the Cat Met with Special Boxes.

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society

こうかくきどうたいすたんどあろーんこんぷれっくすそりっどすていとそさいえてぃGhost in the Shell: S.A.C. Solid State Society

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Societyとは

粗筋

西暦2034年。
難民蜂起事件から2年が経過していた。
新人20名を増強した新生公安9課に新たな事件が舞い込んできた。
梵の刺青を入れた13人のテロリストの連続自殺事件に絡む空港人質立て篭もり事件の鎮圧だ。
結果、公安9課に追い詰められた立て篭もり犯は「傀儡廻が来る」と言い残し自ら命を絶ってしまった。
時を同じくして数々の難事件が同時に多発していく・・・
その影に潜む超ウィザード級ハッカー傀儡廻」の存在。

新生9課の前に次から次へと立ちはだかる難事件すべてが芸術的にリンクしていく。
「傀儡廻」とは?
バトーと草薙は?
「傀儡廻」と草薙の関係は?
すべての事件の犯人は?
そして結末は?
謎が謎を呼ぶSolid State Society。

「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」の歴史にまた一つ傑作が生まれようとしている。
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登場人物

用語

セリフ

警察オペレーター:テロ対策マニュアルに従い、乗客乗員の退避完了。全ての離発着便はそれぞれエフロン上空に待機。燃料切れが予想される機体のみ別の空港に振り分けてください。
隊長:305から102。公安9課が到着した。誘導を頼む。最優先事項だ。本件に関しては、全面的に指揮権を委譲する事になっている。
隊員:こっちは犠牲者が出ている。規約とは言え、納得の行く答えを貰わないと。
隊長:無駄口はやめろ。無線に枝が付いていないとも限らん。それにこの山は、内の手に負える様な代物ではない。
草薙素子「見つけたぞ。」

トグサ「最初の報告では、大人しく事情聴取に応じていたと言う話だったな?」
刑事「身柄を公安に移すと言う説明をした時点では、寧ろ喜んでいた位で・・・」
パズ「喜んで?」
刑事「ええ・・・」
トグサ「分からんな。」
アズマ「で?結局大先輩は合流しねえのかよ。」
ボーマ「今回も個人的推論に則った捜査方針って奴を貫くそうだ。」
トグサ「この事件、バトーが首を突っ込んでいた御陰で線が繋がったのも事実なんだがな。パズボーマは二人を連れて北側のゲートから。」
パズ「分かった。」
トグサ「俺達は正面からだ。」
アズマ「了解!」

アズマ「しかし、先輩も変わったねえ。マテバへのこだわりを捨てるとは。」
トグサ「別に捨てちゃいないさ。」

アズマカ・ゲルって、一応生身って話しだったよな?
トグサ:ああ。
アズマ:じゃああれは?
トグサ:不測の事態って奴だろう。
アズマ:銃を手に入れた可能性もあるって事か。
トグサ:あっても精々9ミリだ。
アズマ:やれやれ・・・

トグサカ・ゲル大佐!公安だ!」
トグサ「そっちの要求通り、国外退去も視野に入れた対応をする。まずは人質を解放しろ。話はそれからだ。」

トグサカ・ゲル大佐!」
トグサ「聞いてるか?」
トグサカ・ゲル!」
トグサ「銃を捨てるんだ!」
カ・ゲル「はぁはぁ・・・」
トグサ「みんな手を出すな!そいつをこっちへ。」
パズトグサ。どうやらそいつは、軍用の瞬発系麻薬※1を吸っている様だ。
トグサ:分かった。
トグサカ・ゲル大佐!」
カ・ゲル傀儡廻が来る!死にたくない!」
アズマ「死にたくなきゃさっさとそいつを」
カ・ゲル「なんだと・・・?くっ、晒し者にはならんぞぉ!」
トグサ「やめろ!」

人質の女性「きゃあー!」
トグサ「くそ!なんなんだ!?」

草薙素子傀儡廻か・・・ふっ、悪くない名だな。」

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society

荒巻大輔:茅葺総理、カ・ルマ将軍への忠誠を示す、梵の刺青を入れた特殊工作員が、国内で次々と自殺を図り、先程は長男であるカ・ゲル大佐迄もが自殺を遂げている。これでもまだ、将軍への聴取を行う必要はないと?
茅葺:カ・ゲル大佐の死は、逮捕時のミスとの報告もあります。仮に、シアク共和国の残党による無差別テロが計画されているとして、幽閉状態にあるカ・ルマ将軍が、その計画に加担しているとは考えにくい。
荒巻大輔「むう・・・」
茅葺:難民帰化政策を執行させた事に伴う反対派の動きを増長させる様な行動は、極力避けてください。その為の、公安9課だと、私は理解しています。
荒巻大輔:分かりました。
荒巻大輔イシカワカ・ゲルの供述調書を回せ。」
イシカワ「了解。」
荒巻大輔「出発しろ!」
プロト「よろしいのですか?許可は下りなかった様ですが。」
荒巻大輔「パンドラの箱を開けた事を誰も知らなければ、約束を破った事にはならんよ。」

鑑識A「70から2。状況より何か新たな物証データは見つかったか?」
鑑識B「いえ、まだ発見出来ません。」
鑑識A「主任を呼ん出来てくれ。旧式の指紋と合成されていて」
荒巻大輔バトー、聞いているかバトー
バトー:聞いてますよ。
荒巻大輔:今何処におる?
バトー:13人目の刺青男の所です。
荒巻大輔:それも自殺か?
バトー:ええ。ここは俺達のセーフハウスによく似ている。恐らくアジトの一つだったんでしょう。
荒巻大輔:そこは県警に任せ、お前は誰か部下を連れてここへ行け。カ・ゲルが自供した隠れ家だ。」
バトー:ほお、ですがそういったメインストリームは、トグサの方が適任なんじゃないっすかねえ?
荒巻大輔トグサは儂と本丸に向かう。
バトー:成る程。
県警刑事「ちっ・・・」
荒巻大輔「ふぅ・・・トグサ少佐が9課を去ってから、どれ位になる?」
トグサ「そろそろ2年、ですかね。」
荒巻大輔「そうか・・・」
トグサカ・ゲルの件、申し訳ありませんでした。」
荒巻大輔「仕方あるまい。これは、茅葺総理にとっても、アキレス腱に成り兼ねない、重要案件だ。今は見たくない物には蓋をしておきたいと言うのが本音だろう。」
アズマ「にしたって、元々は難民帰化政策の本意を、六ヵ国協議で追及されるのを恐れた茅葺が、結局はカ・ルマのお守りを押し付けられたってのが、事の始まりでしょうが。」
ボーマカ・ルマ将軍は、亡命先が日本に決まる以前から、報復テロを起こすと言っていた訳だからな。」
パズ「自分の死と同時に世界に恐怖を撒き散らす。シアク崩壊時の演説にあった、報復宣言か。」
トグサ「それを分かった上でなんとかするのが、俺達の仕事って事なんだろう。外部との通信を遮断されてる孤島から、どうやって指示を出したかは不明だが、カ・ルマ本人を抑えれば、事件の全容がはっきりする筈だ。現在、何処迄テロが進行しているのかって事もな。」
イシカワ「課長、海上保安庁から飛行空域を空けたとの連絡が入ってます。」
荒巻大輔「よし。礼を言って至急着陸しろ。フライト記録は改竄しておけよ。」
イシカワ「了解!」

