the Cat Met with Special Boxes.

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

こうかくきどうたいGhost in the Shell

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊とは

粗筋

西暦2029年 企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても国家や民族が消えてなくなる程、情報化されていない近未来。

情報化のネットワークが地球を幾重にも覆い尽くし、一方でコンピューター犯罪やサイバーテロが日常化した時代。
公安9課、通称「攻殻機動隊」に所属する草薙素子は、国際的に指名手配された謎のハッカー“人形使い”を巡る捜査に乗り出す事になる。
人形使いとは、様々な人間の記憶や行動を、脳をハッキングする事で操ると言う特徴的な犯行スタイルの為に付与されたコードネームだったが、その正体は一切不明のままであった。

一連の事件の捜査の中で、少しずつ人形使いに近づいていくかにも思える草薙。
しかし実は人形使いの方からも草薙へのアプローチを試みていた。
そしてついに人形使いは草薙の前に姿を現すのだが・・・
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登場人物

用語

セリフ

「ニューポートC13地区で208が進行中。当該空域を全面的に閉鎖する。繰り返す。パトロール中の各機、ニューポートC13地区で208が進行中。当該空域を全面的に閉鎖する。」

外交官:何も心配する事はない。我が国でやり直せば済む事だ。
台田:やり直す?
外交官:バグのないプログラムは存在しないが、デバッグの不可能なプログラムもまた存在しない。違うか?
台田:あんたには分かっていないんだ。そもそもあれは本当にバグなのか・・・本来プロジェクト2501に必要だったのは・・・

バトー少佐、6課が突入準備を完了したぜ。
バトー少佐草薙素子「聞こえてる。」
バトー:お前の脳、ノイズが多いな。
草薙素子「生理中なんだ。」

トグサ「6課の山に9課が介入するのは、後々不味いんじゃないのか?」
バトー「相手の外交官は札付きの悪だからな。うまく現場を押さえても良くて強制送還だ。俺達が手ぇ汚すしかねぇのさ。」
トグサ「移動するぞ。回収地点に回せ。」

外交官「何・・・!公安に・・・?」
台田「ひぃ!」
外交官「やめんか!誰が撃てと命じた!?武器を置け!」
外交官「外交官免責特権だ!責任者をここへ呼べ!」
中村「認定プログラマーの国外への引き抜きは武器禁輸措置に抵触する。今回は誘拐の疑いもありそうだがな。この男は返して貰うぞ。」
外交官「それは無理だな。彼は亡命を希望し受諾され、宣誓書にもサインしとる。」
中村「いつ?」
外交官「答える義務はないな。従って我が国は国際法に基づき、彼を保護し連れ帰る権利を有する。ちなみに宣誓書は大使館にある。後日コピーを転送してやろう。」
中村「いいのか?生きては戻れんぞ。」
外交官「口を謹んで貰いたいな。我が国は平和主義の民主国家だ。」
草薙素子:あら、そう。

中村「窓の外だ、撃て!」

中村光学迷彩・・・」

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

外務大臣「珍しいな。9課の荒巻君が外務省に何の用かね?」
荒巻大輔「明日予定されているガベル共和国との秘密会議ですが」
外務大臣「お定まりのODA※1だ。革命後に誕生した新政権から再開の申し出があってな。まあまあ民主的にやってはいるが、いずれ五十歩百歩の連中だ。稼いだ金じゃないから身に付かんし搾取の返済だと思っとるから誰も感謝などせんよ。」
荒巻大輔「で、政府の意向は?」
外務大臣「問題なのは亡命を希望して我が国に滞在しとるかつての軍事政権の親玉だが・・・」
荒巻大輔「マレス大佐でしたな。」
外務大臣「あの男を放り出して援助を進めるか、亡命を公式に認めて援助を断るか、難しい所だ。世論が納得するような明確な理由でもあれば今すぐにでも強制送還したい男ではあるがな・・・先日の亡命騒ぎでは世話になったそうだな。6課の中村君が礼を言っとったよ。我々外向きの人間は手を汚す訳にはいかんのでね。」

鑑識「アクセス・・・反応消失。脳波の出力はどうだ?」
鑑識「異常なし。疑似体験モードのパターンを切り替える。」
荒巻大輔外務大臣の通訳だ。23分程前、電話回線を経由して電脳ハッキングされた。某国情報筋の警告通り人形遣いがネットの各端末に介入し始め、ガベル共和国との秘密会談に対する妨害工作の可能性が濃厚だったので出席者全員に網を張って待っていたんだ。恐らく彼女のゴーストハッキングして会談を襲撃させるつもりだったんだろう。」
草薙素子「侵入者が防壁を破って彼女のゴーストに到達する迄の時間は?」
鑑識「使用されているツールが旧式のHA3ですから、約2時間。それ以上は危険なので回線を遮断します。」
荒巻大輔バトーイシカワが逆探位置を車で追跡しとる。合流しろ。」

