the Cat Met with Special Boxes.

緑の座

みどりのざミドリノザ

粗筋

人里離れた山奥に住む、神の筆で描いたものをすべて具象化させてしまう能力を備えたそんな少年がいる。
その少年の元に、蟲師ギンコが訪れる。
少年の家で会った少女はいったい何者なのか?


登場人物

用語

セリフ

およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群を、ヒトは古くから畏れを含み、いつしか総じて「」と呼んだ。

五百蔵廉子「誰か来る。」
五百蔵廉子「なんか妙な奴が来る。」
五百蔵廉子「誰か来る。」

ギンコ「なんか、今いたな。」
ギンコ「猿かね?」
ギンコ「しかし、緑が異様なくらい鮮やかな所だな・・・ここは。」

緑の座

生来、緑や水、生命を呼ぶ体質とでも言うのか、そういうものを持つ人間が、稀にいる。

五百蔵しんら「おー、左手でも文字なら大丈夫だな。」
五百蔵しんら「えっと、日差しも徐々に和らぎ、木々は萌え、鳥も・・・」
五百蔵しんら(元々左が利き手だし、書き易いなー。)
五百蔵しんら「はっ・・・」
五百蔵しんら(しまった・・・そうだったか・・・これらの文字は元々絵なのだ。象形文字という奴。)
五百蔵しんら(これらはこれでいいとして・・・)

五百蔵しんら「おーい、こら鳥ー!」
ギンコ「なんだこりゃあ?」
五百蔵しんら「勝手に外に出るんじゃなーい!」
ギンコ「墨?」
五百蔵しんら「あっ・・・み、見た・・・?」
ギンコ「あぁ、そりゃあもうばっちりと。君、五百蔵しんら君?」
五百蔵しんら「えっ・・・はぁ・・・」
ギンコ「書簡読んでもらえたかな?」
五百蔵しんら「あっ、じゃあ、あなたが、蟲師の、ギン、コ、さん?」

五百蔵しんら「お断りの手紙を書いていたんです。これまでも、こういった調査の依頼は何度もありましたが、全て断って来ました。祖母の遺言なんです。僕のこの性質を広めてはならない。そして、できる限り眠らせておくこと。ご覧になったように、昔から僕が物の形を象ると、それは既存の生物でなくとも、生命を持つんです。でも、新たな生物を生み出すなど、人のして良い所業ではない、八百万の神々の怒りを受ける、と言って、左手で物を書くことを祖母に禁じられました。あっ、右手で書くと何も無いんですけど、こないだ指、怪我しちゃいまして、それでさっきの様な事に。」
ギンコ「なるほど、あれは脅威の造形物だった。」
五百蔵しんら「僕も驚いた。あんな物まで動き出すとは。今までも、散々妙な物動き出したりしたけど・・・」
ギンコ「へぇ、例えば?」
五百蔵しんら「こうもり傘とか、孫の手とか・・・はっ・・・調査はお断りします。」
ギンコ「ちっ」
五百蔵しんら「まっ、でもそのまますぐ帰れとは言いませんが。こんな山奥まで入ってくるのは大変だったでしょう?今晩はゆっくりしてってください。それに、実は人に会うの久しぶりで、世間話なら是非とも付き合って欲しいんですよ。」

五百蔵しんら「どうぞ。」
五百蔵しんら「僕が漬けた果実酒です。普段はここで一人でやってるんだけど・・・」
ギンコ「へぇー・・・こんな人気のない所に一人で住んでんのか。」
五百蔵しんら「4年前に婆ちゃんが死んでからは・・・婆ちゃんが、この家を出てはいけないと言ったから・・・」
ギンコ(確かに、もしこいつが里に住み、人前でうっかり何かを生み出してしまったら、こんな風に平穏には生かしてもらえんだろう。その性質は、あまりに人智を離れてる。)
ギンコ「婆さんてのは、なかなか賢明な人だったみたいだな。」
五百蔵しんら「うん。いつも、僕の事考えてくれてた・・・」
五百蔵しんら「だけど・・・これ、見てくれる?」
ギンコ「ん、お前が書いたのか?」
五百蔵しんら「うん。一人になると、時々そういうのがどこからか出てくるんだ。いつも、一体なんなんだろうと思っていた。僕は、それらを見るのが楽しくて、写生しては婆ちゃんに見せてた。けど・・・」

五百蔵廉子「お前はなぜ、こんな夢ばかり見ているのか・・・きっと、あんな恐ろしい力があるせいだ。こんな夢は忘れておしまい。恐ろしい・・・恐ろしい・・・哀れな子・・・」