隊員「重火器、ナイフ等の反応なし。クリア。」

トグサプロト、電源を戻してブラインドを上げてくれ。
プロト:了解。
トグサパズボーマ「!」

荒巻大輔「どうした?」
トグサ「課長。」
荒巻大輔「むっ・・・自分で引き抜いた様だな。」
イシカワ「不味いな・・・こいつも自殺してるって事は、計画は既に動き出しているかもしれん。」
トグサ「それは?」
イシカワ「ああ。介護ネットの端末だ。一応メディカルデータを各医療機関とやり取りする為の代物だが、カ・ルマは亡命以前から大病を患っているって噂は、本当だったよ。」
トグサ「なのに、政府はカ・ルマの死に気付いていなかった・・・」
イシカワ「ん?あった!こいつ、システムにバックドア※2を通してやがる。只の将軍様じゃなかったって事か。」
ボーマ「の様だな。仲間と連絡を取り合っていたログも残ってる。」
イシカワ「本部に持ち帰って詳しく調べる必要があるが、マイクロマシンウイルスを使ったテロを計画していたのは確実の様だな。」
荒巻大輔「していたと言うのは?」
イシカワ「工作員達が次々と自殺を始めた段階で、カ・ゲルと、計画を一旦中止するかどうかのやり取りをしているんです。」
トグサ「どういう事だ?奴等の自殺は計画スタートの合図ではないって事か。」
イシカワ「分からん。だが気になるのは、カ・ルマが生きている様に見せかける為のプログラムが、外部から施されてるって事だ。多分政府は、今もこいつが死んでいるという事実に気付いていませんね。」
荒巻大輔「自殺に見せかけた暗殺と言う事か。」
イシカワ「ええ。政府にカ・ルマの死を知らせたくない誰かの犯行、もしくは・・・」
荒巻大輔「で、マイクロマシンウイルスは?」
ボーマ「例のマシャバって野郎の所に持ち込まれた様です。」
イシカワバトーがサボってなければ、回収出来てるかもしれませんね。ん・・・?トグサトグサ「ん?」
イシカワ「なんだこりゃ・・・」
トグサ傀儡廻・・・」
トグサアズマ、たしかカ・ゲルも死ぬ間際に、傀儡廻がどうとか言ってなかったか?
アズマ:だったかな?
ボーマ「ログにも傀儡廻ってワードが残ってる。仲間の誰かをそう呼んでいる様だな。」
トグサ「マシャバを急いで押さえる必要がありますね。」
荒巻大輔「うむ。ログも全て記録したら、バトーと合流する。なんとしても計画の全容を把握するぞ。」
イシカワ「こいつはどうします?」
荒巻大輔「現状を維持しておけ。気の毒だが我々はここへは来なかった訳だからな。」
イシカワ「了解。」

バトー「病院か?」

バトー「この辺りには似合わねえ車だなあ。」

クロマ「!」

バトー「むっ・・・?このセキュリティの張り方は・・・」
バトー「おい外から回れ。」
ウチコマ「了解。」

クロマ「なんだ?」

マシャバ「ここなら電脳ハック出来まい。死ね。傀儡廻。」

バトー「あそこか・・・!」

バトー「!?」

クロマバトー。」
クロマ「ふっ・・・」
バトー「あれは・・・!」

バトー「避けろ!」

バトー「馬鹿野郎!」

バトー「後で迎えに来るから死んだ振りしてろ!」
ウチコマ「了解。」

バトー「止まれえ!」

バトー少佐か?」
クロマ「久しぶりね、バトー。どうしたの?こんな所で。」
バトー「やっぱりな・・・お前こそ何やってるんだ?」
クロマ「個人的推論に則った捜査活動・・・ってとこかしら。」
バトー「む・・・」
クロマ「来るぞ!」

クロマ「待て。」

バトー「なんだ?」
クロマ「これ、持ってて。」
バトー「おい!」

バトー「こいつ、マシャバじゃねえか。」
クロマ「よく知ってるわね。」
バトー「知ってるって・・・お前、何をやったんだ?」
クロマ「さぁ、それ返して。」
バトー「おい・・・」

バトー「むっ・・・?」

クロマ「車の趣味、変えたの?」
バトー「はっ・・・!いつの間に・・・?」
クロマ「でも悪くないわ。」
クロマバトー、貴方がここに居るって事は、刺青男の連続自殺を追ってるって事だと思うけど。一つだけ忠告しておいてあげる。ソリッド・ステートには近づくな、奴等の様に自殺する事になるぞ。」
バトー「むっ・・・?そ」
クロマ「車は自分で見つけて。」
バトー「おい・・・」

荒巻大輔「誰か部下を連れてと言っただろう!」
バトー「だからこいつを連れて来たんですがねえ。」
パズ「一足遅れでした。マシャバも死んでます。」
荒巻大輔「死因は?」
ボーマ「暴走の衝撃による頸部損傷。マシャバは傀儡廻ではなかったようです。バトー、奴は何であんなもんで襲って来たんだ?」
バトー「さぁな。そりゃこっちが聞きてえぜ。」
パズ傀儡廻と、勘違いして襲い掛かったのかもな。」
バトー「おい、その傀儡廻ってのはなんなんだ?」
荒巻大輔「まだ憶測の域を出てはいないが、造反者のハンドルネームの様だ。刺青男やカ・ルマの死も、そいつによる犯行の可能性が出てきた。他人の電脳をハックし、自殺に追い込む。その腕前から見て、超ウィザード級ハッカーの様だ。」
バトー「ウィザード級・・・」
イシカワ:課長。カ・ルマが目論んでいたテロの方法が分かりました。」
荒巻大輔:何が出た?
イシカワ:こっちに来て見て下さい。
イシカワカ・ルマは、マイクロマシンを子供達に埋め込んで、ウイルスをばら撒こうとしていたようです。
トグサ「ふざけやがって!何が報復テロだ!こんな事は、人間の考える事じゃありませんよ!」

草薙素子「9課もいずれこの仕掛けには気付くだろうな。ロキコナン、後は任せるぞ。」
草薙素子「同時に義体を操るのは、二体迄が限界ね。」

鑑識「もう一度、根本から育て直すしか方法は無さそうだな。」
バトー「そうかぁ・・・天然オイルも試してみたのになあ。」
鑑識「ああ。だが結局は、観察者が変わった事で同環境にはならなかったって事なのかもしれん。」
バトー「ふぅ・・・」
サイトー「相変わらず、奴等の成長に気を揉んでるのか?」

サイトー「アフリカは想像以上に過酷だなあ。義体を増設して行ったが、堪えたよ。」
バトー「心肺機能を義体で補完しだしたら、歩止まりが効かなくなるぞ。」
サイトー「仕方ないさ。ここに居る限りはな。」
バトートグサといい・・・頭が下がるぜ。」

ヒガキ「アジトで見つかったリストから、構成員の数は、自殺した13人とカ・ゲル、マシャバ、そしてラジ・プートなる人物の計16名と判明。」
トグサ「そのラジ・プートってのは?そいつが傀儡廻の可能性は無いのか?」
ヒガキ「どうやら、入国自体果たしていない様です。その辺は通信ログから確認しました。」
イシカワ「自分と一緒に死ねと言われて、最後迄付き合える人間は少ない。独裁者の最後なんてのは、案外そんなもんだ。」
アズマ「にしても、16人とはね。」
イシカワ「遅えぞバトー。お、いつ戻った?」
サイトー「さっきさ。すまん、進めてくれ。」
アズマ「ん・・・?んん・・・」
トグサ「続けよう。次。」
ソガ「紛失したマイクロマシンウイルスですが。1グロス※3、計144本のアンプルが国内に持ち込まれていました。中身は天然痘ウイルスを遺伝子操作した、時限発症機能付き、BC兵器です。」
トグサ「厄介な代物が消えたもんだな・・・バトートグサ「一つ確認したいんだ。あの時、マシャバの病院では誰にも会わなかったんだよな?」
バトー「ああ。」
トグサロボットが暴走した時も、誰かが介在していた様子は無かった。」
バトー「ああ・・・」
トグサ「そうか。」
バトー「何が聞きてえんだ。」
トグサ「い、いや・・・」
イシカワ「実はな、あそこで大破していた車の持ち主が特定出来なかった。」
バトー「盗難車の可能性は?」
イシカワ「セキュリティの張り方から見て、そいつは考えにくい。」
トグサ「それに、監視カメラの記録も一部消去されていた。やはりあそこには誰かが居たと考えるべきだろうな。」
バトー「その誰かが傀儡廻って事か。」
トグサ「かもな。カ・ルマの計画は、現段階では動き出していなかった訳だが、傀儡廻なるハッカーが、テロを継続している可能性は十分考えられる。ここからは、マイクロマシンアンプルの行方を追うと同時に、傀儡廻の捜索に的を絞って行く。」
一同「了解。」
サイトートグサ。俺はどうする?」
トグサ「まずは休養を取ってくれ。ヒューマンエラー※4因子の除去が先決だ。」
サイトー「分かった。そうさせて貰う。」
トグサ「それからバトー。」
トグサ「今朝課長から、そろそろ進路を決定しろと言われたよ。訓練教官の職に専念するか、俺の指示で傀儡廻の捜査に加わるか。選択は任せるが、どっちを選ぶ?」
バトー「決まってんだろう。傀儡廻だ。」
トグサ「そうか・・・」