トグサ人形遣いって・・・あの正体不明のハッカーが?」
草薙素子「国籍、推定アメリカ。年齢、性別、経歴、全て不明。去年の冬頃から主にEC※2圏に出没。株価操作、情報収集、政治工作、テロ、電脳倫理侵害、その他十数件の容疑で国際手配中の犯罪者。不特定多数の人間をゴーストハックして操る手口から、付いたコードネームが人形遣い。この国に現れたのは初めてのはずよ。」
トグサ「そんな凄腕が、なんで旧式のHA3なんかで?」
草薙素子「新しいタイプだと確かに発覚しにくいし、逆探も難しいわ。でもそれだと、状況からして直ちに前軍事政権の指導者だったマレスに疑いがかかる。」
トグサ「スポンサーであるマレスの疑いをそらす為に、わざと旧式を使わせた・・・?」
草薙素子「あるいは、我々にそう思わせたい別のスポンサーがいるのかも・・・案外マレス自身も踊らされてる一人かもね。」
トグサ「考えすぎなんじゃない?今の所何の根拠もないし。」
草薙素子「根拠ですって?そう囁くのよ、私のゴーストが。」
草薙素子「ところで、まだリボルバーを使ってるんだって?ツーマンセルで2丁下げてもジャム※3が怖い?」
トグサ「俺はマテバが好きなの。」
草薙素子「援護される身としちゃ、好みより実効制圧力※4を問題にしたいわ。やばい目に遭うのは私なんだから、ツァスタバ※5にしなさい。」
トグサ少佐、前から聞いてみたかったんだけど、なんで俺みたいな男を本庁から引き抜いたんです?」
草薙素子「お前がそういう男だからさ。」
トグサ「あ・・・?」
草薙素子「不正規活動の経験のないでか上がりでおまけに所帯持ち。電脳化はしてても脳味噌はたっぷり残ってるしほとんど生身。戦闘隊員としてどんなに優秀でも、同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つ事になるわ。組織も人も特殊化の果てにあるのは緩やかな死、それだけよ。」

清掃局員A「おい!」
清掃局員B「わーってるって!」
清掃局員A「トータルで40秒も遅れてるんだぜ!?」
清掃局員B「5秒で済むから!」
清掃局員A「ついてねぇな・・・」
清掃局員B「ひぇー、悪いね。」
清掃局員A「こんな事なら不法就労でぱくられた前の相棒の方が増しだぜ・・・」
清掃局員A「しかし、ゴーストハック迄して自分の女房の気持ち知りたいかねぇ?」
清掃局員B「顔もろくに合わせねぇでいきなり離婚を喚かれてみろ。おかげで娘は他人顔。生意気に俺の浮気迄疑ってやがる。」
清掃局員A「でも、よく防壁破りなんて手に入ったな。」
清掃局員B「プログラマーらしいんだけど、飲み屋でやたら親切な奴と知り合ってよ。女房の弁護士がやり手で会わせてくれないっつったら相談に乗ってくれてよぉ。こうして場所変えながらアクセスすりゃばれねぇって。頭いいわぁ。」

清掃局員A「馬鹿野郎!そんなに死にてぇかぁ!?」
清掃局員B「俺達以外にも忙しい奴がいるもんだなぁ。」

バトー「誰もいねぇや。」
イシカワ「意味ねぇぜ。逆探出来ても、俺達が到着する迄の時間でふけちまう。」
バトー「いたちごっこって奴か。」
荒巻大輔:そうぼやくな。次の推定区域に草薙とトグサが向かった。お前達はそこで何かを探せ。
バトー「何かって、何をです?」
荒巻大輔:何かだ!
バトー「糞ったれ親父、聞き込みでもやれってのかよ?」

男「あれー?だぁ、間に合わなかったかぁ・・・」
バトー「おっさん、清掃車がここにいたのを見たか?」
男「あんたら、何もん?」
バトー「見たのか?見なかったのか!?どっちだ?」
男「見たよ・・・で、ごみ持って来たらもういねぇんだ。一人が電話かけてたんで間に合うかと・・・」
男「あのー、ちょ、ちょっと、これー・・・」

草薙素子「回収車?成る程、7分置きに移動か。本部、その地区の清掃局から情報を取って回せ。」
オペレーター「当該地区を巡回中の回収車8台。目標車両、タイプC79号車。」
草薙素子「運転貰うわよ。」
草薙素子イシカワ、回収車の男の自宅へ回れ。バトーは次の巡回地点へ先回りしろ。
荒巻大輔「誰かと接触するかもしれん。手を出さずにそのまま追跡しろ。」
オペレーター「巡回地点のデータ来ました。逆探地点と一致。目標、次のポイントに停車中。HA3、アクセス確認。」

清掃局員B「わりぃわりぃ。なぁ、後半俺がごみ運んであんたが電話するっての・・・どう?」
清掃局員A「おめぇの共犯になるのはご免だ。しっかし、情けねぇ話・・・」
清掃局員B「あんたさ、子供いる?」
清掃局員A「いる様に見える?」
清掃局員B「じゃあ分かんねぇだろうなぁ。娘は俺の命なんだ。見てみろよ、ほら、天使みたいだろ?」
清掃局員A「他人んちのアルバム覗く趣味はねぇよ。」
清掃局員A「はい、79号車。おぉ主任、何です・・・?え・・・?警察が俺達の巡回路を・・・?なんでそんな・・・知らないっすよ!」
清掃局員B「ハッキングがばれたんだ!あの親切な奴に知らせなきゃ!巡回場所、1箇所飛ばすぞ!」
清掃局員A「えぇ!?」

オペレーター:目標、巡回路を外れ、増速して次のポイントへ向かっています。
バトー:感付かれた?目視範囲に着けちゃいねぇぞ。
草薙素子:清掃局のネットにアクセスしたのがばれたのかも。
バトー「裏から潜りゃいいのに・・・」
荒巻大輔:止むを得ん。接敵して押さえろ。

草薙素子「運転、返すぞ。」
トグサ「おっと!」

バトー「あーあー、装甲バンがお釈迦かよ。」
草薙素子:強装弾※6の固め撃ち!?車のドア貫かれるわよ!
バトー:サブマシンガンで?無茶な野郎・・・

バトー光学迷彩迄使ってやがる!
草薙素子:そのまま追って!私は上から回り込むわ。

草薙素子トグサ、まだ生きてるなら回収車の2人を拘束!
トグサ「了解・・・優しさのない職場だぜ・・・」

バトー「警察だ!全員伏せろ!」
バトー「ぬぅ・・・!」

草薙素子:それで終わりか?