五百蔵しんら「そう言うばかりで、僕の見ている物の事を、亡くなるまで信じてくれなかった。だから、僕自身ですら、本当は、自分はどこかおかしいのかと、時々思ったりした。」
五百蔵しんら「婆ちゃんと僕は、そこだけは分かり合えなかった・・・」
ギンコ「それは、これらが皆、だからだ。」
五百蔵しんら?」
ギンコ「ああ。昆虫や爬虫類とは一線を引くだ。」
ギンコ「大雑把に言うとこうだ。こっちの4本が動物で、親指が植物だとする、と人はここ。心臓から一番遠い中指の先端にいるって事になるだろう。手の内側に行くほど、下等な生物になっていく。辿っていくと手首あたりで血管が一つになってるだろう。」
五百蔵しんら「うん。」
ギンコ「ここらにいるのが菌類や微生物だ。このあたりまで遡ると、植物と動物の区別を付けるのは難しくなってくる。けどまだまだその先にいるもの達がある。腕を遡り・・・肩を通り過ぎる・・・そして恐らく、ここらへんにいるもの達を、、あるいは、みどりものと呼ぶ。生命そのものに近いもの達だ。」
ギンコ「そのものに近いだけあって、形や存在が曖昧で、それらが見える性質と、そうでないものに分かれてくる。」
五百蔵しんら「うん、透けてるのもいる。幽霊みたいに。」
ギンコ「所謂、幽霊って奴の中にも、正体はだという物もある。人に擬態できるものもいるからな。」
ギンコ「お前の婆さんにはそれらが見えなかったんだろう。感覚を分かち合うのは難しい。相手の触れたことのない手触りを、相手にそのまま伝えることができないように・・・」
ギンコ「見たことのない者と、その世界を分かち合うのは難しいさ。」

五百蔵しんら(でも婆ちゃん・・・僕はそのおかしなもの達が、この世界にいるってことが、嬉しくって堪らないんだよ・・・)

ギンコ(厠は、っと・・・)
ギンコ(しかしだだっ広い家だな、相当古いし。こんなとこよく一人で・・・)
ギンコ(今なんか横切ったな・・・まっ、この家にがいない訳が無いか。)
ギンコ(どこへ・・・)
五百蔵廉子「へぇー、ピンだ。そいつでを串刺しにして飾るのか?卑しい蟲師め。」
ギンコ「卑しい?」
ギンコに言われたかねぇよ。」
五百蔵廉子「なっ・・・なんだこいつ!?煙のくせに!」
ギンコだよ、お前と同じ。可愛い奴だろ。同胞には巻き付いて離れない。すぐ、消えるけどな。」
五百蔵廉子「はぁ・・・はぁ・・・あっ・・・!」
ギンコ「ほぉー。半欠けだが綺麗な色の盃だな。お前もこれで月見酒でもしてたのか?」
五百蔵廉子「うるさい、返せ。図々しく人の家上がり込みやがって。とっとと出て行け!」
ギンコのくせに偉そうな奴だな。人の家って、お前の家かよ?」
五百蔵廉子「ああ、そうだ。」
ギンコ「はぁー、成る程、そういうことか。お前は元々人だったのがの性質を持った類のものだろう。として不完全だからそんなに弱いんだな。緑の半欠けの盃、これでお前がそうなったのも見当が付く。お前が誰かって事もな。お前の名は、廉子だ。」
ギンコ「ここへ来る前に、しんらの事は調べさせてもらったからな。俺に、この盃を元に戻す案があるが、聞いてみるか?廉子婆さん。」

五百蔵しんら「婆ちゃんがまだ、この家にいる・・・?」
ギンコ「と言っても、無論人としてではないがな。人との中間のものとしてだ。」
五百蔵しんら「どういう・・・こと・・・?」
ギンコ蟲の宴、という現象がある。時にが人に擬態し、宴に客を招くってもんだ。人はそこで盃を手渡される。そして注がれた酒を飲み干すと、生物としての法則を失う。つまりの、あちらの世界の住人となる。」
五百蔵しんら「婆ちゃんが、それに?」
ギンコ「ああ。しかし宴は途中で中断されてしまった。お陰でお前の婆さんはにならずに済んだが、家に戻った婆さんはもう、以前の婆さんではなくなっていた。半分をあちら側に置いて来てしまったんだ。しんら、お前の知ってる婆さんは、半分でしかなかったんだよ。けどそのもう半分も同じ様に、お前が生まれた日からずっとこの家の中で見守ってたんだ。」
五百蔵しんら「そんな・・・全然気付かなかった・・・」
ギンコ「彼女は完全なではないから、お前には見えんのだ。だが、お前の力を使えば、婆さんを完全な虫にする事ができる。そうすればもう、決してこちら側に戻る事はできないが・・・どうする?」