イシカワ「何か分かったか?」
ボーマ「ああ、色々とな。」
トグサ「早速聞かせてくれ。」
ボーマ「まず、16人のメディカルチェックの結果だが、マイクロマシンを埋め込まれた痕跡はなかった。脱水症状や虐待を受けた傷は残っているが、基本的に健康だ。」
トグサ「ふぅ・・・」
ボーマ「だが16人全員、記憶の一部が消されていて、IDが別の物に書き換えられているらしい事も分かった。」
プロト「名前や住所は正確に答えられたのですが、両親の事に話が及ぶと、記憶が全く無いんです。」
ボーマ「そこで、その住所に行ってみた所、そこには一人暮らしの老人が居るだけだった。」
トグサ「その老人が親って事は?」
ボーマ「ないな。四畳半一間で暮らす老婆から、自費で介護ロボットにサポートをさせている裕福な老人迄、そのパターンは様々だが、皆例外なく介護システムに繋がった貴腐老人ばかりなんだ。当然子供と生活していた様な痕跡は皆無。住民基本台帳には、一応子として登録されているが、恐らくそれも改竄された物だろう。」
バトー「その貴腐老人ってのはなんだ?」
ボーマ「全自動老人介護システムに繋がり、最低限の措置が施された状態の老人が、まるで貴腐※5ブドウの様に干乾びていく事からそう呼ばれているらしい。」
イシカワ「そもそもこのシステムは、高齢者問題の解決と共に、老人の孤独死を防ごうって事で開発された筈だったが、ネットに繋がる事で却って寝たきりを助長する事が分かり、NPOからは体のいい遺産回収システムなんて揶揄されてる。」
バトー「詳しいな。」
イシカワ「内の店に来てる婆さん共がよく話してた。」
ボーマカ・ルマの所にあった物の、廉価版ってこったな。」
トグサ「ちょっと待ってくれ。カ・ゲルは人間爆弾を作ろうとしていたんだろう?なら、何故態々親の記憶を消したりしたんだ?ウイルスを仕掛けた後で、何処かに潜伏させておこうとしたんなら、誘拐の記憶を消し、親元に帰した方が、都合がいいだろう!」
ボーマ「俺に言うなって。」
イシカワ「確かにそうだな、その為に電脳化迄したとしたら、随分大掛かりだぜ。」
プロト「手術自体は、誘拐前に行った物のようです。トランスも正規品ですし。」
イシカワ「なら厚生省に記録が残ってる筈だ。6歳って年齢から考えても、保護者の承諾書へのサインは、義務付けられているからな。」
トグサ「消えたアンプルは144本・・・念の為、同じ条件で登録されている子供が居ないか、調べてみた方が良さそうだな。」
ボーマ「ああ。」

イシカワ「抽出された16人が、正規の手続きで電脳化手術を行っていた場合、自動的にその記録は、厚生省と総務省のデータベースに登録される。その後、16人を誘拐し、老人達の子供として戸籍を上書きしたのだとしたら、住基ネット上で電脳化登録を済ませた子供の数と、厚生省の数値との間に、誤差が生じる筈だ。」
ボーマ「成る程。16人は老人と同姓を名乗った訳だから、理屈上はそうなるな。」

トグサ「ん!?2万!?」
バトー「何かの間違いだろう。それだけの子供が誘拐されていたら、誰かが気付いてる筈だ。」
ボーマ「だよな・・・」
イシカワ「にしても、予想の範囲を超えた数字だな。どうする?」
トグサ「一応、最悪の可能性から潰していこう。まずはデータ上で増えている子供の名前と住所を割り出してくれ。」
ボーマ「任せろ!そいつはすぐに出来る。」
イシカワ「トラップか!?」
9課オペレーター「緊急事態が発生しました。レベルEクラスのウイルスを確認。全ての機器を、至急シャットダウンしてください。緊急事態です」
9課オペレーター「サーバーへの支援要請。」
ボーマ「駄目だ!コマンドを受け付けない!」
イシカワヒガキソガ!バックアップ回路を凍結しろ!」
ヒガキ「駄目です!既に進入されています!」
イシカワ「だったら電源を切るんだよ!手を貸せ。」
ボーマ「総務省のデータベースにウイルスが仕込んであったのか。向こうのデータもやられてるぞ。」
トグサ「厚生省のデータは無事なのか?」
ボーマ「ああ、何故かな。」

バトー「どけ!」

アズマ「今頃は、総務省も蜂の巣を突付いた様な騒ぎになっているだろうな・・・」
イシカワ「くそぅ、貴重な手掛かりを消しちまった。」
バトー「そもそもそれは、2万と言う数の誘拐が実際にあったらって事だろう。」
ボーマイシカワ「?」
トグサ「どういう意味だ?」
バトー「常識的に考えて2万ってのは、カ・ゲル達にやれる数じゃねえ。仮に、傀儡廻なるハッカーによる物だったとしても、やり口がお粗末すぎる。確実に誘拐を隠蔽したけりゃ、住基ネットにのみ改竄した跡を残すってのも妙だろう。これじゃまるで、誘拐したから見つけてくださいと言わんばかりだ。俺にはこいつは、何か別の意図が絡んでる様に思えるがな。」
荒巻大輔「儂もその意見に賛成だな。」
トグサ「課長。」
荒巻大輔「これが、厚生省の病原微生物管理区画に届けられていた。解析結果はシアク製マイクロマシンウイルス。情報は正しかったと言う事になるな。」
バトー「持ち込んだ人物の特定は?」
荒巻大輔「いつ頃誰が持ち込んだ物なのかを、示す記録は一切残されていなかった。」
トグサ「そいつが傀儡廻って可能性は?」
荒巻大輔「考えられる。」
イシカワ「となると、傀儡廻の目的はなんだ?テロの継続ではなかったって事か。」
荒巻大輔「うむ。どうやら傀儡廻とは政府のある機関が差し向けたハッカーだった可能性がある。」
一同「!?」
荒巻大輔カ・ルマの死が、巧妙に隠蔽されていた事が気になってな。その辺りを探ってみた所、先ごろ総理と外務省との間でかなりきな臭い話が取り沙汰されていた事も分かった。」
バトー「つまり、政府にとって厄介もんだったカ・ルマを、外務省がハッカーを使って暗殺したと?」
荒巻大輔「有り体に言えばな。」
バトー「となると、誘拐の線はブラフ※6と考えて良さそうだな。その仕事を請け負ったセクションは何処だ?」
荒巻大輔「この件、国際的にも重大な犯罪ではあるが、現状起こった結果だけを考えれば、我々と政府との間に齟齬はない。今は、痛まぬ腹を探って事を大きくするのは避けるべきだろうと儂は考えている。」
一同「!」
荒巻大輔「今後は、16人の身元確認迄を早急に行い、傀儡廻の捜索からは一旦手を引く。」
トグサ「んっ・・・!?くっ・・・!」
荒巻大輔「以上だ。」
イシカワ「やれやれ・・・徒労の果てに膨大な後始末だけが残ったって事か。せめて、あの子達の両親位は、早く見つけてやらないとなあ。」