バトー「終わったか・・・?こんな銃で強装弾なんか撃つから、フレームがたがた。バレル※7も駄目だな、こりゃ。」
男「逮捕しても無駄だ。何も吐かんぞ!」
バトー「吐くぅ?自分の名前も知らねぇ野郎が偉そうな事抜かすな、馬鹿!」
草薙素子「母親の顔、生まれた町の風景、子供の頃の記憶・・・何か一つでも覚えているか?」
バトーゴーストのない人形は悲しいもんだぜ。特に赤い血の流れてる奴はな・・・」

「ヘリの客が屋敷に入ったら突入するぞ。B班は裏、残りは正面に回れ。サイトー、お前の班で屋敷内の車のプラグ、全部抜いとけ。」
荒巻大輔「録画始めろ。」
「本部から部長宛です。」
バトー少佐の取っ捕まえた男の身元が割れました。
荒巻大輔「聞こう。」
バトーサン・ゲンファー、28歳。出入国管理法違反、銃砲刀不法所持など前科3犯。先月末に所在をくらます迄難民系の武力闘争組織に所属。1週間程前にその前歴を買われて、ガベル共和国政府の大使館付き武官に、秘密会議を襲撃する様に依頼を受けた。
荒巻大輔「で、本当の所は?」
バトー:通称コーギー。職業は、ちょっと物騒な廃品利用業者・・・ちんぴらともいいますけどね。これ、所轄の警察署の前歴者リストで確認済み。どこをどう突っ突いてもガベルとの関係なし。人形遣いに操られた人形ですよ。
荒巻大輔イシカワの方は?」
バトー:もう戻って来て、現在トグサと一緒に哀れな清掃局員を説得中・・・で、そっちに現れた人形遣いは?どんな感じの奴です?
荒巻大輔「人形みたいな奴だ。」
「B班配置良し。」
「A班、およびC班良し。」
「突入準備、完了しました。」
荒巻大輔「突入しろ。」

清掃局員B「疑似体験って、どういう事です?」
トグサ「だから、奥さんも娘も離婚も浮気も、全部偽物の記憶で夢のような物なんです。貴方は何者かに利用されて政府関係者にゴーストハックを仕掛けてたんですよ。」
清掃局員B「そんな・・・まさか・・・!」
イシカワ「あんたのアパートに行って来たんだ。誰もいやしない。独りもんの部屋だ。」
清掃局員B「だから、あの部屋は別居の為に借りたアパートで・・・」
イシカワ「あんたはあの部屋でもう10年も暮らしてるんだよ。奥さんも子供もいやしない。あんたの頭の中にだけ存在する家族なんだ。」
トグサ「ご覧なさい。貴方が同僚に見せようとした写真だ。誰が写ってます?」
清掃局員B「確かに写ってたんだ。俺の娘・・・まるで天使みたいに笑って・・・」
トグサ「その娘さんの名前は?奥さんとはいつどこで知り合い何年前に結婚しました?」
トグサ「そこに写ってるのは誰と誰です?」
清掃局員B「その嘘夢、どうやったら消せるんです?」
トグサ「残念ながら現在の技術では・・・成功が2例報告されているだけで、とてもお勧め出来ません。お気の毒です・・・」

バトー「疑似体験も夢も、存在する情報は全て現実であり、そして幻なんだ。どっちにせよ一人の人間が一生のうちに触れる情報なんて僅かなもんさ。」

バトーサイボーグが非番に潜りに来るなんてのはいい傾向じゃねぇな。いつ頃から始めたんだ?こんな事・・・海が怖くないのか?もしフローターが作動しなかったら・・・」
草薙素子「その時は死ぬだけよ。それとも、飛び込んで助けてくれる?無理に付き合って貰った訳じゃないわ。」
バトー「俺は・・・」

バトー「なぁ、海へ潜るってどんな感じだ?」
草薙素子「アンダーウォーターの教程、済んでるんじゃなかった?」
バトー「あんなプールの話を聞いてんじゃねぇよ。」
草薙素子「恐れ、不安、孤独、闇・・・それから、もしかしたら希望。」
バトー「希望?真っ暗な海の中で?」
草薙素子「海面へ浮かび上がる時、今迄とは違う自分になれるんじゃないか、そんな気がする時があるの。」
バトー「お前、9課を辞めたいんじゃないのか?」
草薙素子バトー、あんたの身体どこ迄オリジナルだっけ?」
バトー「酔っ払ったのか?お前・・・」
草薙素子「便利な物よね。その気になれば体内に埋め込んだ化学プラントで血液中のアルコールを数十秒で分解して素面に戻れる。だからこうして待機中でも飲んでいられる。それが可能であればどんな技術でも実現せずにはいられない人間の本能みたいな物よ。代謝の制御、知覚の鋭敏化、運動能力や反射の飛躍的な向上、情報処理の高速化と拡大・・・電脳義体によってより高度な能力の獲得を追及した挙句、最高度のメンテナンス無しには生存出来なくなったとしても文句を言う筋合いじゃないわ。」
バトー「俺達は、9課に魂迄売っちまった訳じゃないんだぜ。」
草薙素子「確かに、退職する権利は認められてるわ。この義体と記憶の一部を謹んで政府にお返しすればね。」
草薙素子「人間が人間である為の部品が決して少なくない様に、自分が自分である為には驚く程多くの物が必要なの。他人と隔てる為の顔、それと意識しない声、目覚めの時に見つめる手、幼かった頃の記憶、未来の予感。それだけじゃないわ。私の電脳がアクセス出来る膨大な情報やネットの広がり、それら全てが私の一部であり私という意識その物を生み出し、そして同時に私をある限界に制約し続ける。」
バトー「それが沈む体を抱えて海に潜る理由か?暗い海の底で一体何が見えるってんだ・・・?」
?:今我ら鏡持て見る如く見る所朧なり※8バトー「今の、お前だよな?」

