッカーだと言えなくは無いかね?」
バトー「ああ、残念ながらそれは否定出来ねえ。それでも天才かと言われると俺にはいささか疑問が残るね。奴等の思想やウイルスから見えてくる犯人像は、自身の劣等感から抜け出したいと言う欲望に支配された個別主義者の顔だけだ。所詮個人的な思い付きを他人に強要しているだけでは他人の心を打つ事は出来ねえ。そこには善意でも悪意でもいい、何かしら確固たる信念の様な物が無い限り天才とか英雄と呼ばれる存在には成れねえ。」
ゴーダ「信念・・・」
バトー「そうだ。少なくとも俺はそう思ってる。そしてもう一つ。絶対に必要になってくる最大の要素。運って奴も不可欠だろうな。」
ゴーダ「ほう。それは何故?」
バトー「決まってんだろ?天才とか英雄の存在なんて物は詰まる所第三者の主観による所が大きい。英雄を英雄たらしめる為には傍観者によるレスポンスがまずは必要なんだ。そしてそのレスポンスの内容が英雄を高みにも上げるし地に貶めもする。それこそは運でしかねえ。」
ゴーダ「成る程。面白い仮説だな。それにしても君がこれ程お喋りだったとは知らなかった。」
バトー「そいつは褒めてるのか?」
ゴーダ「そう取って貰っても結構だ。」
バトー「なら褒められついでにもう一つ。この事件の中にある不確定要素についてだ。」
ゴーダ「ん・・・?」

男「上だ。」

バトー「あの日、個別の十一人の中で唯一自決しなかったクゼ・ヒデオ。奴はその後何処へともなく姿を消し、再び姿を現した時には難民達の指導者になっていた。妙な話だよなあ。こいつは偶然なのか?それとも始めっから仕組まれていた事なのか?」
ゴーダ「他の十一人とは真逆の行動に出たのだから、それは不確定な要素なんだろう。だがそれとて結果的には難民排斥に寄与していると取れなくは無い。行動の種類こそ違えど、同一の結論に向けて事態を牽引している事から考えれば犯人は見事、不確定要素迄プロデュースしていたと言う事になるだろう。」
バトー「そう来るか。ま、確かに奴の行動は難民排斥を早めていると言えなくもない。全国ネットで流れた擬装船での逃走劇を更に印象づけた長崎大停電テロ。そして今俺達の真下に仕掛けられている核爆弾。クゼにここ迄やられたら政府も本気にならざるを得んだろう。だがしかし、これをやったのは本当にクゼなのか?実は奴をプロデュースしている犯人の捏造なんじゃねえのか?もっと言えばそのプロデュースしている犯人は自分でも気付かない内にクゼに手を貸し、奴の行動を模倣し始めてると言えなくは無いか?」
ゴーダ「どういう事だ?」
バトー「クゼは択捉から出島に戻ったが、その手にプルトニウムは無かった。本来ならその事を難民に告げ、一旦事態を収拾したかった筈だ。なのにプルトニウムを使ったテロ迄起きた。ではどうするか。自分をプロデュースしようとする者の思惑に乗ってブラフで宣戦布告するか?だが奴は何もしなかった。今は口を噤み、難民をも黙らせ、事態を逆転出来るチャンスを窺っている。いや寧ろ、口を噤んだ事で状況をコントロール出来るカードを得たのは、もしかしたらクゼの方なんじゃねえのか?本来不確定要素でしかなかったクゼが実は真の天才、英雄なのだとしたら?いつの間にかプロデュースしていると思っていた奴の方が、いつしかクゼの模倣者に成り下がっちまっていたとは考えられねえか?」

男「引継ぎ宜しく。」
草薙素子「了解。」

バトー「捏造された思想を信じて自決迄したのに、誰の英雄にもなれなかったあいつ等のゴーストは、今頃何処を彷徨っているんだろうな?」
バトー少佐、プルトニウムの回収は上手くいったのか?
草薙素子:完了した。
バトー:そうか。少佐の外部記憶を頼りに俺なりにクゼを語っちゃみたが、なんとか上手くいったかな。
草薙素子:ああ。このままSPring-8に直行する。情報戦のプロがリアリティにこだわる余り現物を残した事が敗因だな。このプルトニウムが新宿原発から発見された物と一致すれば、この件が内庁の仕業だと言う事を証明出来る。
バトー:了解。
バトー「ゴーダ、俺達もクゼ同様何一つ諦めた訳じゃねえぞ。」
ゴーダ「そうかね。」
バトー「一つ聞き忘れてた。もう発症する事も無えと思うが、ウイルスの発症因子の最後の一つが分からねえ。念の為ワクチンを作っておきたいんだが、お前なら最後の一つは何にする?」
ゴーダ「もし私が犯人なら、義体化以前、童貞だったと言う因子を組み込むだろう。」
バトー「何だと?」
ゴーダ「民衆の為の英雄に殉教する覚悟を求めるならそれは欠かせない要素だ。尤も、それだけの逸材が何人現れるかは賭けだったがね。」
バトー「貴様・・・人が悪いにも程があるぞ。」
ゴーダ「そうかな?斯く言う私も童貞でね・・・君とのお喋りは楽しかったよ。いや、参考になった。感謝する。私の戦いもまだ終わりではない。君達が私を止めるのが先か、私の想いが帰結するのが先か、ここからは不確定要素が鍵を握るだろう。失礼する。」


脚注
※1:Geiger counter 放射線量計測器。ガイガー=ミュラー計数管(Geiger-Muller counter)の別名。

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