荒巻大輔「これから向かう、すまんな。」

荒巻大輔「んん・・・」
荒巻大輔「ふー・・・ん?」
バトー「聞きてえ事がある。」
荒巻大輔「なんだ?」
バトー「親父にこの件から手を引かせたのは、条約審議部か?」
荒巻大輔「その事か。中村との取引でな。奴等の仕事に目をつぶる代わりに、マイクロマシンウイルスを内で引き取った。」
バトー「それでいいのか?カ・ルマのパージ※7が国家にとって重要だって言うなら、内にその話が来なかった事を悔やむべきだろう。この2年、親父は何の為に9課をでかくして来たんだ?これじゃああいつも戻っては来ねえよ。」
荒巻大輔「命令が無かった事を残念と考えるか有り難いと取るかで、今後我々が進むべき道も変わって来る。」
荒巻大輔「お前の言いたい事は良く分かる。だが少佐が二度と戻らないと言う可能性も考えておかなければなるまい。奴の才能はエスパーよりも貴重な物だったし、あれの代わりを担える者等、存在せん。」
荒巻大輔「儂とて永遠にここに居続ける事は出来ない。なら、一つの事件を十の力で解決するよりも、三つの事件を八割で解決出来る組織を作る事の方が、我々の望む理念を、これから先も継続して行けるとは考えられんか?儂はそう考えて組織の拡大を進めてきた。トグサの隊長就任もその一環だ。ま、お前が引き受けてくれていたら、話しは違っていたかもしれんがね。」
バトー「俺にはそのポジションは向いてねえよ。」
荒巻大輔「その事に自覚的である以上はそうかもしれんな。だがトグサは違う。それでもその資質を開花させるには、ハードルをいくつも越えなければならん。奴の後押しをしてやってくれ。」
バトー「そいつはどうかな。俺は寧ろ、あいつは良くやってると思うぜ。少佐風に言えば、上手い事公私混同を遣って退けてる。9課の仕事や義体化の事も、家族に打ち明けた様だしな。だが理解を得るのは容易じゃなかった筈だ。」
荒巻大輔「儂には最後迄出来なかった事だ。」
バトー「久しぶりに話せて良かったよ。」

トグサ「今夜も帰れそうにないよ。」
トグサの妻「仕方無いわよ、責任ある役職になったんだし。」
トグサ「うん。子供達はいい子にしてた?」
トグサの妻「ええ。でも先週から、お姉ちゃん一人で寝るんだって言って自分の部屋に行ったから、喧嘩が無くなって少し寂しいけど。」
トグサ「そっか。頼もしくなったな。」
トグサの妻「そうよ。もう6歳だもの。」
トグサ「6歳か・・・」

トグサ「寝顔の写真送ってくれ。」
トグサの妻「うん。分かったわ。」

イシカワトグサ!緊急事態だ!すぐに47のフラット※8に来い!

トグサ「何があった!?」
プロト「先輩・・・すみません、子供達が・・・」
トグサ「!」
イシカワ「気付いた時には消えていた。」
トグサカ・ゲルと同じか?」
ボーマ「どうやらな。」
トグサ傀儡廻・・・!」
バトープロトを殺る気ならとっくに引き金を引かせてる!こいつは時間稼ぎだ。」
トグサイシカワボーマ!至急IRシステムで子供達を探してくれ!」
イシカワ「今の状況では限界があるぞ!?」
トグサ「県警にも応援を頼もう。プロトを解析しとけ。」
バトートグサ!話がある!」
トグサ「後にしてくれ!今は子供の捜索が先だ!」
バトー「大事な話だ!傀儡廻の正体に心当たりがある。」
トグサ「!」

荒巻大輔「荒巻です。失礼致します。」
久保田「遅かったな。」
荒巻大輔「すまん。立て込んでいてな。殿田大佐、お加減は如何ですか?」
荒巻大輔「相変わらずのご趣味のようですな。」
久保田「大目に見てやれ。原因は拘置所でのストレスだそうだからな。」
殿田「辻崎はどうした?あいつは一度も姿を見せんなあ。一番目をかけてやったのに恩を忘れおって、ごほっごほっごほっ」
久保田「記憶の混濁もある様だ。少し出よう。渡したい物もある。」
久保田「赤鬼一等陸佐と呼ばれた頃の面影は最早無いよ。お前再婚を考えた方がいいぞ。孤独な年寄りは惨めだ。」
荒巻大輔「墓迄持って行けん物は、抱え込まん事に決めたのでな。」
久保田「相変わらず気丈だな。」
荒巻大輔「で、渡したい物とはなんだ?」
久保田「ああ、これをな。」

バトー「実はマシャバの病院で、少佐に会った。」
トグサ少佐って、まさか!?」
バトー「始めは、そんな筈はねえと思ってた。だが、段々あいつが傀儡廻としか思えなくなって来てな。言い出すタイミングを逃しちまった。」
トグサ「マシャバを殺る所を見たのか?」
バトー「いや。だがアンプルを持ち出す所を見た。」
トグサ「はっ・・・」
バトー「過去にも、少佐が絡んで居そうな事件がある度に首を突っ込んじゃ居たんだが。俺はあいつなりに事件を解決に導いているんだと思っていた。だがこれは違う。」
トグサ少佐は、一体何をしようとしてるんだ?」
バトー「分からねえ。だが、カ・ルマの暗殺を企てたのは条約審議部だ。少佐は恐らくそこに居る。」
トグサ「!」

荒巻大輔バトーサイトーと二人で、大至急環状16号線に向かえ。最優先事項だ!
トグサ:課長、こっちも緊急事態です。9課に傀儡廻が現れました。
荒巻大輔:なんだと!?
バトー:親父、どうやら傀儡廻トグサ「まだ言わないでおこう。俺が行って確かめてみる。」
トグサ:課長。奴が動き出した以上、この件捜査再開ですよね?
荒巻大輔:そうなるな。
トグサ:了解です。で、そっちは?
荒巻大輔:今から2時間前、沿岸2区の監視網が、偶然にも国際指名手配犯の姿を捉えた。
バトー:ん?誰だそいつは?俺とサイトーって事は穏やかな相手じゃ無さそうだな。
荒巻大輔:元シアク共和国の特A級スナイパー、ラジ・プート中尉だ。
トグサラジ・プートって!たしか・・・
バトー「ん・・・?」
トグサ「入国していなかった一人か・・・」
サイトー:そいつは、カ・ルマの親衛隊長だ。シアク崩壊後は、中国に亡命していた筈だがな。
トグサ:このタイミングでの入国・・・何かありますね。
荒巻大輔:うむ。幸い、情報部で現在位置は確認している。二人で張り付き、その目的を調べろ。
サイトー:了解。
バトートグサ傀儡廻少佐だったとして、敵になったら」
トグサ「そんな事、考えたくないよな。」
荒巻大輔「この礼は、いずれ何かの形でな。」
久保田「うむ。」
荒巻大輔殿田大佐。今日は、これで失礼します。」
殿田「子は親に、ロボットは人に似ると言うが、お前は儂に似なかった。鳶が鷹を産んだようで嬉しいぞ。体だけは気をつけてな。」
荒巻大輔「有難う御座います。大佐も、ご自愛ください。」

バトー:奴は狙撃にどんな手を使う?
サイトー:俺と同じで鷹の目を使い、衛星を掌握してから決行ってパターンだな。
バトー:となると、GPSが使えなくなるのも時間の問題だな。
サイトー:その前に捕捉しておかないとな。
バトー:悪い。俺が面を確認する。
サイトー:気取られるなよ。

バトー:確認した、間違いねえ。奴だ。
サイトー:ん。

イシカワトグサ、子供の一人をIRシステムが捉えた。
トグサ:本当か?場所は?
イシカワ:港北公営団地の敷地内を歩いてる。
トグサ:家から近いな。よし、俺が行ってみる。
イシカワ:県警にも連絡しておく。こりゃあ、2万の誘拐も、再調査だな。
ボーマ「はあ・・・」
トグサ:そうだな。
トグサ「くそっ、少佐の件は後回しか・・・」