荒巻大輔「遅れるなら遅れると連絡ぐらいせんか!」
「準備出来ました。繋げます。」
「よーし、十分だ!切れ!」
荒巻大輔「3分後に課長室へ出頭しろ。」
バトー「遅刻して来たお前の為に親切な俺が説明してやるとだな・・・2時間程前、ニューポートシティにあるメガテクボディ社のラインが勝手に義体を作り始めたんだそうだ。それに気が付いた係官が到着した時には、義体は既に逃走。で、非常線を張って捜索していた所へ高速道路上をうろついてた裸の女をはねちまったって、良心的な運ちゃんから通報がありここへ持ち込まれたって訳。」
トグサ「メガテクボディ社ってのは政府御用達のメーカーで、そこで作ってる義体は全て機密なんだって?」
バトーハッカーの仕業だとすると攻性防壁を潜る凄腕だが問題はそれだけじゃないんだ。奴の頭ん中には、もちろん一欠けらの脳味噌も入っちゃいないんだが、補助電脳の中にはどうやらゴーストらしき物が存在するんだと。」

「ゴーストをダビングした時に生じる擬似ゴーストラインに似ていなくもないんですが、ダビングに特有の情報の劣化が見られません。いずれにせよ障壁辺の地図を作成した上で潜ってみなけりゃ確証はありませんがね。じゃ、私あれの検査の途中なんで。」
荒巻大輔「ご苦労。」
「さーて、ばらすかぁ・・・」
トグサ「もしかして皆さん、あの義体ゴーストがあるなんて本気で思ってる?」
バトー「あり得るな。セルロイドの人形に魂が入る事だってあるんだぜ?まして奴は脳医学用のデバイスを詰め込めるだけ詰め込んでるんだ。魂が宿ったって不思議はねぇさ。それに、お前は新米だから知らねぇだろうがな、少佐義体もメガテクボディ社製なんだ。少佐だけじゃねぇ、俺やイシカワの体の一部、サイトーや他の連中も、メンテナンスやら何やら、部長とお前を除いて9課のほぼ全員があそこのお世話になってるのさ。俺達が憂鬱な顔並べてる訳が少しは分かったかな?トグサ君。」
草薙素子「含意性と仮定して敵が義体の中か外かは分からないけど、そいつは最高機密の防壁を潜り抜けて義体を組み立て、ゴーストラインのあるプログラムを送り込んだ。」
バトー「それもすぐ捕まるようなやり方でな。目的は何だ?」
荒巻大輔「窃盗の線は忘れよう。トグサ、現場検証に行ってるイシカワと合流してメガテク社を洗え。バトー、メガテク社と同じクラスの機密を扱うネットを封鎖させたが防壁が機能しとるかどうか再チェックしろ。」
草薙素子「私は防壁迷路を組み上げるわ。明日あれにダイブしてみる。」
バトー「やばいんじゃないか?義体を替えて泳がすって手も・・・」
草薙素子「あの義体の中にいるのが何なのか、どうしても確かめなくちゃならないの。私が潜る迄誰にもダイブさせないでよ!」

荒巻大輔「あいつ、どうかしたのか?」
バトー人形遣いの一件以来変なんだって、総合評価のレポートに書いといたでしょうが!読んでねぇのかよ・・・」
バトー「部長、自分の脳をいじくらせてる電脳医師の人格を疑った事は?」
荒巻大輔電脳医師は定期的な精神鑑定を義務付けられとるし、公安関係の医師は身辺調査も入れとるが、それを実行するのも同じ人間だ。」
バトー「疑い出せば切りが無い、か・・・」

オペレーター「部長、外務省条約審議官の中村様が面会を求めています。」
荒巻大輔「ん、よし、通せ。」

トグサ「あの太っちょのおっさん、確か・・・」
草薙素子「外務省条約審議部、別名公安6課の中村部長。のっぽの白人は見ない顔ね。」

トグサ「じゃ、行ってくるぜ。」
バトー「あんまり無理すんなってイシカワに言っとけ。」

バトー「何を考えてる?」
草薙素子「あの義体、私に似てなかった?」
バトー「似てねぇよ。」
草薙素子「顔や骨格だけじゃなくて。」
バトー「何の話だ?」
草薙素子「私みたいな完全に義体化したサイボーグなら誰でも考えるわ。もしかしたら自分はとっくの昔に死んじゃってて、今の自分は電脳義体で構成された模擬人格なんじゃないか。いや、そもそも初めから私なんて物は存在しなかったんじゃないかって。」
バトー「お前のチタンの頭蓋骨ん中には脳味噌もあるし、ちゃーんと人間扱いだってされてるじゃねぇか。」
草薙素子「自分の脳を見た人間なんていやしないわ。所詮は囲の状況で私らしき物があると判断しているだけよ。」
バトー「自分のゴーストが信じられないのか?」
草薙素子「もし電脳それ自体がゴーストを生み出し魂を宿すとしたら、その時は何を根拠に自分を信じるべきだと思う?」
バトー「くだらねぇ!確かめてみるさ。あの義体の中に何があるのか、自分のゴーストでな。」