五百蔵廉子「本当か・・・本当にそうすれば・・・しんらに合う事ができるのか・・・?」

ギンコ「婆さんの迷いは、そう長くはなかったよ。力を、貸してやれるな?しんら。」

五百蔵しんら「描くとこ見ちゃ駄目だよ。」
ギンコ「分かったって。じゃあしんら、さっきした婆さんの宴の中で、婆さんがに貰った盃を、左手で描いてみてくれ。」
五百蔵しんら「えっ、でも、どんな色とか形とか、聞いてないよ。」
ギンコ「いいんだ、それで。想像で描いてみてくれ。」
五百蔵しんら「想像・・・」
ギンコ「描けるはずだ。婆さんが受けた盃の半分は、子から孫へと体内に受け継がれて行くものだから。」
ギンコ(見るなって言われたら、見ん訳にはいかんだろう、やっぱり。)

五百蔵しんら「緑・・・の様な気がする・・・この国の、緑の様な、濃くて鮮やかな・・・それで、平たくて、丸い形。」
ギンコ「ご名答!」

ギンコ「すげー。」
五百蔵しんら「あっ、割れる・・・」
ギンコ「廉子。」
五百蔵しんら「そこにいるの?婆ちゃん。」
ギンコ「合わせるぞ。」

五百蔵しんら「なんだ、これ?」
ギンコ「さあ、飲んでみろ、廉子。」

五百蔵しんら「婆ちゃん・・・?」

ギンコ「何照れてんだよ?お前ら。」
五百蔵しんら「いやあだって、思ったより若かったっつーか・・・」
ギンコ「ほら、お前も行っとけ。祝の酒だ。」
五百蔵しんら「うん。」

五百蔵しんら(ん・・・?これは・・・婆ちゃんの記憶だ・・・)

五百蔵廉子「急がないと、日が落ちるな。」
五百蔵廉子「ん・・・?」
五百蔵廉子・・・?)

五百蔵廉子(列から出られない・・・)

「さあ、飲みなされ、五百蔵廉子殿。これはそなたの為の宴なのだ。」
五百蔵廉子(なんて芳しい・・・)
五百蔵廉子(一口飲む程に、物を考える力を失わせる。)
「お気に召されたかの?それは光酒という生き物。普段は真の闇の底で、巨大な光脈をつくり泳ぎ回っておるものだ。それを抽出する事のできるその盃を、特別にそなたの為に作ったのだ。それはこの世界、生命が生まれた時から流れ出で、それが近づいた土地は、草青み、命芽き、遠ざかれば枯渇する。つまり命の水。この世にこれより美味いものは無い。盃を交わし、最高のもてなしをしたのには、そなたに頼みたい事があるからだ。これより31年後に誕生する、そなたの孫は、生物世界を変える程の特異な性質を持って生まれてくる。そなたには生涯その目付けをして欲しいのだ。」
五百蔵廉子(私の、孫・・・)
「それがその子供とこの世界にとって幸福な事なのだ。それを望まれるなら、そなたに力を与えよう。さあ、残りの酒を全て飲み干されよ。」

五百蔵廉子(乾いてる・・・)
五百蔵廉子「帰らなきゃ・・・」

五百蔵廉子「しんら・・・?」
五百蔵しんら「あれ?どうしたんだろう?僕・・・」

しんらの涙は止まらなかった。廉子の感情、感覚がつぶさに流れ込んで来たのだという。ただ、ただ、盃が割れてしまった事が、悲しくて仕方なかったのだという。そして、それに感応する様に、光酒も盃から湧き続けた。止めどなく、流れ続けた。

五百蔵廉子「もう行くのか?」
ギンコ「凄いな。一面の苔だ。」
五百蔵廉子「ああ。昨晩、光酒が染み込んだ一帯だな。」
五百蔵廉子「しんらの調査とやらは諦めるのか?」
ギンコ「そうなぁ。面倒なお目付け役が復活しちまったからなぁ。」
五百蔵廉子「調査抜きなら近くへ来た時寄るといい。仕方がないとは言え、こんな所に一人ではしんらも寂しかろう。」
ギンコ「別に、その必要は無いんじゃないか?」
ギンコ「これからは、いつでもあんたが側にいるんだから。」

五百蔵しんら「あれぇ?ギンコはー?」
五百蔵廉子「もう行ったぞ。」
五百蔵しんら「なんだよー挨拶も無しに。」
五百蔵廉子「こっちも大した礼もしてないし、悪かったな。」
五百蔵しんら「いや、でも、緑の盃が無いけどね。」

それ以後、神の筆を持つ少年についての新しい噂は、ふっつりと途切れた。



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