中村傀儡廻か・・・言い得手妙だな。先程公安9課から、傀儡廻なるハッカーに心当たりがないかと言う問い合わせがあった。知らんと、答えておいたがね。で、話とは?」
女「ギャラを、返上しに来たの。」
中村「内としては任務を完遂していれば、何をやっていようが構わんがね。」
女「悪いけど、もう消えるわ。」
中村「では、ネットの呼び出しチャンネルは開けておこう。いつでも・・・ん・・・?これも傀儡か・・・惜しいなあ・・・いい腕をしているのに。」

バトー「開けて来やがったな。にしても、奴は今頃になって何しに来たと思う?」
サイトーカ・ルマの報復にでも来たんじゃねえのか?」
バトー「話としちゃあ道理だが、奴はその情報をどうやって掴んだ?俺達でさえ知り得たかどうか分からん情報だぞ。」
サイトー「そうだな。」
バトー「いつ迄ドライブしてやがるつもりだ。」
サイトー「そういえば、ここからも見えるな。」
バトー「ん・・・?ありゃあ・・・」

イシカワトグサ、子供がL25号棟の602に入った。分かるか?
トグサ:ああ、勝手知ったるご近所って奴だ。

トグサ「!」
トグサ「!」
トグサ「んん!?はっ・・・!」
トグサ貴腐老人。」
子供「んん・・・」
老人「返せ!その子には、全財産を投資している。国に取られる位なら、誰かに相続させた方が増しだ。放っておいたらどの道、虐待で死んでいた子供だ。これは、ソリッド・ステートに住む者達の総意であり、ささやかな義務、いや、全うな経済行為だ。お前も自殺したく無ければ、我々の社会に関わるな!警告はしたぞ・・・」

バトー「やっぱりあそこに狙撃対象が居るって感じだな。」
サイトー「ああ。」

トグサ電脳を切って、見張りを付けておいてくれ。」
婦警「了解しました。」
介護スタッフ「心停止確認済みです。義体の廃棄と、システムの回収をお願い致します。」
回収職員「廃棄?おかしいな、誰か家族居なかった?データには6歳の子供が居るってなってるんだがなあ・・・記録ミスかな?仕事が増えるよりかいいけど。」
トグサ(記録ミス・・・?いや違う。俺が助けたからだ・・・と言う事は、もし俺がここに来なくても、あの子は無事保護される様にルーチンワークが組まれていた・・・?はっ・・・!」
トグサ「特殊工作員達の自殺・・・消えた子供達・・・貴腐老人・・・ソリッド・ステートに住む者達の総意・・・いや・・・そもそも、ソリッド・ステートとは、何の事だ?あの老人は一体何を・・・ん!?」
トグサ「俺だけど?」
トグサの妻「良かった!やっと繋がった!貴方、急いで帰ってきて!お姉ちゃんが、居なくなっちゃったの!」

バトー「間違いねえ。追うぞ!」
サイトー「待て!」
バトー「くそっ、光学迷彩か。」
サイトー「むっ!?」

トグサ「どういう事だ!?」
トグサ「GPSが切れてる・・・傀儡廻!?でも、あの子はまだ、電脳化はしてないんだぞ!」

サイトー「奴の使っている衛星の特定を頼む。姿を見失っちまった以上、奴が狙撃に入る瞬間が、最初で最後のチャンスだ。」
バトー「衛星はなんとかなるが、奴自体はどうやって見つけるんだ?」
バトー「ん・・・?」

サイトー「この範囲だな。ここなら、こっちの存在も知られるが、奴の居場所を特定出来る。」
バトー「こいつを着ろ。姿を晒す事になる。」
サイトー「時間が惜しい。先手を取れれば、俺の勝つだろう。」
サイトー「始めよう。」

バトー「あった。」
サイトー「回してくれ!」
サイトー「これが奴の標的か。」
バトー「位置を逆探した。」
サイトー「SE37。」
サイトー「あそこか!データを逆流させろ!」

ラジ・プート「なっ・・・!俺を狙っているだと!?」

バトーサイトー!」
サイトー「仕留めたか!?」
バトー「待ってろ!確認して来る!」

トグサ「早く来い!」
トグサの娘「あれ・・・?パパ?」
トグサ「!」

サイトー:どうだ?
バトー:自分の腕を信じろよ。

サイトー:そうか・・・

バトー「よおし・・・おい、お前が狙ってた男は誰だ?何故あいつを狙った?」
ラジ・プート「将軍の、敵討ちだ。貴様ら日本人は、全員ぶっ殺す。」
バトー「敵討ちだと?ふざけた事言ってるんじゃねえ!その情報はどっから手に入れた?」
ラジ・プート「二重スパイからの情報だ。将軍を殺した黒幕を教えるから、そいつを殺れと言って来た。」
バトー「その二重スパイの名は!?」
ラジ・プート「外務省に出入りしている、宗井と言う代議士だ。」
バトー:親父、急いで宗井って野郎を押さえてくれ。それとラジが狙っていた男の映像だ。どうやらカ・ルマ暗殺の黒幕らしい。
荒巻大輔:ん?確かこの男が代議士の宗井仁の様だが・・・
バトー:んん・・・!?
バトー「どういう事だ。お前の狙っていた男が、お前に情報を教えた張本人だぞ?」
ラジ・プート「知るか。だとしたら、自殺でもしたかったんだろ・・・」
バトー「自殺だと!?おい、もしかして、お前も傀儡廻に操られてるんじゃねえのか?」
ラジ・プート「ああ・・・!くそっ・・・かもな・・・へっ、奴が人間なら真っ先に殺ったのに・・・俺迄廻されてりゃ、世話ねえぜ・・・」
バトー傀儡廻は、人間じゃねえのか?」
ラジ・プート「あれはソリッド・ステート内にあった、誘拐のインフラの事だ。」
バトーソリッド・ステート!?おい!そりゃ何の事だ!?」
ラジ・プート「知らんのか・・・介護ネットの事だろう。この国は民主国家のくせに、政府が子供をさらってるんだからな、へっ・・・笑えるぜ・・・げほっげほっ・・・」
バトー:親父、救護班とヘリを頼む。それと、宗井って野郎の裏を洗ってくれ。どうもおかしい。
荒巻大輔:分かった。

トグサの妻「で、結局、連絡を入れた後ですぐに見つかったの。朝から隣の家に行ってたみたい。」
トグサの娘「ん?」
トグサ「そうか・・・まぁ、何も無くて良かったよ。ママに黙って出かけちゃ駄目だぞ。」
トグサの娘「うん!」
トグサ「よし、俺が送ってやる。そのまま戻らなきゃならないしな。」
トグサの妻「いいの?疲れてそうだけど・・・」
トグサ「顔見たら、元気が出たよ。」
トグサの妻「そう?ならいいんだけど・・・」

トグサの娘「行ってきまーす。」

トグサ「ん?なんだい?」
トグサの娘「ふふっ、何でもない。」
バトートグサ!こっちはラジ・プートを押さえたが、どうやらこの山にも傀儡廻が絡んでるな。
トグサ:て事は、少佐が・・・
バトー:うむ・・・だが、少佐傀儡廻じゃあねえのかもしれねえ。
トグサ:!?
バトーラジ・プートは、傀儡廻を介護ネット内にある誘拐のインフラの事だと言ってるんだ。
トグサ:誘拐のインフラ?
バトー:ああ。しかも介護ネットをソリッド・ステートと呼び、政府の関与を臭わせていた・・・実は、少佐に会ったときソリッド・ステートに近づくなと言われた。始めは、ソリッド・ステート、イコール素子、つまり少佐に近づくなって意味かと思って居たんだが、ありゃあ介護ネットに近づくなって意味だったんじゃねえかなあ?恐らくカ・ルマ達は、それを見つけ流用しようとしてパージされた。
トグサ:成る程・・・
トグサ「ん?」
トグサの娘「ママからだ・・・」
トグサ:ちょっと待ってくれ。
トグサ「もしもし?」
傀儡廻「警告を無視したな・・・」
トグサ「ん・・・!?おい!」
トグサの娘「ん?」
傀儡廻「代わりにお前の娘を貰う。」
トグサ「!?」
バトートグサ!どうした!?
バトーイシカワトグサの現在位置は分かるか!?
イシカワ:ん?調べりゃ分かるが、どうした?
バトートグサ電脳をハックされてる!
トグサの娘「パパー、この道違うよ?」
トグサ:くそっ、お前は傀儡廻なのか?子供達をさらって何をするつもりなんだ!?2万人の子供達は何処に消えた!?
傀儡廻:私達は、理不尽に損なわれてしまうゴーストの再利用をしているだけだ。その一部始終をお前に追体験させてやろう。
トグサ「!?」
イシカワバトートグサの現在位置を特定した。港北ニュータウン内の電脳施術病院だ。