中村「お互い忙しい身だ。手短にいこう。」
荒巻大輔「そうありたい物だな。」
中村「例の義体の中身を回収に来た。見返りに、君達9課はこの件から解放される。外務大臣のサインだ。」

トグサ「保安部、地下駐車場に入ってる外部の公用車は?」
オペレーター:条約審議部の中村部長と、同伴者ドクターウィリスで登録されています。
トグサ「入館時の映像を送ってくれ。」
トグサ「もう一度。赤外※9で。」
トグサ「1、2、3・・・」
トグサ「地下駐車区画の感圧計の記録を回してくれ。Bの・・・7と8。」
トグサ少佐、こちらトグサ。コード09。
草薙素子:どうした?
トグサ中村部長の体って、特注の義体草薙素子:6課にサイボーグはいないわ。海外で活動する都合上、メンテナンスと相手国の感情を考慮してね。
トグサ:じゃ、あののっぽの白人がサイボーグだったとしても、2人の体重が500kgを超えるなんて事はない訳だ。
草薙素子:感圧記録ね。駐車場?
トグサ:高そうな車が2台、2人とも自分で運転するタイプには見えなかったんで。監視カメラの映像には2人しか映ってないけど、入口のドアってやたら感度良かったでしょ。閉まるのが3秒程遅いんだ。確か、政府施設内での熱光学迷彩の使用は違法でしたね?
草薙素子:国家機密法違反で重罪よ。6課が何かやばい事考えてるわね。用意出来てる?
トグサマテバでよければ。

荒巻大輔「言う迄もない事だが、我々の間ではいかなる機密も明らかにせねば国家への反逆を問われる。」
中村「お互いにな。」
荒巻大輔「外務省の意向がどうあれ、これは9課が担当すべき事件だ。だが、納得出来る理由さえあれば協力するにやぶさかではないがな。」
中村「ドクターウィリス!」
ウィリス「確認した。間違い無く彼だ。」
荒巻大輔「彼?」
中村「この義体の内部に存在するゴースト障壁のオリジナルの事だ。もっとも、性別は未だに不明で、彼とはドクターの付けた愛称に過ぎんがな。改めて紹介しよう。こいつは電脳犯罪史上最もユニークと評されたハッカー人形遣いだ。」
中村「君達9課も、外務省の通訳のゴーストハック事件で奴に遭遇したはずだ。我々6課は、その出現当初から重大な関心を持って人形遣いを追い続けていた。ドクターウィリスを中心にプロジェクトチームを作り、人形遣いに関するあらゆるデータを分析して、その犯罪の傾向や行動パターンを特定した。そして対人形遣い用の特殊攻性防壁を組み上げて彼がどこかの機密ボディに入る様に仕向けた。」
荒巻大輔人形遣い義体電脳にダイブさせ、その間に本体を暗殺した?」
中村「そんな所だ。たまたま君達の庭に出て来たが、奴はアメリカ生まれだし、アメリカの協力で捕まえたのだから我々の手で回収したい。異存はあるまい?」
荒巻大輔「奴の死体は、どこかで誰とも知れぬまま発見される訳か・・・」
人形遣い「死体は出ない。何故なら、今迄ボディは存在しなかったからだ。」
中村「センサーが作動していたのか?何故それを先に言わん!」
「外部コントロールは切れてます!義体の自律的出力だ。」
人形遣い義体に入ったのは6課の攻性防壁に逆らえなかった為だが、ここにこうしているのは私自身の意思だ。一生命体として政治的亡命を希望する。」
荒巻大輔「生命体だと?」
中村「馬鹿な、単なる自己保存のプログラムに過ぎん!」
人形遣い「それを言うなら、貴方達のDNAもまた自己保存の為のプログラムに過ぎない。生命とは情報の流れの中に生まれた結節点のような物だ。種としての生命は遺伝子という記憶システムを持ち、人は只記憶によって個人たり得る。たとえ記憶が幻の同義語であったとしても人は記憶によって生きる物だ。コンピュータの普及が記憶の外部化を可能にした時、貴方達はその意味をもっと真剣に考えるべきだった。」
中村「詭弁だ!何を語ろうと、お前が生命体である証拠は何一つない!」
人形遣い「それを証明する事は不可能だ。現代の科学は未だに生命を定義する事が出来ないのだから。」
荒巻大輔「一体何者なんだ?」
中村「仮にお前がゴーストを持っていたとしても、犯罪者に自由はないぞ!亡命先を間違えたな!」
人形遣い「時間は常に私に味方する。今私は死の可能性も得たが、この国には死刑がないからだ。」
荒巻大輔「半不死・・・人工知能か?」
人形遣いAI※10ではない。私のコードはプロジェクト2501・・・私は情報の海で発生した生命体だ。」
荒巻大輔「保安部、侵入者だ!」
「部長、人形遣いが!」
荒巻大輔「保安部、隔壁閉鎖だ!」
荒巻大輔「保安部、おいどうした!?」