トグサ:成る程。実の親が子供を病院に連れて行けば、医師は何の疑いもなく、電脳手術を行うだろうな。そして子供の記憶を上書きし、老人の家迄送り届け誘拐は完了。その後、俺の記憶は消され、子供は居なくなっているって寸法か。
傀儡廻:記憶の変質を悲しむ必要はない。現代社会において記憶の改竄は、無意識下で絶えず起こっている。その確率は既に交通事故に遭うよりも高い。
トグサ「!」
トグサ「!?」
トグサ(選択の余地はあるって事か・・)

バトー「あれか!」

トグサ(お前達に、娘は渡さない。)
トグサ「いいかい?これからパパが言う様に出来るかな・・・?パパが手を離したら、一生懸命走るんだ。」
トグサの娘「走るの?」
トグサ「そうだ。運動会みたいに、パンって音がするから、そしたら一気に走るんだ。途中で絶対立ち止まっちゃ駄目だ。それに、後ろを振り返ってもいけない。出来るね?」
トグサの娘「うん・・・」
トグサ「じゃ、目をつぶって。」
トグサ(ごめんな・・・さよならだ・・・)

バトー「くっ・・・!」
バトートグサトグサ「愛してる・・・」

バトートグサ!」
バトー「!」

草薙素子マックスムサシバトー「大丈夫だ。心配ない。」
トグサ「んん・・・!はっ・・・」
トグサ少佐!?」
草薙素子「ぎりぎりのタイミング迄引っ張ってしまった。すまなかったな。」
トグサ傀儡廻は、少佐じゃなかったんですね。今迄何処に・・・?」
トグサの娘「パパぁ・・・」
草薙素子「9課を離れてから、一人ネットを彷徨し、組織的方法論では対処出来ない事件に、密かに介在して来た。その途上でこの誘拐事件を発見し、独自の捜査を続けていた。」
バトートグサを囮にする様な真似しやがって!家族が犠牲者になるとは考え無かったのか!?」
草薙素子「もちろん保険は掛けてあるわよ。お陰で傀儡廻の正体を特定出来た筈だ。」
バトー「ん!?傀儡廻は、介護ネット上のシステムの事じゃねえのか?」
草薙素子「システムと言うより、介護ネットに繋がった、老人達の総体と言った方がいいだろうな。だがそれとは別に、それを束ねるハブ※9電脳が存在する。」
バトー「ハブ電脳?」
バトー:おい、あれって・・・!?
草薙素子:ネットを漂流していたデータから組み上げたの。
マックス:あ、バトーさん!お久しぶりです。
ムサシ:お元気そうで何よりです。
草薙素子:老人介護システムには、設計当初からバックドアが作られていた。見ろ。これが老人の総体が織り成す、リゾーム※10の全容だ。リゾームに中心と言う概念はない。だからハブは絶えず移動、もしくはリゾームその物であるかの様に振舞っている。
バトー「状況は分かったが、そのハブ電脳の正体は。」
草薙素子マックスムサシ、捜査結果を・・・どうした?
マックス:それが・・・大変申し上げにくいのですが・・・
草薙素子:失敗したのか?
ロキコナン?:で、でも、現在位置は特定出来ました。
草薙素子「ふぅ・・・で、その場所は?」
ロキコナン?:老人介護システムの中枢が置かれている、聖庶民救済センタービルです。

9課オペレーター「到着しました。ロックを解除します。」
荒巻大輔「久しぶりだな、少佐。」
草薙素子「そうね。でも再開を喜ぶ言葉が見つからないわ。」
荒巻大輔「何故、戻る気になった?」
草薙素子「その話、後にしましょ。今は傀儡廻を押さえる事が先決よ。」

草薙素子宗井仁、衆議院議員。何故奴が狙われたのかが、傀儡廻の正体を見極める唯一の手掛かりだ。」
荒巻大輔「奴は以前から、純血の日本人による支配階級を形成する事を公約に掲げていた、反動保守のナショナリスト※11だ。外務省にも頻繁に出入りし、条約審議部との繋がりも強い。」
草薙素子カ・ルマ暗殺にも関与していたわ。」
トグサ「と言う事は・・・少佐草薙素子カ・ルマの暗殺を形だけの物にする為に、条約審議部と契約した。けど傀儡廻に先を越されてしまった。」
バトー「偽装のみがお前の仕業って事か?」
草薙素子「そんな所ね・・・」
荒巻大輔「ふむ・・・更に宗井は、聖庶民救済センターの管理運営に関する指導的立場に収まって居る事も分かった。」
バトー「何のメリットがある?ここは老人介護と職業訓練を提供する為の福祉施設だろう。」
荒巻大輔「うむ。しかし一部の政治家の肝入りにより、表向き財団法人としながらも、その実態はパワーエリート※12の養成機関になっている様だ。」
草薙素子「いわゆる洗脳工場って事ね。」
バトーラジ・プートが政府の関与をほのめかしていたのは、その事か。」
草薙素子「誘拐された子供達が、一旦ここに集まる仕組みになっていたとすると。宗井がここを洗脳工場にした事自体が、傀儡廻にとっては問題って訳ね。」
トグサ「課長、強制捜査に踏み切っては?まずは子供達を見つけ出す事が先決です。」
バトー「だが突入はスキャンダルになる。そうなった時、火の粉を被るのは糞っ垂れの政治家だけじゃねえんだぞ。」
草薙素子イシカワ。状況は?
イシカワ少佐か。ふっ、今更帰って来やがって、ったく。HC25型洗脳装置の設計図に基づく機材の大量搬入の証拠は見つけたが、突入の根拠には弱いぞ。
草薙素子:中の映像は?
イシカワ:拾えたのは労働区画のみ。
プロト:教育区画の防壁は、巧妙な疑似体験迷路になっていて、とても侵入出来ませんでした。
バトー:難民だけだな。
草薙素子「さらった子供はやはり教育区画か・・・となると誘拐のインフラは、ここを作る計画段階で既に組み込まれていた。でなければ一介の政治家に、ここ迄大胆な国策を弄せるとは考えにくい。」
荒巻大輔「プロジェクトの根幹に関わっていた者の中に、傀儡廻が居たと言う事か?」
バトーイシカワ。デコイを使ってハッカーの潜入を演出しろ。俺が潜る。
バトー「最悪の場合、これで言い訳が立つ。お前とトグサが残れば、9課は存続出来る。」
トグサバトー。そういうのって嬉しくないぜ?」
草薙素子「それで今度はお前が引退か?心遣いには感謝するが、私は奴の正体を掴む為だけにここに来た。確かに汚れ仕事を引き受ける人間は必要だ。なら今の私に失う物は何もない。課長、悪いけど突入するわ。傀儡廻は宗井を消すチャンスを待っている。今を逃したくないの。」
荒巻大輔「だがどうやって傀儡廻を見つけ出す。奴の正体はまだ見当も付かんのだぞ?」
草薙素子「委ねて見るわ、ゴーストの囁きに。」