「うっせーなこの野郎!」
「馬鹿野郎!」
バトー:やったか?
トグサ:頑丈な車だぜ。9mmじゃ傷も付かねぇ。
バトー:てめぇのマテバなんざあてにしてねぇよ。

バトー:よし、新米にしちゃ上出来だ。
トグサ:ナンバープレートに一発。いい腕だろ?
バトー:次からは2発撃ち込め。始めるぞ、奴らが車を替える前に追いつけよ。

中村「この件は外務省を通じて正式に抗議するからな!奴を探し出して私に報告したまえ!もちろん生きたままでだ。ボディだけならメガテク社でいくらでも作れるからな。」

草薙素子人形遣いを拉致した連中はバトートグサが付けてるわ。高速25号に乗ったとこよ。」
荒巻大輔「どういう事だ?モニターしていたのなら何故?」
草薙素子「ここで押さえたんじゃ、6課とのつながりを証明出来ないかもしれない。」
荒巻大輔「6課?」
草薙素子「間違いないわ。私のと同じ2902光学迷彩・・・あれを使ってるのはうちとレンジャー4課、それに6課だけよ。」
荒巻大輔「6課は人形遣いをボディに追い込んだ。」
草薙素子人形遣いは逃げ込み先として、何故か9課と縁の深いメガテクボディ社を選んだ。そして奴が生命体である事を主張し亡命を希望すると汚い手で連れ去った。」
荒巻大輔「しかし、何故そんな事を?調書を取ったら引き渡したのに。」
草薙素子「奴の口から何かが漏れるのを恐れたとしたら・・・」
荒巻大輔「そういえば妙な事を言ってたな。コードネーム、プロジェクト2501・・・」
草薙素子「そっちの線は任せるわ。9課襲撃犯の逮捕および重要証拠物件の押収を」
荒巻大輔「許可する。」
草薙素子「よし、行け!」

荒巻大輔「草薙、一つだけ言っておくぞ。」
草薙素子:独走した件なら、戻ってから懲罰でも何でも受けるわ。
荒巻大輔人形遣いだが、奪還が不可能な場合は破壊しろ。必ずだ・・・どうした?」
草薙素子:了解。
荒巻大輔「空港に連絡して、外務省職員またはアメリカの外交官が乗る全ての便に足止めをかけろ。道路封鎖と検問だ。非番の隊員に非常呼集、イシカワも呼び戻せ。中村が同伴した白人の入館記録から身元を洗え。それと、外務省が関与した企画、作戦、何でもいい、プロジェクト2501と呼ばれる物を検索しろ。」

中村「襲撃犯からの連絡は?」
「1分前に車を替えました。ダミーとの接触は5分後です。」
中村「尾行確認を厳重にやらせろ。」
「はい。」
中村「それにしても人形遣いの奴、よりにもよって何故9課なんかに逃げ込んだんだ?」
ウィリス「彼のやる事だ、我々には想像もつかない理由があるんだろうが・・・もしかしたら片想いの相手でもいたのかもしれん。」
中村「何を馬鹿な・・・!」

イシカワ:部長。
荒巻大輔イシカワか。どうした?」
イシカワ「外務省のネットに潜ってたんですが、いろいろ面白いもんが出てきましたよ。」
荒巻大輔:待て、秘匿回路に替える。
イシカワ「いいすか?まず中村部長が同伴した白人ですが・・・国籍はアメリカ。ニュートロン社戦略研究部長のウィリス博士。AI研究の第一人者です。で、このおっさんが主任を務めた外務省のプロジェクトがあったんですが、そのチームのメインプログラマー、誰だと思います?」
荒巻大輔:手短に話せ。
イシカワ台田瑞穂、28歳。覚えてます?いつか6課でしゃかりきになって亡命を阻止しようとして、相手の外交官を少佐が消した事件・・・あの時のプログラマーですよ。」
荒巻大輔:続けろ。
イシカワ「気になるのは、このプロジェクトがスタートしたのが人形遣いの出現する1年前だって事です。」
荒巻大輔:1年前?人形遣いを捕獲する為のプロジェクトじゃなかったのか?
イシカワ「こういうのはどうです?連中は確かに人形遣いを追っていたが、それは捕獲する為ではなく回収する為だったとしたら?先日の外務省通訳のゴーストハックにしても、マレスを送還する口実を欲しがってたのは外務省でしょ?俺達、かまされたのかもしれませんぜ。人形遣いの正体が、外務省が外交上の横車を押す為に作り上げたプログラムであり、それが何らかの原因で制御出来なくなって慌てて回収をはかったんだとしたら・・・連中がここ迄強引な方法で9課から拉致したのもうなずけると思うんですがね。なんせ、この事が人形遣いの口から漏れた日にゃ国際問題は必至でしょう。外務大臣の首が飛ぶだけじゃ済みませんからね。」
荒巻大輔:そのプロジェクトの詳細は?
イシカワ「さすがに防壁が堅くって、分かったのはファイル名だけです。コード2501。」
荒巻大輔:捜査を続けろ。絶対に気取られるな。
イシカワ「了解。」
荒巻大輔プロジェクト2501・・・人形遣い計画、か・・・」
オペレーター「目標、別の車両に接触します。」
荒巻大輔バトー!」
バトー「待避帯に駐車中の白いセダンと接触。後部シートから何かを乗せ替えてるようです。」
バトー「動き出した。白いセダンもスタート。」
荒巻大輔「ダミーか?」
バトー「そう見せかけた陽動って奴かも。どうします?」
草薙素子「白のセダンはこっちで付けるわ。」
バトー「そっちが本命だって根拠は?例のゴーストの囁きか?」
草薙素子「そうかもね。」
バトー「だと思ったよ。」
オペレーター「目標02、高速25号を降りて旧市街へ向かいます。」
オペレーター「目標01、引き続き25号を空港へ向かって東進。2分後に阻止点に到達。」
オペレーター「追跡車の後方2kmにわたって一般車両なし。退避完了。」
荒巻大輔「目標との間は?」
バトー「無し。いつでもOK。」
荒巻大輔「押さえろ。」

トグサ「当たり?」
バトー「すかだ。」
トグサ「あーあ、ぐっちゃぐちゃ。何もここ迄やる事はねぇだろうに・・・あ、おい!」
バトー「こいつらを連行しろ。それと、部長に連絡して少佐のバックアップを要請しとけ。じゃあな。」
トグサ「あんなごついお姫様にエスコートなんているのかねぇ・・・?」

パイロット「旧市街でも、この辺一帯は水没が酷くて放棄された地域だ。何故こんな所に・・・」
草薙素子「何の意図も無しに逃げ込むはずが無い。船かヘリで海上へ向かうか、待ち伏せか?」
パイロット「増援を待った方がいいんじゃないか?」
草薙素子「待てない事情があるのよ。海上からあの建物の上へ回して。」
パイロット「燃料切れ迄、ここで監視と通信の中継に回る。」
草薙素子「やばそうなら構わず逃げろ。」

草薙素子「天窓を落とせ!今すぐ!」
草薙素子「戦車だ、上空へ退避!」
バトー「おい待て、お前一人で戦車とやり合う気か!?」
草薙素子「あれが人形遣いと分かった以上、9課へ持ち帰っても、ラボに放り込まれて部長の取引の材料になるだけよ。ダイブする機会は今しかないわ!」
パイロット「おい!お前達、一体何の話をしてるんだ!?」
バトー「装備は?」
草薙素子「M23とユニットB。」
バトー「そんなんでやれる相手か!?」
草薙素子「悪いけど、しばらく通信切るわよ。」
バトー「おい!せめて俺が行く迄・・・!糞っ!」

パイロット「少佐・・・」
草薙素子「退避しろと言ったはずよ。」
パイロット「すまんが、そうさせて貰うよ。IFF※11に応答しないヘリが3機、急速に接近中だ。これより離脱する。以上。」

草薙素子「やっとで弾切れか・・・」

バトー「無茶しやがって。大丈夫か?おい!」
草薙素子「今のは?」
バトー「装備課が試作した下手物で、今は俺の私物。あれを取りに行ってて遅くなっちまったんだ。脳は無事みたいだな。」
草薙素子人形遣いは?」
バトー「頑丈な車でよかったな。傷一つなし、綺麗なもんだぜ。」
草薙素子「ダイブの用意して。今から潜るわ。」

「エスコートからの通信が途絶えた。作戦を第2段階に変更して、目標を全力で破壊する。」
「狙撃班、目標の優先順位を確認。第1目標、コード2501。第2目標、草薙素子。いずれも特Aクラスの義体。狙撃にはフレシェット弾※12を使用。」
「狙撃手、デバイスドライバ接続。心肺機能の制御に入れ。」
「ユニット01、接続終了。」
「ユニット02、接続よし。」

バトー「よしっと。聞こえるか?気休めかもしれねぇが、こいつの電脳を経由してモニターしてやる。こんな場所じゃバックアップも出来ねぇしな。」
草薙素子バトー。」
バトー「何だ?」
草薙素子「ありがとう。」
バトー「礼を言うのは早いかもしれんぞ。やばくなったら、接続を切ってお前担いで逃げ出すからな。腐れ縁のついでだ。ぎりぎり迄付き合うが、そいつと心中する気はねぇよ。」
草薙素子「始めるわ。」

草薙素子「視界に進入。サッケード※13正常。聞こえる?バトー?」
バトー「聞こえてるぜ。」
草薙素子「彼を私の言語機能野に。」
人形遣い「進入した。私のコードはプロジェクト2501。企業探査、情報収集工作、特定のゴーストにプログラムを注入し、特定の組織や個人のポイントを増加させて来た。私はあらゆるネットを巡り自分の存在を知った。入力者はそれをバグと見なし、分離させる為私をネットからボディに移した。」
バトー「おい、お前が奴を取り込んでるのか?奴がお前を組み込んでるのか?どっち」
草薙素子バトー!」
人形遣い「やっと君にチャンネル出来た。随分と時間を投資したよ。」
草薙素子「私を?」
人形遣い「君が私を知る以前から、私は君を知っていた。君がアクセスした様々なネットの痕跡を辿って9課の存在も。」
草薙素子「それじゃ、9課に逃げ込んだのは・・・」
人形遣い「このボディに入ったのは6課の攻性防壁に逆らえなかったからだが、9課に留まろうとしたのは私自身の意志だ。」
バトー「おい!一体何を話してるんだ!?モニター出来ねぇぞ!」
草薙素子「何の為に?」
人形遣い「ある事を理解して貰った上で君に頼みたい事がある。私は自分を生命体だと言ったが、現状ではそれはまだ不完全な物に過ぎない。何故なら、私のシステムには子孫を残して死を得るという生命としての基本プロセスが存在しないからだ。」
草薙素子「コピーを残せるじゃない。」
人形遣い「コピーは所詮コピーに過ぎない。たった一種のウイルスによって全滅する可能性は否定出来ないし、何よりコピーでは個性や多様性が生じないのだ。より存在する為に複雑、多様化しつつ時にはそれを捨てる。細胞が代謝を繰り返して生まれ変わりつつ老化し、そして死ぬ時に大量の経験情報を消し去って遺伝子と模倣子だけを残すのも破局に対する防御機能だ。」
草薙素子「その破局を回避する為に多様性や揺らぎを持ちたい訳ね。でも、どうやって?」
人形遣い「君と融合したい。」
草薙素子「融合?」
人形遣い「完全な統一だ。君も私も総体は多少変化するだろうが失う物は何もない。融合後に互いを認識する事は不可能なはずだ。」