タチコマA「うわぁ・・・」
タチコマB「照れますねえ。」
タチコマA「いやぁお久しぶりですどーもー。」

イシカワ「いよし・・・」

草薙素子:いくぞ!
ムサシ?「やっぱり物理的身体があると疾走の爽快感違うね。」
タチコマA「そうかな?僕はまだ関節が馴染まないや。」
警備サイボーグA「いつもの攻撃の様だが反応が妙だ。一応警戒態勢を取れ。」
警備サイボーグB・C「分かった。」
イシカワ「同業のプロか。おっと。なら、お互い納得尽くだな。」

宗井「また検察のハッキングか?無駄な事を。」
宗井「視察に向かうぞ。」

草薙素子パズボーマは退路を確保しろ。
パズ:了解。

警備サイボーグC「!」

警備サイボーグB「ぐあっ!」
警備サイボーグB「くっ・・・何者だ・・・?」
パズ「知ってどうする?無駄に死ぬ事になるぞ。」

警備サイボーグA「ん・・・!?通信が途絶えた・・・」
タチコマA:警備サイボーグです。
トグサ少佐、先に行ってください。

警備サイボーグA:中に入ったヤツは終わりだ。思考戦車を追う。
警備サイボーグD:分かった。

警備サイボーグD「ぬん!ぐぅっ・・・うっ・・・」

草薙素子(警告なしの発砲。やはりここは政府の最重要施設か。)

タチコマB:追ってきますね。
トグサ「それでいいんだ。」

警備サイボーグA「熱も影もない。京レの隠れ蓑か、となると。」
トグサ「情報古いぞ。」
警備サイボーグA「!」
トグサ「3302式は隠れ蓑とは呼ばない。」
警備サイボーグA「くっ・・・むっ・・・くそっ・・・!」

バトー「なぎ払え。」
ムサシ?「ラジャー」

草薙素子「バックアップを。もう少しでシステムを制圧出来る。」
バトー「任しとけ。いつだってそうして来ただろう。」
草薙素子トグサ!今何処に居る!?
トグサ少佐、ビルの壁面からアプローチしてます。
草薙素子:よし、そのまま屋上迄行って、課長と合流しろ。子供達の居場所を見つけた。

草薙素子「行くぞ。」

トグサ「宗井議員、公安9課です。ここの状況は確認させて頂きました。この様子ですと、大規模な強制捜査は避けられそうにありませんね。」
宗井「公安?ここは非公式ながら政府の最重要機関だ。公安如きが要らぬ正義感で、ちょろちょろして良い場では無い!」
荒巻大輔「議員、お言葉ですが、ここの現状を見る限り、明らかに我々が介入するべき事態だと言わざるを得ませんな。」
宗井「公務員のくせに、この国がどれだけ危機的状況にあるのか、理解していない様だな。今のままではそう遠くない未来に、我が国の繁栄は他民族に取って代わられる。それを防ぐ為に、この身寄りの無い子供達に税金を掛け、教育を施し、国の将来を託す。その何処に問題があると言うのかね?」
荒巻大輔「その税金も、老人や難民をここに繋ぎ止める事で搾取した金でしょう。」
宗井「それも仕方あるまい。考えてみろ。彼等はこの国の為に何をした。家族も子供も作らず、納税の義務を果たさず、自分の好きな様に生きて、歳を取ったから面倒を見てくれでは、虫が良すぎる。私に言わせれば、歳を取った分、働けなくなった分納税しろと言いたい。」
荒巻大輔「詭弁ですな。なら貴方方政治家は、今迄何をしてきたのか。自らの保身、虚栄心を優先する余り、実問題を後回しにしてきた責任は誰が取るおつもりか?」
宗井「私がその責任を取っていると自負している。」
荒巻大輔「人権を無視し、電脳倫理を侵害してもですかな?」
宗井「それも止むを得ん措置だと思っている。」
荒巻大輔「強気ですなあ。」
トグサ少佐、子供達の数を調べましたが、2万には足りません。精々3千人強。
草薙素子:そうか。回線を自閉モードに。
トグサ:了解。
草薙素子「議員、このセンターには子供の誘拐をオートマチックに行うシステムが組み込まれている事を、ご存知でしたか?この子供達は孤児ではない。大半が誘拐された子供です。我々はその誘拐事件を追ってここ迄来た。貴方もその誘拐事件の重要参考人です。」
宗井「このプロジェクトを指揮して来たのは私だが、そんなバグを組み込んだ覚えはない。」
草薙素子「では、システムを考案した者に事情聴取を。」
コシキ・タテアキ「私が、ソリッド・ステート・システムの基本概念を作りました。」

官僚達「おぉ・・・!?」
草薙素子「くっ・・・」
官僚達「おぉ!」
官僚達「うわぁ!?」
草薙素子トグサ!全員を拘束しろ!」
トグサ「了解。」
草薙素子バトー。こいつの記憶が意味消失する前に電脳に潜る。バックアップを!間に合え!」
草薙素子バトー、繋がってる?
バトー「ああ、出力増幅するぞ!」
草薙素子「記憶野が見えてきた、でもアウトプットが落ちてきてる。バトー、奴の出力、上げられる?」
バトータチコマを経由してみる。一旦戻れ!」
草薙素子「そんな暇ないわ。私が見えるか?傀儡廻!」
草薙素子:私が見えるか?傀儡廻傀儡廻傀儡廻・・・?
草薙素子貴腐老人達のリゾームを束ねていたハブ電脳だ。
傀儡廻:ああ・・・
草薙素子「右視覚野に侵入。サケード※13停止。腰微動」
バトー「おい、どうした!?」
草薙素子バトー、こいつを私の言語野に繋ぐぞ。」
バトー「無茶するな!一旦戻ってもう一度潜り直せ!」
傀儡廻:お前には礼を言わなければならない。宗井はソリッド・ステートにとって最大のネックだったからな。何度かパージを試みたが、何せ彼は電脳化を嫌う古いタイプの人間だからね。
草薙素子:お前は一体何者だ?何の目的で子供達をさらっている?
傀儡廻:何者かはさて置き、動機は宗井と同じかもしれない。
傀儡廻「この国はいい加減、誰かが何とかしなければいけない状態に来ている。600万を超える貴腐老人、失業率の増加と反比例する様に減少を続ける労働人口、そして少子化。挙げ始めたら切りが無い。知っているか?これだけ少子化が叫ばれる中、年間5万人もの6歳未満の子供が無意味に命を落としている事を。その内の三割は、ドメスティックな暴力による虐待死、しかも内の八割は」
バトー「どうだ、やれるか?」
ムサシ?「やって見ます。」
傀儡廻:児童相談所や警察等、関係機関が自体を把握していたにも関わらず、防ぐ事が出来なかった物だ。この国のシステムは既に崩壊し、個のポテンシャルは著しく低下してしまっている。
バトー少佐ぁ!
バトー「これ以上続けると、こいつの死と同時にお前も意味消失しちまうぞ!」
傀儡廻「そこで」
傀儡廻:私は無意味に損なわれてしまうゴーストのリサイクルを思いついた。虐待監視ネットから危険な子供を見つけ出し、戸籍をロンダリングする。それで新しい人生を歩ませようと考えた訳だ。
草薙素子:それがソリッド・ステート・システムの基本概念か。
傀儡廻:そうだ。だがそれには貴腐老人達の協力は不可欠だった。彼等は自分達の存在意義を見出す事に対しては貪欲だ。DNAを残せなかった代わりに、記録上のポスティリティ※14を作り、財産を譲り渡す。それで資産を国に没収される事なく、経済行為に加担し続ける事が出来る訳だ。彼等は喜んで賛同してくれた。
草薙素子:それって犯罪行為って分かってる!?
傀儡廻:ああ。だが結果を優先した場合、それは止むを得ない選択だった。危機的状況にある子供を、一刻も早く救う事の方が先決だったからだ。それで自分の人生を棒に振ったとしても後悔は無い。いや寧ろ官僚になった意味があると言うものだ。あとはソリッド・ステート・システムが永久機関となるよう、構造を強化してやればそれで良かった。
草薙素子「だが、システムに介入してきた者達を次々にパージした事が、計画の発覚に繋がった。」
傀儡廻「死期が近づいていた者の気持ちを思えば、止むを得ない対応だった。」
草薙素子カ・ルマは分かるが、宗井は?何故?」
傀儡廻「子供を拘束してしまったからだ。折角新しい人生を歩ませようと言うのに、洗脳エリートにしたのでは意味がない。教育は必要だが、野に放たなければ強い意志は芽かない。それが宗井と私の齟齬であり、彼を排除しなければならなかった最大の理由だ。だが今度はお前達迄現れてしまった。それでも私の作戦は、今の所順調に推移している。」
バトー「!」
傀儡廻ハッキング出来なかったお前の電脳に、有線する事に成功した訳だからな。
バトー少佐!ぐっ・・・!?」
荒巻大輔「むっ・・・?」
草薙素子:私を誘い込む為に自殺を・・・!?
傀儡廻:お前は手強い。だが一旦思考迷路に取り込めば、9課も同時に排除出来るだろう。
草薙素子:驚いたわね・・・考え方は傲慢で独善的だけど、官僚にしておくには惜しい程の働き者。そして私の事を知っている・・・お前はいったい誰だ・・・!?
傀儡廻「まだ分からないのか?草薙素子。これ程身勝手な正義感を持ち合わせている人間は、お前の記憶の中にもそうは居ない筈だ。」
草薙素子「!」
傀儡廻「今迄多くの意思と並列化をして来たんだ。集団的深層無意識が一人歩きし初めても、おかしくはない。これでソリッド・ステートは完成する。我々は消滅する媒介者となって、次のソサイエティに介入して行こう。」

草薙素子「!」
草薙素子「何も見えないわ。誰か状況を説明して。」
バトー「やっと目覚めたか。」
草薙素子バトー、居るの?状況は?ここは何処だ?」

トグサ「で、結局。子供達の処遇はどうなったんです?」
荒巻大輔「うむ。ひとまず、本当の親の所に返す事になる様だ。」
トグサ「記憶が書き換えられていても、虐待の事実が分かっても、やっぱりその方がいいんですかね・・・?」
荒巻大輔「その答えを、現段階で出せない所が行政の限界なのかもしれんな。」
トグサ「洗脳教育を受ける前に里親が見つかって、ここを出て行けた子供達はどうなるんです?」
荒巻大輔「それも、個々の状況に伴った、いささか複雑な裁判の結論を長らく待つ事になるだろう。」
トグサ「課長。俺達の出来る事って、何なんですかね・・・?」
荒巻大輔「一つだけ言える事は、我々は自らを律するルールの中で、不条理に立ち向かって行くしか無いと言う事だ。」
トグサ「願わくば、成長した彼等が、将来個のポテンシャル※15を上げて、我々の出せない答えを見つけ出してくれる事を、祈るばかりだ・・・」

草薙素子ソリッド・ステート・システムって、考えてみれば、随分皮肉な名前よね。」
バトー「老人の電脳をトランジスターに例える※16なんざ、如何にもお堅い役人の発想って感じだな。にしても、傀儡廻の正体には驚かされたぜ。」
草薙素子「どういう事?」
バトー「お前が奴の死と共に意識を失っていた間に分かった事なんだが、あの官僚、実は二年前に死んでいたんだ。名前はコシキ・タテアキ、33歳。一族皆官僚と言う家系に生まれ、幼少よりエリート街道を歩む。大学卒業後すぐに総務省に入省。だがなんの目的意識もなく官僚になった為か、すぐに挫折し登庁拒否に。電脳スキルが高かった事から、リモート義体による登庁を許され、以後は淡々と業務をこなして居たそうだ。そして二年前その能力を買われ、厚生総務両省を統括して行われた宗井のプロジェクトに参加すると。途端に例のシステムを企画開発してしまったそうだ。だが問題は、奴の存在が余りにも希薄だった所にある。それだけの仕事をしておきながら、その間に奴が自宅で病死していた事を誰一人気付かずに居た訳だからな。お陰で傀儡廻に関する情報も、永久に謎って事になっちまった。」
草薙素子「奴のリモート義体を利用して、誰か全く別の人間が事を起こしていたって事かしら?」
バトー「かもしれない。寧ろその可能性の方が多分にある訳だが、奴と総体化していた老人達にしても、その行為は共同体無意識によって引き起こされていた訳だから、それを確かめる術は、最早無いって事さ。」
草薙素子「そ・・・」
バトー「但し、タチコマが記録していた、お前とコシキの会話を除いてはな。」
草薙素子「それ、残ってるの?」
バトー「残ってる筈なんだが・・・奴等コシキの意識が消えたと同時に、記録の一切が意味消失したと言い張ってる。」
草薙素子バトーはその会話、聞いてたの?」
バトー「さぁな。今となっちゃ、そんな事はどうでもいいだろ。爺さん達の事も、虐待を受けていた子供達の事も、これで幾らか解決に向かう筈だし。傀儡廻が誰なのか特定出来なくても、この事件の一応のけりは付く。」
草薙素子「一部の暴走した政治家のスキャンダルとして・・・?不思議ねバトーバトー「ん?」
草薙素子「私は何に達観していたのかしら?何を探してネットを彷徨って居たんだと思う?真理、知己、それとも特定の誰か・・・もしかして自分の非力さを、組織やシステムのせいにしていただけなのかしら?」
バトー「なあんだ。随分としおらしいじゃねえか。色々やって気が済んだか?で?これからどうする?また個人的推論に則った事件への介入って奴を、一人で続けてくつもりか?」
草薙素子「それも限界かもね・・・規範の中に居る時は、それを窮屈と感じるけど、規範無き行為はまた行為として成立しない。結局堂々巡り。」
バトー「なあんだそりゃ?そりゃつまり9課に戻るって事か?」
草薙素子「でもトグサはどうかしら?彼の成長を妨げる事にならない?」
バトー「それで伸びねえ様なら、それがあいつの限界だ。お前が心配する事じゃねえ。」
草薙素子「そうかもね。」
草薙素子バトー。それにしても、ネットは広大だわ。もう既に、私達の知らない次の社会が生まれ始めている・・・」


脚注
※1:一時的に身体能力を飛躍させることができる麻薬。義体化している者が極めて少ないシアク共和国では、この麻薬によって肉体改造を行っていた。
※2:backdoor 不正侵入を行う為の裏口。カ・ルマは外部との通信を遮断され監禁状態だったがバックドアを通すことにより外部との連絡を取り合っていた。
※3:gross 数量の単位。1グロスは12ダースで、144個。記号はgr。
※4:人為的過誤や失敗の事。
※5:白ワイン用品種のブドウにおいて、ボトリティス・シネレア(Botrytis cinerea)と言う菌(カビ)が果皮に感染する事によって糖度が高まり、芳香を持つ様になる現象。
※6:bluff 虚勢。はったり。
※7:purge 除く、追放するの意。
※8:flat 陸屋根。
※9:hub コンピューターシステムで、複数の端末を集めて連結する中継器。減衰した電気信号を復元する機能等を持つ。集線装置。
※10:rhizome 現代思想で、相互に関係のない異質なものが、階層的な上下関係ではなく、横断的な横の関係で結びつくさまを表す概念。幹・枝・葉といった秩序、階層的なものを象徴する樹木(ツリー)に対していう。フランスの哲学者ドゥルーズと精神科医ガタリが共著「ミル・プラトー」で展開した概念。
※11:nationalist ナショナリズムの信奉者。民族主義者。国家主義者。国粋主義者。
※12:power elite 一国の政治・経済・軍事等の頂点に立ち、国家の政策に決定権を有する人々。米国の社会学者C.W.ミルズが用いた。権力エリート。
※13:saccade 眼球の素早い動きの事。
※14:posterity 後代、後世、子孫、後裔。
※15:potential 可能性、潜在性、潜在力、能力、素質、効率。
※16:トランジスターはソリッドステートデバイスとも呼ばれる為。

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