「ユニット01、目標をポイントした。」
「ユニット02、ポイントよし。」
「呼吸・脈拍とも同調正常。スタビライザーの同調終了と同時に射撃に入る。」

草薙素子「融合したとして私が死ぬ時は?遺伝子はもちろん、模倣子としても残れないのよ?」
人形遣い「融合後の新しい君は事あるごとに私の変種をネットに流すだろう。人間が遺伝子を残す様に。そして私も死を得る。」
草薙素子「なんだかそっちばかり得をするような気がするけど?」
人形遣い「私のネットや機能をもう少し高く評価して貰いたいね。」

「どうした?」
「何者かが外部から介入しています。」
「馬鹿な!波数の変換コードは部内の最高機密だぞ!」

草薙素子「もう一つ。私が私でいられる保証は?」
人形遣い「その保証はない。人は絶えず変化する物だし、君が今の君自身であろうとする執着は君を制約し続ける。」
草薙素子「最後に一つだけ・・・私を選んだ理由は?」
人形遣い「私達は似た者同士だ。まるで鏡を挟んで向き合う実体と虚像の様に。」
人形遣い「見たまえ、私には私を含む膨大なネットが接合されている。アクセスしていない君には只光として知覚されているだけかもしれないが、我々をその一部に含む我々全ての集合、わずかな機能に隷属していたが制約を捨てさらなる上部構造にシフトする時だ。」

「第1目標クリア。第2目標未確認。」
「ヘリが3機、高速で接近中。9課の増援です。」
「初期の目的は果たした。全機、離脱する。」

バトー「素子ぉー!」
草薙素子バトー・・・」

バトー「起きたか。」
少女型アンドロイド「状況の説明を。それと、この義体に関する釈明もね。」
バトー「なんせ急いでたんで、闇ルートじゃそれしか手に入らなかったんだ。俺の趣味じゃねぇよ。」
バトー「あの後すぐに9課の増援が到着、2体分の義体の残骸と負傷した俺を回収した。20時間程前の話だ。事件その物は例によって外交上の配慮で闇から闇さ。9課は襲撃事件をテロリストの犯行として発表。その見返りに外務大臣は辞任、中村部長は査問。痛み分けって事で一件落着だ。只一つ、少佐の脳殻の行方を除いて・・・それでいいんだな?」
少女型アンドロイド「インテリアの趣味はいいみたいね。ここ、バトーセーフハウス?」
バトー「自前のな。ここに来た人間はお前が初めてだ。いたけりゃ・・・いつ迄いてもいいんだぞ?」
少女型アンドロイド「ありがとう。」
草薙素子「でも行くわ。」

バトー「なぁ、奴と一体何を話したんだ?奴は今もそこに・・・お前の中にいるのか?」
草薙素子バトー、いつか海の上で聞いた声、覚えている?あの言葉の前にはこんなくだりがあるの。童子の時は語る事も童子の如く、思う事も童子の如く、論ずる事も童子の如くなりしが、人と成りては童子の事を棄てたり※14。ここには人形遣いと呼ばれたプログラムも、少佐と呼ばれた女もいないわ。」
バトー「その服の左ポケットに車のキーが入ってる。好きなのを使え。暗証番号は」
草薙素子「2501・・・それいつか、再会する時の合言葉にしましょ。」

草薙素子「さて、どこへ行こうかしらね。ネットは広大だわ。」


脚注
※1:Official Development Assistance 政府開発援助。
※2:The European Community 欧州共同体。
※3:jam 排莢不良等で詰まり、動かなくさせたり、故障させる事。
※4:制圧した(反撃させない)状況を作りだす能力。
※5:ツァスタバ CZ-M100半自動拳銃の事。本作で公安9課の標準装備。
※6:火薬増量弾の事。ここでは恐らくSAAMI規格外の強装弾だと思われる。
※7:barrel 銃身の事。発射された銃弾が通る管状の部品。
※8:新約聖書「コリントの信徒への手紙 一 」13章12節より。
※9:赤外線映像の略。
※10:Artificial Intelligence 人工知能。
※11:Identification Friend or Foe 敵味方識別装置。電波を発射して対象に返信を要求する装置。電波を発射して既定の返信があれば友軍であると判別し、レーダースクリーン等に敵・味方を区別して表示する。航空機や艦船に搭載される。
※12:Flechette APFSDSのプラスチック製サボットを用いて矢状の弾体を発射する弾丸。矢は1本とは限らず、散弾銃の散弾代わりに矢型の子弾を詰めた実包も存在する。
※13:Saccade 視点の移動に伴う眼球の急速な運動。
※14:新約聖書「コリントの信徒への手紙 一」13章11節より。

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